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空襲

フィリップスの焦りは今、最高度に達していた。

Z艦隊は進路を変え9時45分にクアンタンに到着。

同地の陸影を認めたが日本軍の輸送船団や陸上部隊は確認できなかったのである。

日本陸軍のクアンタン上陸は誤報だったのだ。

念のため駆逐艦「エクスプレス」に付近を調査させてみたが調査の結果は「異状ナシ」。

その一言だけだった。

一時間後の11時半にもっと悪い知らせが昨夜別れたテドネスから届く

「我、爆撃ヲ受ツツアリ」。

なんと日本軍機からの爆撃を受けているというのだ。

そして、テドネスからの悲鳴が届いた直後、対空見張り員が艦隊の上空に一機の航空機を発見する。

どうやら双発機らしいその機体は英空軍のブレニアムにどこか似ている。

しかし、その翼には日の丸が描かれていた。

「ネルだっ!!ジャップのネルがいるぞ!!」

甲板にいた水兵が九六式陸攻の連合軍名を叫んだ。

フィリップス達は日本軍に捕捉されたのである。

かくして、この艦隊はテドネスより悲惨な事態に陥ることが決定した。


少し前、仏印のサイゴン飛行場でまだ日が昇ったばかりの六時に陸攻隊が出撃準備を行っていた。

伊58の情報を基にイギリス東洋艦隊を撃滅するためである。

伊58の報告が正しければ英艦隊はサイゴンから650Km離れている計算になる。

充分に攻撃可能な距離だ。

陸攻隊は元山、美幌、鹿屋の三航空隊がそれぞれ甲乙丁空襲隊と名付けられ鹿屋空のみが一式陸攻で参加する。

前にも述べた通り開戦時に一式陸功を部隊規模で配備されていたのは高雄空と鹿屋空のみだった。(千歳空には一機だけ配備されていた。)

甲乙空襲隊の九六式は偵察、爆装、雷装と役割が分担されていたが、丁空襲隊の一式はすべて雷装である。

最初に甲空襲隊の偵察隊9機が6時45分に離陸した。

しかし、中々英艦隊が補足できないので航空司令はひとまず陸攻隊を空にあげることにした。

こうして、まだ敵艦隊を補足していない段階で全陸攻隊を出撃させたのだった。

そして、11時40分丁空襲隊、偵察隊 帆足正音予備少尉の九六式が英艦隊を補足する。

帆足正音予備少尉は8日にはクアンタン空襲を行っており、この日は特に緊張していなかった。

「よし、打電だ!!」

彼は英艦隊を発見後すぐに電信員に命令し電文を打った。

「我、敵主力見ユ 北緯四度 東経一〇三度五五分 一一四五」

マレー沖海戦の結果は彼の電文が最後の一押しになったといっても過言ではない。

だが、空に上がっていた陸攻隊のうちこの情報を受け取れた者は少なかった。

甲空襲隊だけはいち早くこの電文を受信し何機かがアクシデントで引き返しつつも、なんとか英艦隊へと向かった。

その後、乙部隊もこの情報を入手し英艦隊へと向かう。

だが、何故か丁部隊だけはこの電文を受け取れず、中々受診できない丁部隊に業を煮やした鹿屋航空隊司令藤吉直次郎大佐は13時に帆足正音予備少尉の電文を平文(暗号化されていない電文)で流した。

敵の諜報のことなど考えていられなかったのだ。

こうして、丁部隊はようやく英艦隊の位置を知ることができ西に向け変針、甲乙丁空襲隊は同一目標に向かって進み始めた。

最初に接敵したのは乙空襲隊の第一中隊白井隊である。

白井は前衛に三隻の駆逐艦とPOW、レパルスを確認すると水平爆撃を指示。

編隊は高度を下げた。

「敵の対空射撃に注意しろっ!!」

白井はそう叫ぶが高度を下げた途端に編隊は対空砲火に包まれる。

後は、こちらが落とされる前に敵に攻撃が当たるか外れるかのチキンレースである。

機体が対空砲火の振動に震え、双発機の爆音よりも大きい爆発音が搭乗員の耳を打つ。

白井隊の25番を二発搭載した爆撃隊8機は午後0時45分に高度三千から水平爆撃。

レパルスの煙突付近に一発の着弾を認めるが他の7発は虚しくも白い水柱を立てるだけだった。

大型重装甲の戦艦には25番の一発では効果がない。

せめて50番がほしいと白井は思った。

レパルスは何事もなかったかのように航行を続けている。

白井は一回目の爆撃を終えた編隊の被害を確認した。

「ここまでかぁ...」

激しい対空砲火の前に既に二機が作戦を続けられる状態ではなく引き返したいと連絡してきた。

白井の機も穴だらけになり、負傷者も出ている。

他の五機も同じ様なものだろう。

残った6機で攻撃を決行し、高度を三千より下げるとどうなるかわからない。

「諦めるぞ!!引き返せ!!」

そう怒鳴って白井は追撃を諦めた。


日本軍機の空襲が始まってもフィリップスは何事もないように振る舞っていた。

しかし、その自信は自分の艦隊の防空能力から来るものではなく空軍の知り合いが「日本軍の航空機は旧式だから攻撃が当たらない」という言葉を信じていたからだ。

だから、白井達の攻撃が始まって慌て始めた幕僚達をみてフィリップスは慌てるなと叱責した。

少しは士気を上げるのに役立っただろうが、空襲後の報告で彼は急に慌て始める。

「レパルスに着弾一!!火災が発生しているとのことです!!」

その報告をきいてフィリップスは「日本軍の攻撃も当たるじゃないか」とつぶやいた。

その声は偶々近くにいたPOW艦長リー大佐にしか聞こえなかった。



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