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旧式機

鳳翔、祥鳳、瑞鳳の三空母から飛び立った攻撃隊は艦戦、艦攻がそれぞれ18機の36機だった。

この攻撃隊は何とか先手をとり発艦したものの、ある重大な問題を抱えていた。

それは艦載機の種類だ。

鳳翔は日本初の航空母艦として就役したが、1942年現在もうすでに旧式化している。

特に格納庫や飛行甲板などが小さいという制約から最新の空母艦載機を搭載することができず、今回は本土中からかき集めた九六式艦攻14機を搭載しての出撃だった。

勿論、旧式機である。

そして残りの改装空母祥鳳はちょうど本土で機種転換を行っている時期であった為、その艦載機の構成が異常になっている。

祥鳳はこの時、戦力化できていた戦力はゼロ戦10機、九六式艦戦4機、九六式艦攻6機であり、瑞鳳はゼロ戦8機、九六式艦戦4機、九七式艦攻12機の編成だ。

旧式艦戦の九六式艦戦は艦隊上空で直援の任務を与え、ゼロ戦には攻撃隊の直援を任せるが、攻撃手段は旧式機の九六式艦攻が主になってしまう。

よって必然的に攻撃隊の編成は最新鋭のゼロ戦、九七式艦攻と旧式の九六式艦攻で混成される歪なものとなってしまった。

三空母の艦攻連合が目標海域の付近に接近すると上方から敵戦の迎撃を受けた。

恐らくレーダーか何かで捕捉され、待ち伏せされていたのだろう。

直ぐに機首を上に向け上昇する。

太陽の翼と星の翼が晴れた青空の中で入り乱れた。

敵機の数はこちら側よりはるかに多い。

F-4Fが先に射撃を開始した。

まず2機のゼロ戦が12.7㎜弾でバラバラになり海中に没した。

生き残ったゼロ戦は流れ星の様な敵の銃撃を機を揺らしながら回避し、有利なポジションに就こうと青空の中を動き回る。

数ではこちら側が不利だが、機体の性能ではゼロ戦に軍配が上がる。

何機かはゼロ戦特有の軽快さを生かし、F-4Fの後ろに回り込む。

それに応えるよう、F-4Fも急降下でゼロ戦の射点から逃れる。

後ろを取ったゼロ戦は逃すまいと機銃の連射を開始する。

7.7㎜弾の射撃を受けた機体は生き延びることができたが、20㎜の直撃を受けた機はそのまま爆発し花火となった。

艦上攻撃機の編隊に喰らいついたF-4Fは旋回機銃の必死の抵抗を受けるが戦闘機側の方が圧倒的に有利。

一方的に艦攻を攻撃する。

しかし、艦上攻撃機に夢中になるあまり後方に注意を向けていなかった者はたちまちゼロ戦の餌食となり、艦攻の編隊銃撃が運悪く弱点に着弾し撃墜されてしまうF-4Fもいた。

豆鉄砲の7.7㎜でも発動機や風防に射撃を集中させれば落とせないことはない。

この混戦の中を艦攻隊は必至に前進し、敵艦隊を目指した。

敵艦に雷撃を敢行するまでは死んでも死にきれない。

艦上攻撃機の数が目に見えて減ってきた所で偵察員たちは、青い海に大量の航跡を発見した。

中心に空母らしき巨艦2隻と戦艦らしき巨大な砲塔を持った艦3隻を中心とした大艦隊が悠々と航行。

その数は報告よりも明らかに多く10隻前後の駆逐艦を侍らせている。

本土近海なのに癪に障る。

搭乗員のだれもがそう思った。

「トツレ」

隊長機達は合図を送ると大艦隊を目標にその速力を増大させた。

彼等を阻むものは戦闘機の銃撃から、火山の噴火を連想させる敵艦の対空弾幕に代わっていた。


運良くF-4Fが喰らいついてこなかった鳳翔艦載機の九六式艦攻の操縦員野田和正少尉は恐怖に包まれていた。

攻撃隊は敵の攻撃により各個バラバラになりながら敵艦隊に突っ込んでいった。

何機の攻撃機が生き残っているかはもう解らない。

十数隻の悪意を持った軍艦から放たれる対空火器の弾幕は今まで体験したことが無い。

一隻、一隻が筒先をこちら側に向け、真っ黒な花を青空に咲かせている。

そしてその黒花が産み出す振動が乗機の開放式コクピットへ直に伝わるのだ。

砲弾が炸裂するたびに肌にビリビリとした衝撃が走り、鼓膜がキリキリと痛む。

それが余計に恐怖心を煽った。

九六式艦攻に密封された風防は無い。

九六式艦上攻撃機は昭和11年に採用された機体だが既に二級線以下の機体に成り下がっており、その構造は複葉、固定脚で開放式風防なのだ。

最高速度は毎時300kmを超えることはないし、開放式のコクピットは風を直接搭乗員へと届ける。

如何にも戦間期の航空機といった特徴だ。

しかし、野田はこの機体を少しでも悪く思ったことはない。

複葉機なので動きにクセがなく、速度も低いので操縦もし易かった。

だが流石にこの状況では野田の戦意は低下する他ない。

彼にとって本格的な対艦戦闘はこれが初めてである。

操縦の難易度など関係ないのだ。

最初こそは敵空母か戦艦に魚雷を喰らわせてやると考えていたが、この弾幕では中心に鎮座する空母に到達する前に九六式艦攻は海の藻屑となるだろう。

「目標を前方の駆逐艦に変更するぅ!!」

野田は伝声管に向かって怒鳴ると返事を聞く前に一番近い艦にその進路を向け、生き残りの僚機2機もそれに倣った。

一番近かった駆逐艦と思われる艦も野田達に素早く反応しその対空火力を彼等に投射し始める。

狙われているとわかったらしい。

軍艦の中でも小さい方の駆逐艦だが恐怖心も相まってその大きさはまるで戦艦の様にも見えた。

距離がグングン近づく。

甲板で作業している人間がはっきりと見え始めた。

それにつれ敵艦の対空火砲も激しくなってくる。

(なんだこの投射量!!これが駆逐艦か!?)

火力が集中されて初めて気づいたが敵の駆逐艦の主砲は全て高角砲の様だ。

主砲四門を仰角一杯に上げて砲弾を打ち上げている。

海面スレスレを飛行しているが高角砲の勢いは全く衰えない。

機関銃の数も我が軍の駆逐艦よりも多いだろう。

(あっ!!)

ふと脇を見ると1機の九六式艦攻が機関砲を胴体に受け火達磨になるところだった。

あれはもう助からない。

(少し黙ってろ!!)

駆逐艦の発砲炎を狙って機首の7.7㎜機銃を連射する。

当たらなくても撃ってる間は何故か安心するのだ。

機首がチカチカと光ると同時に辺りに硝煙の匂いが立ち込める。

敵駆逐艦の甲板に火花が発生した。

野田の発砲が機銃手に当たったのだろうか?

一瞬、今まで彼を補足しようとしていた機関銃の曳光弾が止んだ。

「今だ!!」

目標との距離は900程度。

野田機の偵察員はすぐさま魚雷を投下した。

(当たれ...!!)

そう願ったが、半ば恐怖心に負けて放った魚雷は簡単に回避されてしまった。

野田機の放った白い線は惜しくも敵駆逐艦の艦種付近を舐める様に通過する。

しかし、彼の雷撃を回避し、身動きがとりづらくなっていたところに僚機が雷撃を敢行。

鉄のひしゃげる音がした。




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