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航空機消耗

「...!」

藤井は目が覚めるとベットの上にいた。

薬品の匂いが鼻を衝く

(痛い...。)

意識が覚醒すると同時に、右足にズキズキとした痛みが広がる。

鋭い痛みに思わず足へと手を回した。

手に伝わる確かな感触。

(大丈夫だ、繋がっている)

素人目だが骨は砕けていないようである。

しかし、足に奇妙なくびれができており、その先は考えたくなかった。

(これは時間がかかるなぁ...。)

暫く戦線に復帰できない、何となくそう思った。

そうすると暇である。

(航空司令部に頼み込んで基地防空用の機銃手にでもなろうか?)

藤井が前向きに今の状況を考え始めた時

「目覚めたか」

不意に向かい側から声がかかる。

「いやーっ、何とか生き残ったんだが、話ができる奴がいなくて暇だったんだ!!」

大きな体格を持つ男は病人らしくないやたらデカイ声で喋り続ける。

ここは、一応病院なのだろうが...。

「無事でしたか、山口さん」

藤井は声の持ち主の名を答えた。

彼は確か三番機の機長である。

「あぁ、だけど俺の機は俺ともう一人以外駄目だった」

応えるその声は五月蠅かったが、目はどこか無常観に満ちている。

「まぁ、生き残ったといっても、もう片方はまだ寝てるがな」

そう言いながら山口は隣のベットに顔を向けた。

そこには、暑さで毛布を無意識でどけながらうんうんと唸る男がいる。

まだ意識を取り戻していないようだ。

「正直俺は生き残ってうれしいのか、死に遅れて悲しいのか解らない。」

山口は続ける。

「陸攻にはもう乗れそうもない、飛べないかもしれん...。」

「何故です?」

いつもと違う山口を不審に思いながら問い返す。

「足が無いんだ...。」

山口が掛かっていた毛布をどける。

左足が太腿の先から無かった。

「...!?」

藤井は何と答えて良いかわからない。

無言のまま時間が過ぎる。

(何か話題を転換しなければ!!)

このままでは空気が重い。

そこまで親交のあった人間ではないが、適当な返答をするわけにはいけない。

藤井は重い口を開く。

「ところで今、何時ですか?」

結果として藤井は最もいい加減な応答をしてしまう。

(何をやっているんだ!!俺は!!)

いくら頭が混乱していたからと言ってこれは無い。

直ぐに次の言葉を頭の中で考え始めた所で、

「ん?多分11時だと思うが?」

山口は藤井の気持ちを知ってか知らずか、わざわざ遠くの時計を見て親切に答えてくれた。

一応会話が続いた様だ。

「何だ、お前さんの枕元に時計があるじゃないか」

「え?」

枕元に目をやると、自分の腕時計が置いてあった。

誰かが置いてくれたのだろう。

丁寧に飛び散った血も拭いてくれている。

「すいません、目が慣れて無くて気づきませんでした。」

詫びを入れつつ時計を見た。

(やっぱり安物はダメかなぁ?)

その針は午前10時を示していた。


藤井が目を覚ましたこの日、ラバウルはとてつもない衝撃に襲われていた。

「航空機の消耗が激しすぎる!!」

一言で表すならこういう事である。

これはニューギニア沖海戦前から言われていたことであったが、海戦後それが特に顕著になったのだ。

アメリカ軍の爆撃機、殆どが双発のA-28であったが、連日空襲にやってきて、ただでさえ不足している航空兵力の数を減らしていく。

稀にB-17などの大型爆撃機が護衛を伴いやってくる。

その時はひときわ大きな被害がでた。

これに対し日本海軍もなけなしの陸攻隊を使ってポートモレスビーに報復爆撃を行うが、どこにもB-17はいなかった。

実はこの時、アメリカ軍はオーストラリアからB-17を一旦ポートモレスビーまで飛ばし、モレスビーで一泊した後にラバウルを爆撃するという贅沢な戦い方をしていた。

それに加え、アメリカ軍はジャングルの中に原住民や優秀な人間を分散配置し、日本海軍の航空機が通過すると通報し危機を知らせるというシステムを導入し、損害を最小限に食い止める工夫もしており、ニューギニアの戦いはアメリカ側が若干であるが優勢であった。

後に日本海軍も生産性の悪い陸攻の被害を減らすため、上記のアメリカ軍の様な早期警戒網を構築し普及させるが、それでも充分ではない。

こうしたラバウルの被害の元凶を断ち切るために、日本海軍はモレスビーの攻略を考え始める。

そして、その第一歩として、3月8日未明に、東部ニューギニア北岸のラエ、サラモアへ上陸を行ったのだ。

悪天候を狙って上陸を開始したため、航空支援を受けることができなかったが、大した抵抗もなく、領地の占領に成功。

損害といえば座礁した大発動艇位なものであった。

だが、アメリカもこれに黙っているはずもなく、ラバウルへの攻撃を予定していた空母「ヨークタウン」の攻撃目標をラエ、サラモアに変更。

3月10日にヨークタウンの艦載機54機とモレスビーの陸上爆撃機14機を用いて空襲を行った。

ラバウルにいた四空のゼロ戦は迎撃に間に合わず、取り逃がしてしまう。

軍艦の被害は軽巡「夕張」が至近弾を受け小破と駆逐艦数隻が機銃掃射を喰らったのみであったが、

輸送船「金剛丸」、「横浜丸」が沈没。

「ちゃいな丸」「聖川丸」が小破。

人的被害は74名に及ぶといった損害を受けてしまう。

その後ラエ、サラモアに陸攻隊、ゼロ戦隊を上陸させるがラバウルの時と同じで連日の様に航空機を消耗する事態に陥り、3月22日にはラエには事実上稼働できる機材が存在しなくなってしまった。

こうした航空機消耗下の状況において状況を打開すべく日本海軍はモレスビー攻略への決意を一層強めていくことになる。



全話のサルベージが終了しました

皆さまこのたびは本当に申し訳ございませんでした。

次の話は来週中に投稿します。

失礼いたしました。

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