6.暫定的な魔獣の王
さて、先日、人狼の集団が襲ってきて気付いたことがある。
「いちいち、俺が応対するのも面倒だな」
玄関や窓から出て、怒鳴り散らして帰るというのは、手間が掛かる。
なので、先んじてトラップを作っておくことにした。
「位置はこの辺かなあ。サクラ、ちょっと来てくれ」
「かしこまりました」
使うのは、やはりリンゴの木だ。
他に素材があったら別の罠を作るが、今あるものならリンゴの木が一番使いやすい。
「この辺に、リンゴの木の根っこがあるから、魔力で急成長できるようにしよう」
「はい。では、どうぞ」
サクラの体に手を触れつつ、地面に魔力を通して行く。
――設置完了。
あとは魔力で起動させれば、地面から大きな根っこが跳ねあがってくる仕組みになった。
これで、乗っかった異物を遠くの空まで吹っ飛ばしてくれるだろう。
「んぅ……完成しました、主様」
「よしよし、じゃあ次だな」
罠を張っていると、なんだか俺だけの庭づくりをしているようで楽しくなってきた。
そんな風に楽しみながら仕掛けを施していると、
「主様、また、来ていますね」
「あん?」
また、俺たちの目の前に人狼たちが来ていた。
設置した罠の餌食にしてやろうか、とも思ったが、今回は数人しかいない。
これなら罠を使うまでもないな。
……そもそも、身なりがきれいな気がする。
ちゃんとした服もきているし、
「何しに来たんだ、お前ら」
だから聞いたら、人狼たちはいきなり平伏した。
「我らが王よ……我らは魔境森を治める人狼の一族と、いいます」
そして、一番先頭にいた人狼が、使いなれていない敬語を使いながら、モゴモゴと喋り始めた。
「はあ、それで?」
「我々は貴方様を王と認め、降伏します…………その証、お受け取りください」
彼が両手で差し出してきたのは、銀色のベルがついた首輪だ。
なんでこんなものを俺に渡してくるんだ。飼えとでも言うのか?
「これは、人狼に伝わりし宝具。我々が真に使えるべき強者に出会った時、長から強者へ渡す証です」
いや、別にいらないんだけど。王様になった覚えもないしさ。
「わ、我々が敵対しない、という決意の表れです。ここに置かせていただくだけで結構です。なにとぞ、お納めください」
と、彼らはそう言って、その首輪を地面に置いた。
手がぷるぷると震えているのは緊張か何かか。
ともあれ、やっぱり首輪はいらないし、むしろただのゴミになるので持ち帰ってほしいのだが。
「で、では、森の木々にでも、掛けておきます! 我々の力が欲しい時は、遠慮なくベルを鳴らしください。我々は貴方に、敵対する事は、ありませんので」
焦ってしつこいくらいに敵対しないことを言ってくるが、もう分かったっての。
「おう、分かったから帰れ帰れ。俺は今、庭造りに忙しい」
「りょ、了解です。が、その前に、こちらを! 我らからの供物となります!!」
更に、人狼たちは、大きな布袋と壺を山のように持ってきた。
中には、氷で冷やされた動物の肉やら、果物が大量に詰まっている。
「なにこれ?」
「よ、よろしければ、お受け取りください。我らが王に対する忠誠代わりの、品物です」
王様とかになった覚えは無いんだけど、くれるというのなら貰っておこう。
「ただ、量が多い。もっと少なめでいい」
精々、大きな袋一つと壺ひとつ分だ。
多すぎても食いきれん。そう言ったら、
「わ、我々に……気遣いを……?!」
滅茶苦茶驚かれた。なんだよ。
二人しかいないんだから、大量に食えるわけないだろ。
ちゃんと持って帰れよ。
「了解しました、我らが王よ! 皆のもの、この寛大なる御身に、敬礼ッ!!」
「応ッ!!」
何故だか人狼たちは感謝の言葉と敬礼を残して、去っていった。
そして彼らは定期的に、俺の家の前に野菜や肉などを持ってくるようになった。
「主様、今日の夕飯は野菜とお肉たっぷりのシチューですよ」
「俺の好物きた――!」
まあ、俺の毎日の献立は豊かになったから、いいか。
2位に入ったことが嬉し過ぎて、予定変更して夕方の早いうちから更新させて貰いました。応援ありがとうございます! 夜も更新します!
よろしくお願いします!