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壊滅

合衆国海軍レキシントン所属F-4Fパイロット、エドワード・オヘアは母艦の誘導指示に従って目標座標へと急行した。

直援機は彼を含め14機。

レキシントンを守る最初の盾である。

彼ら戦闘機乗り、実はあまりレーダーを信用していなかった。

第一仕組みが解らない

ただでさえまだよく解っていないテクノロジーの産物に乗っているのだ。

そこに、さらによく解らない索敵技術を導入されてもすぐには信用できないであろう。

しかしどうだ、エドワードは現場に到着するとすぐ眼下に日本海軍の爆撃機を見つけることができたではないか!!

(これは、評価を改めなくてはなぁ...)

見るとジャップの基地航空隊はこちらに全く気付いていないようだ。

護衛の戦闘機もいないし、対空火器も自分達とは関係のない明後日の方向に向けている。

(やるなら今か)

上部機銃座を持つ爆撃機に対して上空からの攻撃は必ずしも有利とは言い難い。

しかし、今なら完璧な奇襲が成功する。

僚機もアタックの準備を始めており、直ぐに無線に連絡が入った。

「GO!!」

合図と供に操縦桿に力を入れる。

太陽を背にして急降下。

頭に血が上る。

「四発機!!」

ジャップの機体に接近して驚く、思わず声が出てしまった。

(日本海軍の新型かッ!!なんてクレイジー!!)

陸軍の奴等がB-17で対艦攻撃をするなんて聞いたことがない。

一瞬の驚きを抑え、冷静に近場の目標に一連射。

初撃であったこともあり狙いをかすかに外す。

直ぐに、流れ星の様な曳光弾を目で見て軌道修正する。


DADADADADADADADAD!!


12,7㎜弾を猛射した。

操縦席が硝煙の匂いに包まれる。

自分の機にも軽い衝撃を感じた。当てられたか?

エンジンから火を噴き爆発する四発爆撃機を尻目に、フットバーを蹴って他の敵機が放つ火網から逃れる。

確実に致命傷を与えた。

エドワードの機にも機銃弾が当たったらしいが、恐らく7,7mm弾だろう。

何の異常も感じられない。

(固い...。)

それが、エドワードの初撃での感想だった。

一機落とすのに思ったよりも弾と時間を使ってしまった。

事前に日本海軍の爆撃機が装甲がほぼないと聞かされていただけに意外である。

(上の奴等ッ!!何がJAPの航空機は紙飛行機だ!!適当なことほざきやがって!!)

そう心の中で毒づきながら次の獲物を求めて高度を上げる。

見ると自分だけ僚機と離れていた。

どこか?と首を少し傾け辺りを見回し、目の隅にキラッと光るものが見えたところで彼の意識は刈り取られた。


藤井は第一中隊を襲ったF-4Fを冷静に銃撃。

自分でも驚くほど見事に命中し米海軍機は火の玉となって海中に落下する。

恐らく油断していたのだろう、やや後下の高度を飛んでいる第二中隊には注意を払っていなかった。

それとも、護衛のいない陸攻隊など注意を払うに値しないのか。

「頼んだぞ!!藤井!!」

下の方から川上の声が発動機の音に交じって聞こえた。

「もう、一機やったぞ!!」

直ぐに反応し怒鳴り返す。

川上はさすがだと続けた様だが、右側面から

「敵機動部隊発見!!」

と叫ぶ声でかき消された。

その声に機内全員が下方向に目をやる。

確かにいくつかの航跡が見え、空母らしき艦を中心に円形で陣取っていた。

米海軍機動部隊だ。

電信員が打電を開始する。

藤井は電信員が打電している間に上方向から接近してくる新たなF-4Fに狙いを付けた。

余程自分のグラマンの防弾性能に自信があるらしく、藤井の銃座に向かって真っすぐに突っ込んでくる。

(仲間が落とされて頭に血が上っているのか?)

藤井がF-4Fより先に打ち始めた。

撃っている間は不思議と恐怖を感じない。

F-4Fも20mmに負けじと、12,7mmで応射を始める。

「うおおおおおおおおおーーー!!」

九九式の銃身が熱くなり始め、ラッパのような銃口から出る熱が周りの大気をかき乱す。

陽炎の様に。

弾丸が銃座の周りに着弾し何発が貫通して機体に穴をあけ、衝撃が機を揺らした。

体にはまだ当たっていない。

F-4Fが体当たりする勢いで接近してくる。

眼前にF-4Fの機体が広がる。

風防越しにパイロットと目が合った。

当たり前だが白人で、その顔にはまだ幼さが残っている。

目が合ったのが何分にも感じられた。

初めて人と戦っていると実感した瞬間、

F-4Fが爆発した。

燃え盛りながら迫ってくる航空機の残骸が一式に直撃することはなかったが、その破片が容赦なく降り注ぎ、風防を貫いて藤井を襲う

「グウッ!!」

おもわず銃から手をはなし、足を抑える。

熱い、太ももの辺りが熱い。

当たったのが弾丸でなくてまだよかったと後に思うがこの時はそんなことを考える余裕がなかった。

溢れる血を止めようと手で圧力をかける。

やむを得ず、防空の仕事を放棄した。

こうなっては唸って機内の仲間の士気を下げることしかできない。


唸り続けてどれくらいたっただろうか?

腕時計を見ようとしたが血で汚れて文字盤が見えない。

発動機の音と振動でかろうじて意識が残っている。

歯を食いしばりながら考えているとまた衝撃。

新たな敵機が喰らいついてきたのか、高角砲の衝撃で気が揺れたのかわからない。

ただ、左右側面、尾部、機首、藤井以外のすべての銃座から防空機銃の発砲音が聞こえるだけだ。

(俺も働かなくては...。)

そう思い最後の力を振り絞って九九式に手を掛け、外をのぞく。

いつの間にか低高度を飛んでいた。

そこにはただ青空が広っており、他の一式も米軍機も飛んでいない。

諸田は何となく漂う雲を照門に入れ引き金に力を入れた。

雲がF-4Fに見えたのかもしれない。

20mm弾は発射されなかった。

「距離500!!ヨーイッ、テーッ!!」

雷撃を敢行する声が聞こえたところで藤井の意識は闇に落ちた。


藤井が青空に向かって引き金を引く少し前。

第一中隊は敵戦と応戦しながら、発見した敵機動部隊へと向け攻撃隊背に入ろうとしていた。

しかし、9機いた第一中隊は既に3機が海中へと叩き落されており、残存6機も機体が穴だらけになりその命は風前の灯火だった。

それは、四空指揮官機の伊藤少佐が登場する一式も例外ではなく、先程まで盛んに発砲していた対空機銃音の数も減っている。

操縦員は敵の初撃で死んでしまい、今は自ら操縦桿を握っている状態であった。

(このままでは編隊での爆撃は無理だ!!こうなっては各個撃破されておしまいだ!!)

と伊藤は考えた。

もとより既に、編隊はバラバラとなっているが...

(敵艦隊の対空砲の射程に入れば敵機は追撃をやめるか?)

確かに、敵防空円の内側に入れば忌々しいグラマン共は追撃をやめるだろう。

もしやめなければ同士討ちとなってしまうからだ。

敵の戦闘機と高角砲どちらがましか?

(僅差で後者だな)

伊藤がそう考えると、他の機も同じよことを考えたらしく、伊藤機と似た行動をとり始めた。

その時点で、残存機は4機になっていた。

勿論、こちらも一方的にやられているわけではないF-4Fの数も僅かだが減っている。

そもそも、初撃の方で半分の編隊は自分達ではなく第二中隊の方にも向かっていったし、最低でも1機は火網で捉えているのを確認した。

一式の防御力が弱いというわけでもない。

火災消火器も誤りなく発動した。

だが、動きの鈍い陸攻隊など戦闘機にとっては標的機に毛が生えたようなものだった。

ゼロ戦の護衛がいない陸攻隊はひどく無力であったのだ。

そんなことを考えていると、F-4Fの機影が辺りに見えなくなっている。

その代わり、眼下に鎮座する米機動部隊の大きさが最初よりも強く自己主張していた。

どうやら敵の対空範囲に入ったらしい。

安心したのも束の間、自機とほぼ同高度で高角砲の砲弾がドカン!!と炸裂した。

(危なかった、アメ公の奴等腕がいい...)

被害状況を確認しようと思ってやめる。

敵艦隊の上空に来たら、敵艦に向かって機銃掃射するような気が荒い搭乗員達がいるのに対空機銃の音が全く聞こえなかったからだ。

(みんな、すまない)

そう心の中で呟いた時、またドカン!!と砲弾が炸裂した。

先程よりも音が大きい。

機体の揺れ方も今まで感じたことのないような大きな揺れだった。

さすがにまずいと思い右舷を見る。

右翼の発動機が一機脱落していた。

もうラバウルに戻れない。

伊藤はそう思うと機を急降下させながら操縦桿に入れる力を強くし始めた。


「JAPの爆撃機だぁ!!」

F-4Fの攻撃を振り切って、第11任務部隊に接近しようとしている日本海軍の爆撃隊を視認してレキシントンの甲版作業員達は驚きの声をあげた。

接近してくる爆撃機は4機。

だが、艦隊サークル内に侵入する前に1機を対空砲火で打ち落とした。

レキシントンだけでなく、重巡洋艦、駆逐艦までもが懸命に空へと砲弾を打ち上げている。

現時点での米海軍の対空火力は後の全盛期に比べてたいしたことはないがそれでも強力だ。

恐らく世界最強の対空サークルであろう。

そのサークルに侵入した3機も直ぐにその機数が2機に減じた。

(あと、2機だ!!)

第11任務部隊のだれもがそう思った。

その期待に応じるかのように2機のうち高度が低い方の機体付近で立て続けに2発の砲弾が炸裂。

その機の右翼を半分もぎ取った。

「残り1機だ!!」

レキシントンの甲板で誰かが叫ぶ。

しかし、ほとんど片翼となった爆撃機は加速。

レキシントンに向かって急降下し始めた。

「突っ込んでくるぞぉーーーー!!」

また誰かが叫ぶ、今度は複数人。

その声に連動してレキシントンに並べられた大量の対空機銃が片翼の爆撃機に集中するが、墜落する爆撃機は案外早く中々当てるのが難しい。

当たっても頑丈そうな機体の落下針路を変えるに至らず虚しく穴を開けるだけだった。

削られた破片がバラバラと雨の様に降りかかり、近くの海面に小さな水柱が立ち始める。

そして、レキシントンの甲板作業員が走り出すのと同時に、燃え盛る伊藤の一式陸攻が人と対空火砲を巻き込みながら激突した。

甲板に突き刺さったその姿はまるで十字架の様だった。




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