――side 魔女姫―― 竜の正体とディアネイアの畏怖
魔女姫、ディアネイアは業務に追われていた。
というのも先日、偶然手に入れた飛竜が想像以上の高値で取引されたため、王家にかなりの財産が入ったからである。
「これをどう使えばいいものか。私の頭では追いつかんな……」
第二王女の仕事として、この王都の政務を担当している。
だけど、大魔術師の位まで上り詰めた魔法以外はてんでだめだった。
そんな自慢の魔法も、あの優しい化物には通用しなかったし。
……情けないな。
などと、執務机で吐息していると、
「ディアネイア様! 失礼します。騎士団からの報告がございます!」
銀の鎧姿の男が、執務室に駆け込んできた。
「なんだ、騎士団長。ノックも無しに、そんなに慌てて」
「これは失礼を。ですが、朗報でして! 喜ばしいことに、竜の谷から飛来する、飛竜の数の低下が観測されたのですよ」
「本当か!?」
竜の谷、というのはこの王都の西にある森――《魔境森》を挟んだ場所にある竜の生息地だ。
毎年のように飛竜はこの国の街や行商人を襲うので、その被害に悩まされていたのだが、
「既に、現在でも、その被害数が目に見えて減っております! 特に《魔境森》からの飛来数も減っておりまして、この調子ならば冒険者に依頼を出す必要もないかもしれません」
「そうか……それは確かに朗報だ」
魔境森はモンスターや魔獣、ドラゴンが平然と闊歩している土地だ。
隣接する自国としては常に、冒険者を雇ってでも、危機管理しておく必要がある。
だけれども、竜の数が減っているのであれば、そこまで金をかけなくてもいいだろう。
「良い報告をしてくれたな。ありがとう」
「はい。――ああ、それともう一つ情報がありまして」
「む?」
騎士団長は声のトーンを落とした。
「これは、極秘としている情報なのですが、なにやら《魔境森》へ、血を流して落下していく《極飛竜》を見たとの報告が」
「《極飛竜》だと!? あれが落ちたのか?!」
極秘竜とは、竜としては最上位クラスの個体だ。
非常に小さな体と、虹色に輝くうろこが特徴的な飛竜で、魔法対抗力と機動力に優れており、並みの魔法は通らない。
速度は竜の中でも随一で、この国の一個大隊をあっというまに食い散らかした、強力な個体だ。なのに、
「そ、それは、どうやって落ちたのだ?」
「なんでも、地上からの攻撃を受け深い森に落下して、戻らなかったとの報告が」
「……」
「その攻撃は、異常なほどの魔力密度を誇る衝撃波だったとのこと。観測者はそれを観測しようとした余波で気絶して、それ以上の観測はできませんでしたが、いずれ探索を……」
「――探索してはならん!」
ディアネイアは思わず、声を荒げた。
普段は物静かである筈の、彼女の変貌に、騎士団長は、息をのむ。
「ひ、姫さま?」
「……いいか、騎士団長。あそこには、探索隊や視察を出したりしてはならん」
絶対に、そんな不作法はしてはいけない。
「あそこは、探索ではなく『訪問させて頂く場所』なのだ」
ディアネイアの声色が段々と怯えを含み始める。
その手は震え、顔も青ざめていく。
ああ、思い出しただけでも、怖いのだ。
それは騎士団長にも話して伝えてある。
「ま、まさか、姫さまが召喚したという、地脈の男が竜を……」
「ああ、だから、近づいてはいけないぞ騎士団長。あそこには、私の恩人である、とびきりの化物がいるんだから。相応の時が来るまで、絶対に行ってはならん」
「は、はっ――了解いたしました!」
騎士団長が慌てて退出していくのを見ながら、ディアネイアは汗をふく。
思い出すだけでも、恐ろしく、そして、力強い、あの化け物。
「――ん?」
ふと気付くと、股間が湿っているのに気づいた。
「……思い出しただけでも、これか。どうにも緩くなっているな、私は」
はは、と震えながら、ディアネイアはパンツをはきかえる準備をするのだった。
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