表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リピート・アフター・ユー  作者: ステツイ
無人屋敷の名探偵
2/5

初解き

時間がかかってしまい、尻すぼみのした回です。温かい目で見て下さい・・・評価、コメント、ブクマお願いします!

「名探偵・・・?」

マユは探偵という職業の人物に出会ったことはなく、目の前の男に胡散臭うさんくささを感じていた。

探偵と言われ、彼を見直すと確かに探偵が着ていそうな恰好だった。

古ぼけた赤茶のマントからは煙草タバコの匂いがふわりと香り、鼻孔をくすぐる。

じろじろと見過ぎた所為せいか名探偵を名乗る男は先程と同様に目を細めながらマユに囁きかける。


可笑おかしいかい?こんな平穏な日常、しかも日本に探偵がいるのは」

「別に可笑おかしいとは思いませんが・・・」

マユは言いよどんだ言葉を口に出そうとは思わなかった。

胡散臭うさんくさいと言ってしまった場合探偵に対しての侮辱になると思ったからだ。

「そうだね、こんな私の事だからまた胡散臭うさんくさいとか思われていそうだね」

どこまで人の感情が読めるのか。

マユはその事について焦燥感を抱いた。

人は他人に自身の考えをことごとく読まれると不安や恐怖心を覚える。

それは自身の他人へ踏み込んで欲しくない領域に入られることに繋がるからだ。

勿論もちろん、マユも例外ではない。

だからこそ、マユはオーバーに探偵との体の距離を開けた。


「君は特段わかりやすいからね。私が特別なんかじゃないさ」

探偵は何かを失ってしまったかのような悲しい笑い方をした。

「さて、こうして出会ってしまったのも何かと運命だ。君には当分私の助手として働いてもらう」

「はえ?」

マユは自分でもビックリするくらい間抜けな声を出した。

それよりも何故自分が初対面である探偵の助手にならないといけないか不思議でしょうがなかった。

すると、探偵はおもむろに天井を指した。

「あっ・・・」

指先の方向を見ると自分が吊るしたロープ。

よりも、さらに上のロープを掛け固定した木製の柱が折れていた。


「老朽化が進んでいたのだろう。君の体重を支えるほど丈夫ではないみたいだ。れだけならいいのだが・・・残念ながらその木は値を張る一品でね。弁償・・・ってことになるが、君の貯金だけで払えるとも思わないんだ。つまりさ・・・ね?」

探偵はわかるな?と言わんばかりに青筋を立てている。

一方。マユは事の重大さに気が付くにつれて真っ青な表情になっていった。

「すいませんでしたっ!」

マユは誠心誠意込めて謝罪した。

すると、探偵はくるりとマユの方に向き直る。

「私は別に物を壊されて怒っているわけではないんだ。君さえ無事であれば良かったんだよ」

マユは再び探偵の悲しい顔を見た。

しかし、気が付くとマユは探偵の頬に向け手を伸ばそうとしていた。

自分が守ってあげないと壊れてしまいそうな表情を、そっと抱きしめるように。

しかし、それは自分の役目ではないと思いマユは手を降ろした。


まだ数十分の出会いだがマユは探偵さんは優しい人ではないかと思い始めていた。

自分の為に怒ってくれて。

自分の為に悲しんでくれて。

他人の分まで悲しんでくれる様な人だと思っていた。

自分が此処ここまで他人から興味を持たれるの何時いつぶりだろうか。

悲しい感情とやわらかく暖かな感情がせめぎ合っていて、探偵の暖かな言葉が脳内で反芻はんすうしていた。



「早速だが初仕事と行こうか」

探偵はマントをなびかせ、煙管キセルに火をつけた。

彼はマユに手首をクイッとし、ついて来いとハンドサインを送った。

彼女もまた無言で後を追う。

マユは何故なぜ既視感デジャヴに駆られたが悪い気はしなかった。

むしろ、久々に実家に帰ったような懐かしい気持ちになっていた。

「さて此処ここが私の仕事場。と言っても書斎に書類等を置いているだけなんだがね」

ゆらゆらとした紫煙は探偵の呼吸に合わせ途切れる。

探偵は椅子に座り、机の上の灰皿にコツンと吸殻を捨て、机の引き出しから数枚綴つづりになっている書類を取り出した。


「今回、調べるのはれだ。目を通しておきたまえ」

探偵は一枚ずつ机の上に広げ見やすいようにしてくれた。

マユは前屈まえかがみになって書類を見た。

「自殺・・・ですか?」

先程、自分が行ったというのもあり嫌悪感でいっぱいになっていた。

「はて、果たして本当に自殺なのだろうか。今回の依頼はのことについて調べる」


「・・・という事は他殺の可能性もあるんですか?」

マユは探偵の言い回しを訳しただけだが自分の納得がいくように言質げんちを取ろうと図った。

「うむ。・・・少しグロテスクではあるが写真をよく見てほしい」

マユは恐る恐る写真を一枚見てみるとそこには、綺麗な部屋で蟀谷こめかみにぽっかりと穴の開いた男性の死体が映し出されていた。

アパートの一室にポツリ、男が死んでいた。

安そうなアパートなのに立派なスピーカーが鎮座していた。

銃による自殺で即死だったのだろうか、左の側頭部から出ている唯一の流血もさほど多くは無い。

しかし、死因はショック死だったらしい。


「君はれを見て不思議に思わないかい?」

残念ながら察しの悪いマユにはさっぱりだった。

「まぁ無理もないか。先程見ていた此方こちらの書類を見てほしい。彼の部屋の写真をまとめた書類だが重要なのは此処ここだ」

探偵は書類の下の方にあった写真の一枚、最早もはや電話帳がメモ代わりに使われている事がわかる走り書きの文字を指差した。

此処ここわかることが二点ある。まず彼はずぼらな性格だったという事」

それはマユにも理解が出来た。

几帳面であればメモ帳を用意する。

態々(わざわざ)大事な電話帳の紙をメモ代わりに使わないだろう。

しかも、一文だけでなくビッシリと殴り書きが沢山書かれていれば嫌でもずぼらだと理解できる。


「続いて二つ目。彼が右利きであること。文字の滑り方を見れば一発だろう?」

そう言われて気が付いた。

確かに受話器で左手が塞がっていて、右手のみで書いた時に出来る文字の伸び方。

マユも一度した事がある為か理解できた。

「それにずぼらな性格だからか頬と肩で受話器をはさめばいいものの、面倒臭がって片手で書いたのだろう。ハッキリと右利きとわかる」

マユも同じことを思っていたが、1つ分らない事があった。


の二つの事が重要に思えませんが?」

とてもじゃないが他殺である裏付けになるとは考え辛かった。

「はぁ・・・君の目は節穴かい?よく見給みたまえ。彼の蟀谷こめかみに銃痕が付いているだろう?まぁこの際、何処どこから銃を仕入れたかは考えないでおこうか」

意外と重要ではないかとマユは思ったが、今話しているのは自殺か他殺かなので確かに関係ないと言われれば関係は無い。

「彼は右利きなんだ。わからなければ試してみるといい。君も銃で蟀谷こめかみに打つ時どのようにするかを」

マユは右手の指を銃のようにしてみせ、蟀谷こめかみに人差指の銃口を当てた。

「ね?普通、右利きの人は右の蟀谷こめかみに銃口を当てる筈さ」

マユはハッとしてもう一度写真を見た。

「銃痕が左の蟀谷こめかみについてる・・・」

「それともう1つ。ずぼらだと思われる彼が自殺する前に部屋を掃除すると思うかね?」

マユは確かにと思ったが疑問が生じた。

「でも自殺する前に恋人か友人と会うために片付けたとは考えられませんか?」

すると探偵はニヤリと笑うと

「そうとらえれば犯人は絞れるね?」

探偵は椅子から立ち上がると

「しかし、事は単純ではない。死亡推定日に誰かと会った形跡は無いんだよ」

マユはどうしてそこまでわかるのか不思議に思った。

「発見された昼間まで開いていないカーテン、付けたままのドアチェーン。彼はまだ眠っている時に殺された。私はそう推測している」

ならば誰がどのように殺害したのだろうか。

この状態は所謂いわゆる密室殺人という事になる。

「ふふっ流石さすがにずぼらだからと言って布団を引かずに寝る人は少ないだろう?」

彼は嘲笑した。


「私のほどき方はこうだよ」


彼はまた煙管キセルに火をぼうっと灯した。

赤色の火が弱まると黄ばんだ紫煙が揺れる。

「犯人は隣人さんだよ。殺害動機は毎日の騒音によるストレス。この写真に写っているスピーカーが原因。壁も薄そうだからね」

探偵はトントンとスピーカーの写真を指でタップする。

「この様に安いアパートは隣の部屋と鏡合わせの様な間取りになることが多い。そして、このアパートも例外ではない」

そう言うと、探偵は机の隅に置いてあるアパートの間取りが書かれた紙を真ん中に移動させる。

「さらにれ位古いアパートとなると向かい合わせになっている押入れの天井裏が繋がっていることも少なくない」

マユはそんなアパートもあるのかと興味津々に話を聞いていると

「侵入経路はこれで確保。そして綺麗になっていた部屋、これは血溜まりを掃除したのだろう」

マユは別に掃除する必要性はないだろうと不思議に思った。

「なぜ掃除したか。それは憶測になるのだが…一つ、血を踏んでしまい足跡が残ってしまったから。二つ、飛び散った血痕だが、一部分だけ血が無いから。つまり、自分の立っていた所には血痕が付かないからだ」

確かにそうではあるが床に付いた血を拭き取るなんて労力の掛かることをするのだろうか。

マユは探偵の一言一言に疑問を抱いている。

しかし探偵の言い分は的確に答えてくれる。


「だから君の目は節穴かい?よく床を見給みたまえ。一部分だけ明らかに色褪いろあせているだろう。床が日焼けし、色が落ちた証拠だよ」

すると灰皿に灰をトンと置くと

「しかし、それが一部分だけである。他は元の色、つまり何かが被さっていた。何かは分かるね?」

マユは微かに光る灯を見つめながら一瞬考えたが自分の部屋を思い出してみるとぐにわかった。

「カーペット・・・ですか?」

探偵の持つ煙管キセルから伸びる煙が大きく揺れた。

「正解。なら、血痕はカーペットごと運んだと考えられる。しかし布団にも付いた血痕もある為、布団も回収。これで明らかに出血が少ない理由が解明したね」

しかし、マユは聞いたことがある。

即死ならさほど出血はしないと。

「でも・・・即死なら元々流血は少なかったんじゃないかと・・・」

間違えていれば恥ずかしい思いをするので、躊躇ためらいながら聞いてみる。


「何年前の知識かね?まったく・・・それは心機能が停止した場合だよ。彼の死因はあくまで出血によるショック死なんだよ。それ相応の血溜まりが出来ると思うがね」

「そうなんですか・・・」

確かに死因はショック死と書かれていたことを思い出した。

ちなみに事情聴取の際。犯人と思われる隣人の部屋を調べたが、布団もカーペットもなかったという。勿論、アリバイ工作のために外出もしていないらしい。でも、大きな布の塊を隠す場所ならある」

私はハッとした。

瞬時に推理の輪が解けた。

「人一人通る事の出来る天井裏がね。以上の事から隣人が犯人だと思うんだ」

マユは感心しきっていたが、銃の輸入経路を説明されていなかった。

しかし、これは後から知ったのだが隣人は女性だったらしい。

暴力団ならまだしも女性が銃をどうやって確保したのか疑問に思った。

その疑問もすぐに解消される。


「隣人さんの会社にはね3Dプリンターがあるらしい。何度か残業もしていたらしい」

3Dプリンターによる現像は意外に時間のかかる代物しろものだ。

しかし、一日1パーツか2パーツを作ればその内、目的の品は出来る。

結構な前から騒音について苛立いらだっていたのだろう。

「それに隣人さんは女性だ。力のかかるような殺人は選ばないだろう。つまりさ、前々から練っていた緻密な計画殺人だよ」

探偵は言い終わると同時に火を消した。

そして胸のポケットから長方形の機械を出し、ボタンを押した。

「ボイスレコーダー。2度説明するのは面倒だからね」

すると、今度は何処どこかに電話をかけ始めた。

「もしもし。私です。いつも通り推理が終了しました。今日中に其方そちらへ出向くので。では」

ピッと電話を切ると

「残念だが私達の仕事はここまで。犯人を捕まえるのは勇敢な警察の役目だからね」

彼は肩を多少上げ、クスッと笑う。

先程までの完璧な推理とは一転、無邪気な子供のような笑顔は何処どこか誇らしげに感じた。

マユは初めて探偵の仕事を見て、探偵に抱いていた印象がガラリと変わった。

「…胡散臭うさんくさいなんて思ってすみませんでした!」

探偵は目を丸めて驚いたと思うと腹を抱えて笑い始めた。

「はっはっは。いやはや、分ってくれればいいんだよ」

けらけらと笑う探偵を見ると馬鹿にされていると思ったが、悪い気にはならなかった。

やはり拭いきれない既視感デジャヴがあっても、この温かな空気に包まれていて母性本能に似た幸せを感じた。

なんだかこの人となら全てのことが上手くいく。

そう感じて幕は降りた。


「おっと。君の助手は続行だよ?今回も殆ど役に立たなかったじゃないか」

「返済完了まで屋敷に寝泊まりしてもらうつもりだから悪しからず」

「では」

訂正。

やっぱり、意地悪でいけ好かない人です。

大きなベッドに潜れば、まぁいいかって思いましたけどね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ