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33.刹那の一閃

「次、受験番号987番、シリウス・アステール」


「はい!」


 試験官に誘導され、近距離の的の前に立つ。

 近くで的をよく見ると薄っすらと魔力を帯びているのが分かり、物理的に硬いだけではなく、魔術的にも強化されていることが窺えた。


「ふぅー……」


 深呼吸をし、愛刀『雷薙』の柄を握る。

 『練気』にて気力を高めると同時に、二つの術式に魔力を充填しはじめる。

 十分に気力と魔力を高め、術式を開放する。


雷光付与(ライトニングオーラ)』 『瞬雷(ブリッツアクセル)


―――バチチチチィッ


 大量の魔力を込めた雷属性による強化が二重に掛けられたことにより、身体から大量の電気が放電される。

 抜刀する瞬間、刀に帯びる大量の電気が鞘の中で強力な電磁力を発生させ、刀を高速で射出する。


 それは、刹那の一閃。


―――キュィンッ


 刀は、鞘に収まっていた。

 ただ、そこに漂う雷の残滓のみが、刀が振られたことを物語っていた。


―――チンッ


 納刀の音と共に、両断された的が地面に落ちる。

 切断面は赤く溶けており、超高温の斬撃であったことが窺い知れた。


「「「…………」」」


 会場が静寂に包まれる中、全身から冷や汗が吹き出してきた。


 ……やっべぇぇぇぇぇ! やりすぎた……!

 いや、的メッチャ硬いし、全力でやっても斬れないと思ってたのに…… まさか斬れちゃうとは……


 鞘の内部に『磁力(マグネティック)』の魔術を付与(エンチャント)して、レールガン仕様にしたのはやりすぎだったか……?

 いや、それとも強化魔術を『開放(リベレイト)』して斬撃に乗せたやつか……?

 切断面溶けてたもんな……あんな馬鹿みたいに魔力を込めた雷魔術を『開放(リベレイト)』した温度には耐えきれなかったのかな……


 いや、一番の原因は『雷薙』の切れ味だな。

 Sランクの刀なんて使ったら誰でもあの的切れるんじゃないの?

 いや、そうに違いない。うん、僕は悪くない。



 そんな現実逃避をしていると、試験官が現実に戻ってきたようだ。


「……ハッ!? ま、的を交換せねば…… いや、シリウス・アステール、とりあえず君は次の遠距離の試験を受けなさい」

「了解であります」


 あまりの動揺に変な受け答えをしてしまいつつも遠距離試験の的へ向かう。



 これ以上目立たないためには、手を抜くか……?

 いや、さっきのは『雷薙』のせいだ、流石に魔術は大丈夫だろう。


 的の前に立ち、術式に魔力を充填しはじめる。

 使う魔術は派手に爆発したりせず、貫通もしない、的にピンポイントで衝撃を与える魔術である、アレだ。

 術式に魔力が十分に充填される頃には、漏れ出した魔力が若干の電気を帯び始め、周辺にバチバチと放電音がしていた。

 よし、いくぞ。


「『雷神鎚(トールハンマー)』」


 アッパーをするかのような僕のモーションに追随し、的の下部に発生した雷の鎚が上空に振るわれる。


―――パァンッ


 乾いた破裂音を立てて粉々に砕け散る的と共に、雷の鎚が霧散する。

 計画通り大きな音や爆発を起こさず、建物に一切の被害を与えず、地味に()()()()()()

 そう、唯一計画違いだったのは()()()()()()()ことだけであったが、それが一番の問題であった。


「「「…………」」」


 またもや会場が静寂に包まれる中、居た堪れない気持ちになり思わずエアさんの方に視線を向ける。

 エアさんは『私にはどうしようもない』とでも言いたげな目ををしながら、手を横に振っていた。



「あのー…… これで実技試験、終わりですよね……?」


 とりあえず早くここから去りたい一心で、試験官に声をかける。

 僕の声に現実に戻ってきた試験官は、戸惑った表情のまま口を開く。


「あ、あぁ…… 一次試験合格者発表まで待っていなさい」

「はい、失礼しました」


 立ち去る許可を得た僕は、そそくさと皆の視線から逃れるように、乾いた笑いを浮かべながら呆れた表情をしたエアさんの隣へ移動した。


「あははは…… ちょっとやりすぎちゃいました……」

「あなた…… 本当に何者なのよ?」

「ただの田舎者の剣士なんですけどね……」

「ただの田舎者の剣士があんな馬鹿みたいな威力の魔術を使えるなんて、たまったもんじゃないわね」


 これ以上追求しても意味がないと思ったのか、エアさんはやれやれとため息をついた。

 試験場の静寂は収まり、ザワザワと皆口々に先ほどの事件のことを噂していた。


「あいつ何者なんだ? 魔族か?」

「あの的、ダメージ受けすぎて弱まってたんじゃないの?」

「俺、速すぎて斬ったことにすら気づけなかったんだが……」

「安心しろ、俺もだ……」

「あの魔術、上級以上の威力は出てたよな?」

「化物、化物だ」


 好き勝手なこと言いやがって、誰が化物だ誰が。

 僕程度が化物だったら父さんや母さんは何なんだ、魔王か?



 その後、実技試験は恙無く進み、一次試験合格者発表となった。

 受験者二千人の中から二百人近くに絞られていたが、的をぶっ壊したお陰かなんとか合格していた。

 エアさんも合格しており、二人で二次試験に進むことができることを喜ぶ。



 入学試験は一次試験と二次試験に分かれており、一次試験は筆記試験と実技試験、二次試験は実戦試験となっている。


 今まで受けていたものが一次試験で、これに合格したものだけが二次試験に進める。

 二次試験の実戦試験は教師と実戦を行い、戦闘での総合力が評価される。

 そしてその結果で合否が決められると共にクラス分けが行われる。


 クラスは実力別にS、A、B、C、Dの五クラスに分けられる。

 年末に行われるクラス分け試験によって毎年クラス分けは変動するので、入学後の努力によっては上がることも下がることもある。


 実技試験は武器や魔術の使用は可能となっている。

 なんでも魔導具で作り出した擬似空間で試験を行い、そこで死んだとしても、現実には死なないようになっている。

 擬似空間内で命を落とした場合は強制的にその空間から退場させられ、体は戦闘前の状態に戻される。

 また途中で擬似空間から出た場合も戦闘前の体に戻されるため、怪我等のダメージは負わないらしい。

 ただし空間から出るまでは痛みは感じるらしいので、実際の戦闘と変わらないのだとか。


 そうこうしているうちにエアさんの順番となり、試験官から呼ばれる。


『受験番号986番、エア・シルフィード。闘技場へ上がりなさい』

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

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