未知の魔物とサラへの陰謀?
今日の依頼は討伐依頼だった。何でも修行階の怪物を倒せたのだから大丈夫だろうとの事で、とある村に現れた未知の魔物を倒して欲しいという依頼。
未知の魔物は近づいた人間を襲い10人程に重症を負わせているらしく、救援要請がフォレストまで回ってきたそうだ。
この依頼はチームでなければ受けられないと言われたので、サラと川崎さんを誘った。しかしサラは修行階の怪物を倒していない為、レベルが討伐依頼の設定より低かったせいでサラだけは受けられなかった。
「私も倒してくる。アンタがやれるなら私も出来るでしょ」
そう言ってサラは移動部屋から修行部屋へ向かって行った。チームが2人では行けない。誰を誘おうかと思ったら近くにバルドさんがいた。
しかし誘ったら違う依頼に向かう所だったらしく行けないと断られてしまった。残念だ。アリサさん曰くバルドさんが行く依頼は基本指名されているそうだ。人気者も大変だな。
「君、依頼のチームメンバーが足りないなら手伝うよ」
声を掛けて来たのはヒョロっとした体型で、少し頼りなさそうな男だった。名をラーク・アートという。年齢は23。服装は白だが所々絵の具の汚れがある。彼の武器は筆とパレット。職はマジシャンで付与の魔法適正があり、基本オリジナル魔法での戦闘をするそうだ。
「よろしくお願いします。えっと……ラークさんでいいですか?」
「ああ、君達は確かハルキとアイだね。よろしく。敬語はいいよ、ギルドの仲間だろ?」
俺達は必要な荷物を持って、街を出た。道中の魔物は俺かラークさんで仕留めていった。ギガプラントに比べれば他愛もない魔物ばかりだ。
ラークさんの戦闘法は絵を形にする『ペイント』というオリジナル魔法と、色に属性を与えて具現化する『カラーズ』というオリジナル魔法を併用して戦うようだ。
武器が筆とパレットと言い出した時点で大体は想像がついていたが。
「そういえば、魔物が活発化したのは何でだと思う?」
ラークさんが俺達に聞いた。しかし、異世界から来た俺達に答えなど分かるはずがない。ラークさんはササッと画用紙に世界地図を描いて見せてくれた。
「僕はね、魔王の復活が原因だと思うんだ。世界のこの西の辺りが魔物のレベルがとんでもなく高くなっている。これは魔物が魔王の力を得たからではないかと僕は推測してる」
「魔王……ですか?」
ラークさんが嬉しそうにこの世界の昔話の伝承を話してくれた。
何千年も昔。王子である2人の兄弟が居た。その兄弟のうち弟は正しい力を持って世界を導こうとし、次代の王になる事が決まった。次代の王になれなかった兄は嫉妬から闇の魔術を使い、世界を混沌に陥れようと企てた。それに気がついた弟は光の魔術を使って異世界から勇者を呼び出し2人は共に戦い、兄の企てた計画を潰した。
しかし、それに憤怒した兄は闇に飲まれ魔王となり世界を滅ぼそうとした。止めようとした勇者は魔王に敗れ、最後の手段で弟は自らの命を犠牲にして魔王を封印した。
という話だ。ありがちな昔のゲームストーリーみたいだが、実際にあった事らしい。今の王都にいる王様は当時の勇者の血を受け継いでいる。勇者は敗れたが死にはしなかったのだろう。その封印が解けたので魔物が活発化したというのだろうか?よく分からないが。
3人で今までの事や、伝承などを聞きながら歩き、2日経ってやっと目的の村に着いた。村は別段荒らされた訳でも無さそうだが、今日もまた怪我人が運ばれて来たらしい。被害者がこれ以上増える前に行かなくては。川崎さんは被害者が運ばれている治療院に話を聞きに行った。
「で、その魔物ってどんな魔物なんですか?」
「強いて言うなら犬だな」
川崎さんに犬と聞いて重症を負わせる位デカイのかと想像したが……実際、骨が折れたりした人はいない。全身に噛み付かれた跡があった人もいた。どうなんだ……?
「ここの東の森にいるそうです。行きましょう!」
川崎さんが先頭に立ち、鼻歌混じりに歩いていった。余裕があるのはいいが大丈夫か?ちょっと不安になる。剣をいつでも抜けるようにして付いていく。ラークさんは魔物のスケッチを描くために、筆と画板をカバンから取り出した。
なかなか見つからないと思っていたら、川崎さんが小さい声で『居た!』と俺達に手招きした。
そして、数時間経ってようやく見つけたその魔物は子犬サイズの三つ首の犬。ケルベロスだったのだ。見た所毛並みは良く、焦げ茶色をしている。
「……え?アレが原因?」
「可愛い〜!連れて帰りたい!」
「いや、それはマズイんじゃ……」
そのケルベロスは少しプルプルと震えている。何かに怯えているのだろうか。ケルベロスは地獄の番犬って言われる程の怪物じゃ無かったか……?それが怯えているのだ、よほどの怪物が他にいる可能性がある。
「川崎さん。もしかしたら別に怪物がいる可能性がある。戦闘準備は怠らないでね」
「わかりました。探知します。我が力を天に捧げ、危険を我に知らせよ!『サーチ・フィールド』!」
川崎さんにしか見えない蒼白い光が森に広がって行く。森を覆う程の探知結界が広がった。ラークさんがこれ程とはと関心していた。ちなみに杖を突き立てて直接周囲に張っているらしい。ラークさんが分かるのは魔力の質から規模を推測しているかららしい。
しばらくすると、川崎さんが何かを感知した。
「2時の方角……何か微弱な魔力が固まって動いています。不自然なまでに力を隠そうとしているのでおそらく密猟者では」
「密猟?魔物を密猟して意味があるのか?」
「かなり珍しい魔物だからねケルベロスは。物好きな貴族に売れるのさ」
物好きな貴族……やはりそういう奴が居るのはお約束らしい。ラークさんの話だと多様な種族の女性ばかりを集める貴族や、珍しい魔物を集めては戦わせて楽しむ貴族は割とたくさんいるらしい。とある貴族の領地には戦闘奴隷が戦い合うコロシアムもあるとか。
この国の闇を見たような気がした。
「依頼は討伐だけど密猟者をほっとく訳には行かないよな」
「うん。行くよハルキ、アイ。目的はケルベロスを救出保護に変更だ!」
俺達はケルベロスを驚かさないようにゆっくりと移動し密猟者らしき奴らがいる近くまで、川崎さんの隠蔽魔法を使って近づいた。これで姿も魔力も川崎さんレベルで無くては気が付かない。そこにいたのはいつぞやの火鼠盗賊団の3人組だった。アイツらは服装が装備以外一緒だから分かりやすい。近づくとヒソヒソ話が聞こえてきた。
「未知の魔物を捕らえる罠を仕掛けておいたが、かかっているかな」
「ヒヒッ、奴を捕らえて売り捌けば大儲けだ」
如何にも小物っぽいセリフだな。と思ったがよく見たらコイツら全員あの時俺達のカバンを先生ごと盗もうとした奴らじゃないか!懲りてないならもう一度懲らしめる必要があるな。そう思って俺は剣に手を掛けたがラークさんに止められた。
「待って、アイツらはまだ密猟を完了していない。このままでは捕らえられない。あそこで密猟を完了したら僕が魔法で絵にするから捕らえるのはそれからだ」
ラークさんの静止で俺は剣から手を離した。気づかれないように火鼠盗賊団にゆっくり着いていく。鎧を誰一人として着ていないから音も鳴らないし気づかれる事は無いだろう。装備は軽い方が楽で良いしな。
火鼠盗賊団の服は赤い炎をあしらった上着の胸元に鼠のマークが付いている。絶対鼠マーク要らないだろ。そして片方の耳に鼠の形のピアスを付けている。上着の背中には『火鼠』の二文字。見たらすぐ分かるのが火鼠盗賊団だ。とんでもなくダサい格好と本人達は思ってないのだろうか。
「おっ、掛かってやがった!」
「ヒヒヒッ大儲けだ!」
ケルベロスに手をかけた瞬間、ラークさんがすかさず絵に描き写す。そして川崎さんの隠蔽魔法を解除し、ラークさんが声を張って宣言した。
「ギルド『フォレスト』だ!お前達を密猟の現行犯で捕縛する!」
「何だと?!見つかっちまったか!」
火鼠爆弾という名の鼠花火をまたばら撒いて来た。あの時と同じように全て弾き返し、川崎さんはその瞬間に詠唱を終え奴らをあっという間に拘束した。
「我が力を天に捧げ、全てを縛る鎖とせよ!『スレイブチェーン』!」
「うわっ!動けねぇ!」
「仕上げはこれだ!『サンダースラッシュ』!」
「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」
三人纏めて電撃で気絶させた。超弱いじゃねぇか……威勢だけかよ。ケルベロスはトラバサミに足を挟まれ怪我をしており、俺達を威嚇していた。
「今外してやるからな」
「ヴー……ガウ!」
俺が近づくと吠えられた。ダメか……と思っていると川崎さんが近づいた。彼女の手にはクッキーがあった。
「ほら、クッキーあげるから動いちゃダメよ。……はい外せたよ」
「ワン!」
クッキーで釣られる地獄の番犬って……大丈夫かよそれ。罠で怪我をしていた足は川崎さんがヒーラーの力で治していた。
子犬ケルベロスは川崎さんが頭に乗せて依頼主のいる村に連れ帰った。依頼主の町長に会い依頼について話した。
討伐依頼は達成されなかったために依頼報酬は皆で相談し、受け取らない事にした。
代わりに飼い犬(?)となったケルベロスを川崎さんが満足そうに頭に乗せていたし、よしとするか。
────時は遡り、隼輝が丁度ギルドを出て行った時。マスターに12階での修行をさせてくれと嘆願しに行った。しかしサラは許可を貰えなかった。生産職は戦闘は出来なくても良いと言われてしまったのだ。
サラは諦めきれず、12階の扉を開けた。マスターには無断である。鍵は自分で作れる為、簡単に開けてしまった。中には寄生植物ギガプラントが20体。全てがレベル10に設定されていた。部屋の外からレベルが設定できるようになっており、設定された持つギガプラントが屋根から種の状態で落ちてきてはすぐさま巨大化する。
「はあっ!てやぁ!」
「SYAAAAA!!!」
元から喧嘩の強かったサラはその身体能力だけで、ギガプラントを次々沈黙させていく。レベル10のギガプラントはスフィアシールドが使えない。弱点さえ分かればいとも容易く倒せる魔物である。
「レベル18……まだまだ上げなきゃ……!」
サラはこの時点で30体もの10レベルギガプラントを屠っていた。調子よく狩っていたサラだったが突如現れた魔物のレベルが38に跳ね上がった。何故……!?そう思っているとドアがひとりでに閉まり、鍵が掛けられ、ズシンと重たい物が置かれる音がした。
押しても引いても扉は開かず完全に閉じ込められてしまった。レベル的に勝ち目はない魔物を放った奴が恐らくドアの鍵を閉め何かしらのバリケードを部屋の外に築いたようだ。
「一体誰が……鍵を持ってるのはマスターだけ……まさかリジェルさんが!?」
「GISYAAAAAA!!!」
サラの目の前にはレベル38のギガプラント……ではなく、寄生植物王デスプラントという名前の魔物がいた。
そのすべての葉や茎にはトゲがあり、ギガプラントよりも醜悪な姿をしているソレはギガプラントの親玉と呼ばれる魔物である。
「……やってやるわよ。アンタの試練なんでしょどうせ」
ギガプラントの死骸からトゲを毟り取り、幾つもナイフを精製する。
トゲナイフ
攻撃+1
そのすべてが火を纏うナイフと化していた。サラが覚えたスキル、スローナイフの強化スキル。属性付与の魔法を使った混合攻撃である。
「『ファイアスロー』!」
しかし、デスプラントには全く効いていない。デスプラントは仕返しと言わんばかりに大量の刺を飛ばしてきた。それを今度はサラがギガプラントの死体を盾にし防ぎきり、さらにそれを瞬時に加工し鞭を作った。
ギガプラウィップ
ATK+2%
俊敏+20
攻撃速度+3
毒状態+10
ギガプラントの茎を使って作られた鞭。相手を毒にする事がある。
これなら!と、鞭を振るいデスプラントに叩きつける。しかしデスプラントは毒に耐性があり、10程度の毒付与攻撃では全く効かないのだ。効かないと分かれば違うものを使うしかない。
ギガプラウィップを捨ててナイフに持ち変え、 何度もツタに突き立てる。しかしナイフ程度ではダメージにならず、何度も攻撃するサラをまるで鬱陶しいハエを払うかのように、デスプラントは動くツタで弾き飛ばした。
「くっ……こんな奴に負けてる場合じゃないのよ!!」
無理やり自身を奮い立たせ、立ち上がる。ナイフを掴んでありったけの魔力をつぎ込んでナイフに属性を付与していく。するとナイフが光輝き、目の前にメッセージが表示された。
職・アサシンに覚醒しました!
2重職覚醒ボーナス・全ステータス向上!
アサシン×生産により覚醒スキルが開放!
分裂ナイフ
条件・ナイフ10本以上を作れる素材がある時。ナイフの種類は何でもよい。(違う種類でも可)
アサシンスキルの開放!
隠密行動のステータスが開放!
罠作成開放!
etc……
と沢山の情報と力がなだれ込むようにしてサラに与えられた。アサシンとはこの世界ではかなり少ない希少職であり、特殊なスキルを覚えると言われている。ナイフ装備時に使えるスキルが多く、他にも弓や魔法銃スキル等がある。
「ここからは私の番よ……我が力を闇に溶かし、敵を屠る力を授けよ!『ライズアップ・A』!」
攻撃のステータスが3割上昇する強力な強化魔法だ。アサシンに覚醒した瞬間に新たに覚えた魔法である。さらにナイフを構え、スキルを発動する。
「ファイアスロー+分裂ナイフ……!『アサルトフレアナイフ』!!」
サラは燃えるナイフを1本投げつける。なんとそれは突如数が倍になり、2本に。どんどん分裂し、最終的に16までは増えたがそれ以上は増えなかった。魔力が底をついてしまったのだ。
「GISYAAAAAAAA!!?」
燃えるナイフの雨を浴びてデスプラントは炎上した。しばらく苦しんだあと叫び声を上げてそのままデスプラントは燃え尽きて無くなった。経験値が大量に入り込み、サラのレベルは一気に32にまで上がる。
レベルが上がった事により沢山のスキルや魔法等が開放されたが、彼女は著しい魔力消費のせいで気を失ってしまうのだった。