落下。そして
俺、沢田隼輝と河端サラが異世界に行く事となったその発端は数時間前の事。
俺はいつものようにサラを屋上へ呼び出し、非行をやめさせるべく説得する気でいた。今日こそは、今日こそはと何度もやり続けてかれこれ1年。高校に入ってからずっとやり続けている。
彼女が非行に走った理由は中学3年の時。サラは学校の階段から落下し足の骨を折る大怪我をした事があった。原因は男子生徒との喧嘩。何故喧嘩になったのか、教師に一切喋らなかったため詳しくは彼女と、喧嘩した相手しか知らない。
しかしその日からサラは変わった。前はとても優しく、よく笑う奴だったのに突然周りに暴力的になり、誰も自分に近寄らせようとしなくなったのだ。まるで誰も彼もが憎いかのように、常に睨みをきかせて不機嫌そうな態度をとっていた。さらには毎日のように夜中に徘徊。警察にも何度か注意をされていた。
「毎日毎日、うっぜえなお前は」
「せめてあの日の喧嘩の理由くらい教えてくれないか?話せば楽になるだろ」
「だから何でてめえに教えなきゃならねぇんだよ。関係ないだろ」
「ある!あるから聞いている!」
「そもそも今更言ってもなんの解決にもならねぇだろ、毎回しつけぇんだよ!」
余計なお世話なのはわかってる。でも昔のサラに戻って欲しい。このままじゃ、サラはずっと孤独だ。そんなふうにはさせたくない。その思いで毎回こんな問答を続けている。
いつもは数分間でサラが逃げるように帰ってしまうのだがこの日は少し違った。空が暗くなると同時に校舎が少し揺れたかと思っていたら次の瞬間、デカい揺れと共にサラが背もたれにしていた手すりが崩壊し、落下を始めたのだ。
「きゃっ!?」
「サラ危ないっ!」
手を伸ばし、サラの手を掴んだ。しかし自分が乗っていた足場まで崩れ俺達はそのまま地面に出来た亀裂に飲まれていった。
きっともう、目を覚ます事はない。だから最後にこれだけは言わせてくれ。
俺は────
目が覚めた。校舎の屋上から落下し地面の亀裂へ吸い込まれていったはずの肉体は無傷で、制服も無事だった。サラの姿が見当たらない。
この場所は洞窟のようだ。一緒に落ちた筈だし、俺が無事ならおそらく何ともないだろう。辺りを探すと岩陰で気を失って倒れていた。同じく無傷。揺すってみると目を覚ました。
「あれ……なんだよここ……」
「わからない。とりあえず一旦出よう」
ケータイのGPSは使い物にならず、自分の位置は分からない。ここが本当に洞窟なら壁づたいに歩いていけば出られるはず。2人で無言で歩き続けた。30分程で光が見え、人影らしき物が出口に立っていた。俺はとにかく他にも人がいることに安堵し、声を掛けてしまった。
が、その人影は突如咆哮しゆっくりこちらへ近付いて来た。その人影の頭には釘が刺さり、血塗れの皮膚は緑色をしており片目が無く、所々に蛆が群がって肉を貪りうねっている。
立っていたのは人ではなく、ゾンビだったのだ。逃げようとしたが、初めて見た本物のゾンビに腰を抜かし動けない。
「ひっ……クソッ、動けよ……動けよ俺の足!」
「ぼさっとすんな隼輝!」
サラがゾンビの頭に蹴りを入れた。が、全くダメージが入っていないようだった。ゾンビの狙いは俺からサラに向く。情けない。幼馴染み1人も守れず俺は腰を抜かし、殺られるのを待つしか無い。そんなのは嫌だ!サラは壁際にまで追い詰められていた。俺は勇気を振り絞り、手元の石をゾンビに投げつけた。背中に当たったただけだが、苦しんでいる。ダメージが入った様だ。サラの蹴りではダメージが無かったようだが……何故だろうか。今度はサラが怯んでいるゾンビに人間の急所である顎に向かって拳を振るった。腐っていたのか、顎は抉れて吹き飛んだ。そのまま彼女が膝蹴りを鳩尾に打ち込むとゾンビは崩れ落ちた。ピクリとも動かなくなったゾンビは消滅し、ボロい剣が1本現れた。
「何それちょっと貸して?」
「何するんだ?」
「もうちょいマシに出来そうな気がする」
サラにボロい剣を渡すと手元の瓦礫を使い、それを殴り始めた。一心不乱に殴り続け、瓦礫が砕け散るまで続けるとボロい剣は光り輝き見事な鉄の剣へと精錬された。
鉄の剣になったそれを持つと俺の目の前に『ショートソード』という文字と詳しい情報が現れた。
【ショートソード】(河端サラ作)
攻撃力+10
回避-1
防御+2
鉄で出来た剣。初心者でも扱いやすい。
何が起こっているか理解が追いつかない。黙っていたらサラが顔を覗き込んできた。
「どうしたんだよ」
「説明みたいなのが出たんだ。武器のな」
サラが自身の手を見つめ、首を傾げている。何故サラがボロい剣をここまでまともなショートソードに変える事が出来たのだろうか。
しかも何だろうか。嫌な胸騒ぎがする。自分のいる場所は本当に日本なのか……?
洞窟を出ると森が広がっており、麓には村らしき物が見えた。この洞窟がある場所は山だったようだ。学校から落下したはずなのにいる場所が山だったのは何故か分からないが2人で話し合った結果下山し村まで行く事になった。
「剣は私が持ってるぞ。お前が戦える訳無いからな」
「分かった。頼むサラ」
サラは確か剣道を小学校の頃やっていたのを思い出した。途中で辞めたが、かなり実力はある方だったそうだ。サラを先頭に山を下る。
見渡す限りの木々が、綺麗な空気と大自然の素晴らしさわ伝える。いい場所だなぁと思い耽って居ると、この山には似合わない甲高い悲鳴が聞こえた。ここから東の方だ。
「今のは……!?」
「行かなくて良いだろ。さっきみたいにゾンビだったらどーすんだよ」
「さっきのは人の声だ間違いない!行こう!」
俺はサラの静止を聞かずに、悲鳴があった方へ走るのだった。




