58.特許契約
前回のあらすじ:クレープをベアトリーチェさんに持っていったらハマっちゃった
「いらっしゃいませ―― あら、シリウス君いらっしゃい!」
「こんにちは、ネネさん。トルネさんはいらっしゃいますか?」
僕はベアトリーチェさんにお礼を渡した足で、トルネ商会に来ていた。
「居るわよちょっと待ってね。あなたー!! シリウス君が来てるわよ!!」
すぐに店の奥から、ふくよかな体型の商人、トルネさんが出てきた。
「おぉシリウスはん、いらっしゃい! どないしました?」
「実はトルネさんに教えていただきたいことがあって来たのですが、少しお時間いただくことはできますか?」
「もちろんですわ! じゃあ奥で話しましょか」
バイトの若い子と店番を交換したネネさんと一緒に、奥の部屋に案内される。
トルネさんと向かい合ってソファに座り、ネネさんがお茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
「いえいえー」
うん、相変わらず美味しいお茶だ。
「それで、どのような話でっしゃろ?」
「特許契約について教えてほしいんです」
「ほぉ、特許契約でっか…… 何か面白いものでも作ったので?」
「えーっと、今日甘味を作ったのですが、友達に食べさせたところ特許契約すれば売れるのではないかと言われまして。ただ、そもそも特許契約に関する知識がなくて、トルネさんなら詳しいかなと思いまして」
「レシピでっか。確かに、良いレシピなら飲食店や貴族に売れることもありますな…… 特許契約というのは、商業ギルドが契約魔術で発明者の権利を守ってくれる制度や。契約料が二十万ゴールドも必要やけど、発明品は十年間は発明者が独占販売できるようになるんですわ。勿論、特許期間中に他の店にレシピを販売するのは大丈夫や。勝手に模倣したり契約魔術を破った者がおったら商業ギルドが分かるようになっててすぐに逮捕されるさかい、破る愚か者はおりまへんな」
「なるほどですね…… もし売れそうなら特許契約してレシピを売るか製造販売を委託するかって感じになりそうですね…… トルネさん、もしよかったら試しに食べてみていただけませんか? 歴戦の商人の方から見て、売れるかどうか見てほしいんです」
「もちろんですわ! わいも気になるさかい!」
『亜空間庫』からクレープを取り出して机の上に置く。
ほう、と目を瞬かせてトルネさんがクレープを手に取ってマジマジと観察する。
そしてぱくりと一口食べると、バッと顔を上げた。
「シ、シリウスふぁん!! ほれっ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」
口にクレープを含んだまま捲し立てるトルネさんにお茶を手渡す。
クレープを飲み込んだトルネさんが凄まじい形相で迫ってくる。
「シリウスはん、これは『砂糖』を使ってはりますね? こんな高級な素材どこで手に入れたんで? しかもこのふわふわした甘い泡…… これを特許契約するだけでもお釣りがきまっせ!? しかもベリーとバナヌの甘酸っぱさもたまりまへんが、他の果物と合わせても良さそうやし、これは売れまっせ!!」
「砂糖は自作しました。個人で量を作るのは中々難しかったですが…… その泡も大量生産するなら、それ用の道具を作ったほうが楽だと思います…… あ、それも特許契約すれば売れるかもしれませんね。具はしょっぱいものにすればご飯にもなりますし、色々なバリエーションで売れるかと思います」
「す、素晴らしい…… 素晴らしいでシリウスはん…… ち、ちなみにこれ、わいの商会にも売ってくれたり……」
「実はそこもご相談したかったのですが…… この『クレープ』の製造・販売をトルネ商会に委託することってできませんか? 例えば、最初は屋台で販売してみて、行けそうなら喫茶店を開いてそこで提供しても売れるんじゃないかなって思うんですが」
「き、喫茶店ってなんでっしゃろ……?」
そういえばこの国にはコーヒーが普及していないし、カフェって言うのは少し違うかも知れないな。
「喫茶店は、お茶や軽食を食べるお店ですね。
このクレープは甘い物が好きな女性がメインターゲットになると思うんです。気軽に歩きながら食べられる屋台もいいんですが、歩き食いがはしたないと思う女性も多く居るはずです。
またこの街の飲食店って酒場か高級なレストランかで二極化してますよね。女性が気軽に入りやすいお店が全然ないと思うんです。女性が遊びに行く場所って、服飾店くらいしかないんですよ。
そこで、女性をターゲットにしたクレープやサンドイッチのような軽食と紅茶を提供する飲食店はニーズがあると思うんですが…… どうでしょうか?」
トルネさんの目が点になって、口をあんぐりと開けている。
ついつい前世の癖で営業トークしちゃったけど、いきなりこんなこと言われても困るよな……
「も、勿論まずは簡単に販売できる屋台で売ってみて、売れそうなら…… で良いと思うんですが……」
トルネさんが下を向いてふるふると震えている。
え、怒らせちゃった……?
「いや……」
「いや?」
「いや!! 今すぐ喫茶店事業に着手すべきや!! す、素晴らしいでシリウスはん!! 是非、クレープの販売を任せてくれまへんか!?」
「えっ!? 本当ですか……?」
「大マジや!! 早速今から特許契約書を作成していきまひょ! 勿論わいが作成しますさかい!」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
「わいの方こそ、これからよろしくお願いしますわ」
トルネさんと固い握手を交わした。
「さて、特許契約についてだけど、クレープ、生クリーム、遠心分離機、喫茶店やな。まさかバターを作る過程から生クリームができるとは思いわなかったで…… しかも遠心分離機、これも凄いで! これがあればバターも効率的に製造できるようになる、素晴らしい発明や! あとは砂糖の製造法をシリウスはんが売ってくれたのは物凄く大きかったで…… 特許期間が切れてるのに材料も製造方法も誰も分からなかったさかい、未だにあのケチくさいシュガー商会が独占してましたよって。歴史が変わると言っても過言ではないで!」
トルネ商会が低価格で砂糖を販売するようになれば、一般家庭でも砂糖が使えるようになって生活がより豊かになるはずだ。
シュガー商会には申し訳ないけど、もう沢山儲けただろうから許して欲しい。
「あ、喫茶店をやるならフレーバーティもいいかもしれませんね」
「フレーバーティ……?」
あまりの興奮にトルネさんの鼻の穴がドンドン広がっていく。
「紅茶の葉っぱにドライフルーツや果物の皮を入れたものです。紅茶に果物の香りがつくので、女性に喜ばれると思います」
「それ絶対売れる奴や!! それも特許契約やな!」
トルネさんがガシガシと特許契約書を書き上げていく。
「しっかしシリウスはんのその発想力、素晴らしいですな…… もしまた良いものを思いついたら相談してもらえますやろか? 全力でお手伝いさせてもらいますさかい!」
「えぇ、もちろんです。僕も思いついただけでは実際に販売まで持っていけませんから、トルネさんが居てくれて本当に助かりました。ありがとうございます」
「いやいや、わいの方こそほんまに感謝しかありまへんわ……!」
しっかしトルネさん、決断も仕事もすさまじく早い。
流石はAランクの商人だなぁと実感する。
◆
トルネさんに連れられ、商業ギルドに来た。
ひと目で儲かってるなと分かるような大きな建物だ。
紹介者のトルネさんがAランク商人であるため、僕の商会とギルド登録、特許契約までスムーズに進んだ。
ランクはFからスタートだったが複数の特許契約を結び、更にそれをすぐにトルネさんと利用契約したため、すぐにDランクまで引き上げられた。
今後は販売額、僕の場合は特許物を委託した業者から得られる金額によって、ランクが上がっていくらしい。
トルネさんによると喫茶店事業が軌道に乗ればすぐにBランクにはなれるのではとのこと。
そんな上手くいくかなと疑問ではあるが、別に商人になるわけではないので別にランクを上げる必要性もあまり感じられないので気にしないことにする。
僕の取った特許物のトルネ商会での製造販売権利の申請も同時に行い、契約上の準備は完了した。
トルネさんは特許権利の利用料として特許物一つあたり三百万ゴールドの合計千五百万ゴールド、加えて販売売上の一割を支払ってくれるという。
流石に貰い過ぎだと言ったのだが、商人としてこれは譲れないとのこと。
こちらもそれでは申し訳なかったため、喫茶店開店の初期費用にでもと一千万ゴールドを投資させてもらった。
成功したら絶対利子つけて返すと言われてしまったが、まぁ戻ってきたらラッキーくらいに考えておこう。
お金を貸す時は戻ってこないものと考えないとね。
喫茶店の需要はあるはずだし、そんな大きな失敗はしないと思うけど。
お読みいただきありがとうございます。
異世界なのになぜトルネさんがエセ関西弁なのか、というのは触れないであげてください。
喋りが胡散臭いおじさんとでも思っていていただけると。
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次回更新予定日は6/27(水)です。




