―side 武装都市の人々― 敬意と警戒
夕方。王都の城の執務室。
そこでは、ディアネイアが武装都市の使節団の応対をしていた。
「はじめまして。わたしは武装都市の司令部の副長官、アンネ・タイドラと申します」
ただし、団といっても、使節は一人の若い女性だけだった。
しかも、都市のトップクラスの者だったので、ディアネイアは面を食らっていた。
「ええと、使節というのは、貴女だけなのか?」
「はい。こちらの方が身軽ですので。どうぞよろしくお願いします」
彼女は黒い髪と大きな胸を揺らしながら前に出て、手を差し出してくる。
「あ、ああ、武装都市からようこそ。私は、ディアネイア・メディスン。この街の代表みたいなものをやっている。よろしく頼む。アンネ殿」
ディアネイア握手をすると、アンネはにっこりとほほ笑んだ
「ふふ、流石は大魔術師の第二皇女、ディアネイアさま。柔らかな手をしていらっしゃいますね」
「お、おう。貴女の手は、しっかりしているな。頼もしいよ」
「武装都市の者ですからね。体が資本です」
アンネは色っぽく笑う。
……武装都市のトップが、まさかこんな綺麗な女性になっているとはな。
先日、司令部の人員が変わった、とは風の噂で聞いていたが、これは予想外だった。
ただ、だからこそ、ディアネイアは警戒する。
彼女がこのタイミングで、この王都にやってきたことを含めて。
「そういえば、アンネ殿はなぜこの王都に?」
聞くと、アンネの、眼の色が変わったような気がした。
「ええ、白き竜を手なずけた、という風のうわさを耳にしまして」
「ああ、そんな噂も立っているな」
「それを聞いて、いてもたってもいられず、来てしまったのです。本当なのか、確かめたくて」
言い方は、真面目だった。
建前を言っているようには思えないが、まあ、どちらにせよ答えは決まっている。
「それは本当に、事実無根の噂だな」
「そうですか。……残念です」
アンネは目に見えて落胆を示した。
「残念、とは? そんなに竜王を退けたかったのか?」
武装都市も竜王の危険に晒されている。だから、本当に退けた要因を聞きたかった、というのもあるのだろうか。
「……いえ、わたしは白き竜王に会ってみたかったのです」
「竜王に? 珍しい趣味をしているな」
「ふふ、よく言われます。でも、そうですよね。ここにいる筈がないですものね」
落胆しつつも、安堵したような声だった。
なにか、思う所があるのだろうか。
「ただまあ、そうですね。この王都では、飛竜の襲撃を何度も乗り越えていますから。その知識を是非、供与して頂ければ、と思います」
「ううむ。そうか……」
先日、戦力を送ってもらった以上、見返りに何かを返さなければならない。
それは当然の行為だ。ディアネイアも分かっている。
正直、飛竜対策の情報くらい教えても全然痛くないのだが、
「聞けば、ディアネイアさま単体でも、魔境森の竜を倒されたことがあるとか。わたし、知りたいです。出来れば現地で教えてもらえれば、とても助かります」
……ああ、これは面倒な聞き方をしてきたな。
他に狙いがありそうな言い方に聞こえてしまう。
あの魔力のある土地に気付いているのか、いないのかも分からないが、さて、どうすればいいか。
「うむむ……」
「あの、もしかして、無理な事を言っていますか、わたし?」
アンネは困り顔で聞いてくる。
「いや、そういうことではないが、お勧めはしないというだけだ。あの森には脅威が多いのは、貴女もご存じだろう?」
「ええ、ですから。知る必要があると思いまして。こう見えても、多少は強いのでご心配なく。本職はアイテム売りですが、攻撃系統の術も一通り使えますので」
アンネは腕めくりをして力こぶを作っていた。
たしかに、握手した感じ、力強さは感じたし、相当なやり手なのだろう。
だが、心配しているのはそこではない。
……私よりも、ダイチ殿の事を考えなければ。
この女性の狙いがなんであれ、彼のいる場所に連れていく、という選択肢はないのだ。
彼女が問題を起こして彼の不興を買うのも怖いし、何より、こちらのせいで迷惑をかけたくない。
ならば、とれる行動は限られている。
彼女が自分から、魔境森に入りたいというのなら、
「よし。分かった。私が魔境森の案内させて貰おう。竜の対策などは、そこでも十分話せることだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ただし、今日はもう遅いから、明日の朝から頼む」
「はい、よろしくおねがいしますわ!」
アンネは嬉しそうに微笑んだ。ああ、これでいい。
当たり障りのない場所を紹介したり、当たり障りのないモンスターの倒し方を教えて、この話は終了にする。
ディアネイアの計画は決まった。
あとは、上手くいくように、動くだけだ。
●
夜、王都の酒場の一角は、スキンヘッドの男たちで占められていた。
「ヒャッハー。乾杯――!! これだけじゃたんねーぞ!」
「酒のおかわり持ってきました!」
「ヒャッハー、でかした! ああ、生きた心地するぜえ……」
男たちはジョッキのエールを空にしては、また注いでいく。
特にペースが速いのはスキンヘッドのリーダーだ。
「やけに酒の進みが早いですね、リーダー」
「ああ、あの大地の主みたいな男に返り討ちにあって以来、ここ数日、怯えてたからなあ。その反動だろう」
「ヒャッハー。怯えてたんじゃねえよ。憧れに震えてたんだよ」
酒の泡を飛ばしながら言ってくるリーダーに対し、冒険者たちは、はいはい、と呆れたような顔を向ける。
「ヒャッハー。……でもよ、俺の事は置いておいてもあの人はすげえよ。武器を抜いた俺たちに一瞬たりとも勝機を抱かせなかった。一応、冒険者の中では上位に入る俺達でも、だ。――それでいて、見逃してくれたんだぜ? 心が広いってもんじゃねえよ」
「それは、確かに」
冒険者たちは口々に同意する。
「敵対したのに、なんにも取りませんでしたしな。追剥とか、そこらへんの腐れ聖騎士とは全然違う」
「ああいう、強くて気持ちのいい人は中々いねえですからなあ。今までも強い奴はいたけれど。あの人に敵対する気は起きねえっすね」
「ヒャッハー。実力的な意味でなくても、そうだよなあ。むしろあの人の為に動けって言われたら、結構動けるぜ」
冒険者たちの酒は、戦いの雰囲気を肴に進んで行く。
そして話題は、先日の戦いに至った原因に向かう。
「それにしても、オレたちに情報くれた黒髪巨乳の姉ちゃん、何者なんだろうな。とりあえず、報告したら金をくれたけどよ」
今日の酒代はそこから出ている。
「オレ、長いこと武装都市で冒険者やってるけど、あんな色っぽい姉ちゃん見たことないんだよな。なのに、いつの間にか副長官になってるから驚いた覚えがあるぜ」
「私は都市の外れ辺りで見たことありますよ? 頑丈ですが奇妙な形をした武具を売る怪しげなお店を開いていた覚えがあります」
「へえ、そこからスカウトされて、あそこにいったのかー。もしかしたら、武装都市出身じゃないのかもな」
冒険者たちは首を傾げるが、しかし、新たな酒とツマミが届くと、そんな思考は吹き飛んでしまう。
「ヒャッハー。難しいことは置いておいて、王都滞在もあと数日だ。金の続く限り、観光して、飲み食いするぞ!」
「おう!! ついていくぜリーダー!!」
そして、王都の夜は更けていく。





