81.迷宮攻略兵団
「着きましたね」
「う、うむ……」
現在深夜三時頃だろうか、ようやく四十七階層に到達した。
自分はともかくタナトさんまで寝ずに進ませるのは申し訳ないと思ったのだが、彼も徹夜くらいは余裕だというのでお言葉に甘えてここまで小休止のみで進んできた。
所要時間は十八時間とそこそこのスピードであったと思う。
帰りは行きにマッピングしたルートを通ればかなり早く帰れるだろう。
一時間程度の休止を挟み、階を降りるごとに増えてきたハイグールをサクサクと斬りつつ四十七階層の探索を進める。
どこかタナトさんの顔色が悪い気がするが、大丈夫だろうか。
「タナトさん、大丈夫ですか? 僕が見張ってるので少し寝ますか?」
「いや! ま、まだまだ余裕だよ! まぁシリウス君が休みたいと言うのなら――」
「僕はまだ大丈夫ですが……」
「……うむ、私もだ。……進もうか」
そう言うとタナトさんはズンズンと進んでいってしまった。
本当に大丈夫だろうか……?
いや、あれだけ高位の魔術師だ、自らの限界を超えて無茶などしないだろう。
まだ一徹した程度だし、心配しすぎだったかもしれない。
◆
「あぁ……冒険者とはここまで過酷な職業なのか……少しばかり舐めていたな……」
とうとうタナトさんが音を上げ、駆逐した元モンスターハウスで休憩を挟むことにした。
「大丈夫ですか? どうぞ、温かいお茶です」
水魔術と火魔術で作った熱湯でお茶を淹れ、タナトさんに渡す。
タナトさんは目を瞑りながらお茶をすすり、ほぅと息を吐いた。
「ありがとう、シリウス君。今まで迷宮を進むのに自らノルマを課したことがなかったからかな、老体には中々厳しい道程だったよ……」
「申し訳ありません、僕がもう少し早く気付けていれば……」
思えばあの時、いやもっと前のあの時か? まぁとにかくタナトさんに疲労が見えたと感じたときにきっちり休んでおけばよかった。
「いや、君のせいではないよ。……ところで一つ相談なのだが、ここまでで拾ったハイグールの魔核を売ってもらうことはできないかな? 勿論定価より割増の代金を支払おう。実はそれを集めるために迷宮に潜っていたんだ。君と別れた後にもう少し潜って集めようと思っていたのだが、ここまででも意外と多く出現していたから良かったら譲ってもらえると助かるのだが……どうだろうか? 無論、断ってくれても構わない」
様子を窺うようにタナトさんが訊ねてきた。
こちらとしては魔核を全部僕にくれるというのは最初から申し訳ないと思っていたので、考えることもなく了承した。
むしろ取り分として半分は無料で渡そうとしたのだが固辞され、結局金貨を手渡された。
ハイグールははじめて遭遇したので分からないが、今までの他素材のギルド買取金額から考えるとかなりの高値だと思われる。
「こんなに……ありがとうございます」
「いやいや、私も助かったよ、ありがとう」
僕とタナトさんは笑い合い、握手を交わした。
◆
マッピングしつつ進んでいると少し先の大きめの部屋に複数の魔力を感じた。
この密集感、魔力の大きさ、これは……
そう思っていると、入口にいる者がこちらに気づいたようで戦闘の構えをとった。
「君、止まりたまえ。…………冒険者か?」
「はい。冒険者ギルド所属のシリウスと申します」
ギルドカードを掲げ、兵士に見せる。
すると兵士はカードと僕を交互に見て眉を潜めた。
「ふむ、確かに冒険者……Cランク……? はあ? しかも小さい……ドワーフ、ノーム……ではなさそうだな……子供……? 君、種族は?」
「人族ですが……」
「……年齢は?」
「十二歳です」
「……君、一人かい?」
「いえ、途中まではソロでしたが、道中で…… あれ? タナトさん?」
隣、後ろと見てもタナトさんが見当たらない。
魔力感知にもかからない。
一体どこに行ったんだ……?
「どうしたんだ? もしかしてパーティメンバーとはぐれたのか?」
心配さと怪訝さが入り混じったような表情で兵士はこちらの様子を窺っていた。
タナトさんは一体……狐につままれたかのような感じだ。
とりあえず兵士にこれ以上怪しまれるのも好ましくないため、一先ずタナトさんのことは置いておくことにした。
「……いえ、なんでもありません」
「……ふむ。しかし申し訳ないがCランクで十二歳の君がこんな場所にソロで来たというのはいささか信ぴょう性がな……ちょっと取り調べさせてもらうからついてきなさい」
兵士はそういうと仲間を呼び始めた。
気持ちは分かるが、些か理不尽ではないだろうか。
そもそもこの兵士に一冒険者を拘束する権限などあるのだろうか?
「すいません、言いたいことは分かるのですが……その前に貴方はどなたですか? 正式に冒険者ギルドに所属して冒険している僕を拘束する権限をお持ちの方なのですか?」
そう答えると兵士ははぁーとため息を吐き、言い聞かせるように話し始めた。
「いいか? 俺は迷宮攻略兵団、この王国の兵士だ。子どもは黙ってついてきなさ――ぶっふぉ!?」
兵士の後から近づいてきていたムキムキの男が、唐突に兵士に思い切りゲンコツを落とした。
「おい! 冒険者を捕まえて何やってる!! 我々には冒険者の探索を妨害してはいけない規則があるのを忘れたのか!?」
偉そうなムキムキの男がやたらとでかい声で叫ぶと、問答していた兵士がぶわっと汗を噴出した。
「ふ、副長!? い、いえ!! 子どもが迷い込んでいたので保護しようかと!!」
「子どもぉ? ふむ、なるほど。貴様、これだけの技量を持った冒険者を子ども扱いするとは、随分と偉くなったものだな?」
隊長と呼ばれた男はニヤリと口角を吊りあげながらこちらをチラリと横目で見た。
その言葉を聞き先ほどの兵士は目を剥いた。
「……ふぁっ?」
「だから貴様は見習いを抜けられぬのだ。見た目に惑わされ相手の技量も見抜けぬとはな。観察することを怠るな!」
「はっはい!! すいまっせんでした!!」
ムキムキ男に怒鳴られた兵士はガチガチになっていた。
兵士への説教を終えた荒くれマッチョはこちらに振り返り頭を下げた。
「うちの者が変に絡んじまってすまなかったな、冒険者殿。俺はワーレン、一応迷宮攻略兵団の副長なんぞやってる。聞こえてたと思うが兵団はあんたら冒険者に干渉をすることはないから安心してくれ。まぁ、ここから先はむさ苦しい連中がわんさかいるから、そういう意味では迷惑をかけるかも知れんがな」
「僕はシリウスと申します、先程はありがとうございました」
こちらもぺこりと頭を下げるとワーレンさんはガハハと笑った。
「礼を言われるようなことはことはしてねぇさ。ところでお前さん、この下まで潜るつもりか?」
「今日はこの階層で引き返そうと思っていますが……」
そう言うとワーレンさんは少しほっとしたような表情を見せた。
「そうか……お前さんが相当デキる冒険者だってことは分かるが、それでもジジイに一つだけアドバイスさせてくれ。ここから下は今までの階層と同じと思わない方がいい。先遣隊が四十九階層まで到達しているが、モンスターハウスが増えて相当厄介になっているようだ。しかも五十階層は未踏破のボス部屋だ。犠牲になったAランク冒険者は数知れねぇ。……くれぐれも無茶はすんじゃねぇぞ」
言っちゃ悪いが荒くれ者にしか見えないワーレンさんは、その姿に似合わず心配そうに眉尻を下げていた。
「ご心配いただき、ありがとうございます。僕も無茶をするつもりはありませんので、心配はご無用です」
「ふぅ……こりゃ何言っても自分のやりたいことは貫くやつの顔だな。まぁ、用心はしとけよ?」
ワーレンさんはやれやれと肩を竦め、首を振った。
本当に無茶をするつもりはないのだが……五十階層は目指したい。きっとそんな気持ちが顔に現れてしまったのだろう。
僕は苦笑いをすることしか出来なかった。
「ふむ……それでは足止めしてすまなかった。達者でな! ……おい、アベル! アホ隊長見なかったか!? またどっかほっつき歩いているようでな、ここ数日姿が見えん。見つけたらすぐに教えるんだぞ、いいな!」
ワーレンさんは背を向けて、また先程の兵士に大声で叫びながら去っていった。
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