96.集い
学園対抗戦初日の夜、闘都の中央に位置する、闘技場近くの食事処に来ていた。
ララちゃんがエトワール村の皆に声をかけたから一緒に夕食を食べないかと誘ってくれたので、店を押さえたのだ。
実はここ、何かあったら頼るように言われていた、トルネさんのお弟子さんが経営している食事処である。
アステール商会と付き合いができるならと快く一室を貸切にしてくれた。しかも食事までご馳走してくれると言ってくれたのだが、あまりに申し訳ないためむしろ貸切料として色を付けて支払うつもりである。
「皆、久しぶり!」
「ほんと、そんなに時間は経ってないはずなのにすごい久々に感じるわね」
「ん、懐かしい」
グレースさんはそっと微笑み、いつも無表情のクロエさんも珍しく笑顔が垣間見える。
ララちゃんはそんな僕らの様子を見てニコニコしていた。
そしてそんなララちゃんを見てニコニコしている【聖女】様。
そう、【真実の聖女】セシリアさんもなぜかララちゃんについてきていた。
「うふふ、うちの可愛いララちゃんを一人で出歩かせる訳にはいかないもの〜」
確かに、戦闘力のないララちゃんが夜に一人で出歩くのは心配ではあった。
……そこに聖女様が加わったところで問題が解決するかは別であるが。
本来、勇者にしか扱うことの出来ない『神聖魔術』を特別に扱うことのできる存在、それが聖女だ。十分に規格外な存在ではあるが、制限なしで行使できる勇者とは異なり、補助魔術と回復魔術に限定されるため戦闘力はほとんどないと言っても過言ではない。
だからこそ、この数の護衛なんだろうけどね。
先程会った時もそうだが、周囲から聖女を見守るような気配が多く存在している。
気力、魔力ともに遮断しているのか非常に希薄で油断していたら気づかないほどの護衛が常に張り付いているのだろう。
……それを知っていてララちゃんと一緒に来たのであれば、中々に強かな人だな。
久々に会った幼馴染たちと盛り上がっていると、香ばしい匂いを放つ食事が運ばれてきた。
無骨な酒場や屋台ばかりの闘都であるが、この店は他店と差別化を図って比較的品が良い料理が多い。あくまで比較的、であるが。
酒場ではまず、野菜が使われたメニューなんて全く出てこないため、野菜が使われているだけでも大分女子向けの店と言えるだろう。
この街に来てから初の野菜を堪能しつつ、隣に座ったグレースさんに話しかける。
グレースさんはどことなく表情に陰があり、先程から何か僕に話したそうにしていた。
「グレースさん、学校はどうですか?」
軽く話題をふる。こういう時に気の利いたことが言えればいいんたけど、生憎そういうことは苦どうも苦手なんだよなぁ。
「シリウス……まぁまぁ、かしら。シリウスとの特訓の成果でBクラスは入れたんだけど、やっぱり皆とても強いわね。シリウスほどではないけどね」
グレースさんは、少し寂しげに微笑んだ。
「まさかルークだけじゃなくてシリウスまで学校対抗戦の代表になっているなんて……いや、あんたのことだから当然か。むしろのあのバカが代表になっちゃったことが問題よ」
「ルークがまさか勇者になってるとは思いませんでした……この数ヶ月で色々あったようですね……」
「あいつは、弱いのよ……聖剣を抜いてから、調子に乗ったり落ち込んだり。ガキなんだから……」
グレースさんは水を煽り、グラスを乱暴に机に置いた。
「あのバカ。勇者様って周りに煽てられて、急に強くなって先輩達の誰も勝てなくなっちゃって、貴族のお嬢様たちに言い寄られて、私達のことなんてもうどうでも良くなっちゃったのよ。入学してすぐはシリウスに追いつこうって毎日頑張って鍛錬してたのに。もう授業にもほとんど出ないで遊んでいるのよ? 教官も何も言わないし。なんのためにおじさんとおばさんが入学金を出してくれたと思ってるんだか。調子に乗ってもう、呆れて何も言えないわ」
今日のルークの様子を思い出す。うん、容易に想像できてしまう。
「そうだったんですか……ルークもきっと、色々と悩んでるんでしょうね……」
「それは分かってる、分かってるけど腹立つのよ! シリウス、あいつのことボッコボコにしてやってよ!」
「ボッコボコって……努力はしますけど、勇者ですからね……」
「ふふ、シリウスなら余裕よ余裕!」
グレースさんがバンバンと僕の背中を叩く。愚痴を吐き出して元気になったのはよかったけど、酔ってないよね? それ水だよね?
僕は苦笑しつつ、グレースんにされるがままになっていた。
最強の魔術と言われる『神聖魔術』。それを扱うことができるのは、勇者と聖女だけだ。
情報は少ないが、その少ない情報だけでも限りなく最強に近い存在であることはうかがえる。
簡単に負ける気はないが、確実に勝てる相手でもない。今日の戦いでも、全くルークの底は見えなかった。
「ルークは確かに強くなってた。でもあんな力に溺れてるルーク、シリウスなら余裕で勝てる」
いつのまにか音もなく隣に座っていたクロエさんがこともなげに口を開いた。
「二人とも、買いかぶりすぎです」
二人の疑いのない真っ直ぐな視線を受け、思わず頬をかく。
「シリウスくん、ルークくんをよろしくね!」
「ふふ、シリウスくんも勇者くんも、私達がついているから安心して全力を出して倒れてもいいのよ~。優しく看てあげるから~」
ララちゃん、そしてセシリアさんまでもが微笑みながら集まっていた。
「うん、ルークは僕に任せて。ちょっとだけだったけど、これでも一応ルークの元師匠だしね」
グレースさんを、僕らをこんなに心配させているバカ弟子に、喝を入れてやろう。
寂しそうに酔っている(?)グレースさんを横目に、明日の戦いには全力を尽くそうと改めて決意を固めた。




