かにんげん
食べ物に感謝を…
「大紀、今日は奮発して夜ご飯は、かによー」
そう母が言って運んできたものは、こちらを見つめてくる《かに》だった。
「自分の部屋で食う」
「たまには一緒に…」
「黙れ、ババァ!」
反抗期まっただ中の俺は親に反抗しまくりだった。
ガチャ
そんな時の俺には、自分の部屋だけが家の中で唯一落ち着ける場所だった。
「おれ蟹嫌いだし…」
ガチャ
「うっ、風強ッ」
窓の外は春先といえどまだまだ寒いようだ。
視線
どこから…?ふと下に目をやると《かに》がこっちをじっと見ていた。
「邪魔だ!」
春の夜空に蟹が舞う。
なんで…
やはり《かに》はこっちを見ていた。
ー朝ー
「母さ~ん」
「…」
二階からだと聞こえないのだろうか。
ガチャ
「母さん!」
「…カサ、カサ」
音に反応し下を見ると、そこは真っ赤…
「これは…」
《かにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかにかに》
「えっ、か、かあすふぁん、母さぁんぅ!」
階段までびっしり。
グチャ、ビチャ、バキ!ブチャ。
踏むしかない。というか踏まずにいられなかった。
一階のテーブルには多分、昨日の蟹が…かにが…かに…
《かに》
テーブルまでというか全て蟹に多い尽くされていた。
だが台所の一角だけに蟹が集まっていなかった。
あそこなら…
近づいていくにつれ母の足らしきものが見える。
よかった…
「かあ…」
そこは真っ赤だった。でも違う。朝見た赤と違う。
あぁ、これは…
血だ。
人間の二倍ほどの大きさの《かに》が母の頭を食べ、今ちょうど
首に突入しているところだった。
目があった。
あぁ、こいつは…
「なんだお前、食べてほしかったのか?でもそんなにでかくなったら
食べれねぇよ。食べられなかったから、喰う…か。
でも俺やっぱり蟹嫌いだから。」
キッチンに有った包丁を取る。
パチンッ!
時には包丁もハサミに負けることも在るようだ。
皆さん、
「いただきます」
「ごちそうさま」
は本当に大事な言葉ですよ。