3.ちょろい魔力の使い方
サクラと共に、家の外に出た。
家の周囲は、魔女とドラゴンが争っていたこともあり、酷いありさまである。
周辺の木々は根こそぎ折れたり燃えたりしている。穴も沢山できていて歩きづらいし。
全く、人の家の周りで好き放題し過ぎである。
「では、魔力を使ってどういう事をしたいですか、主様」
そうだな。
二度寝してすっきりしたから、ようやく頭が回り始めた。
衣食住のうち、衣住は確保済みだが、食はまだ猶予でしかないんだよな。
「だから、なにか食いものを作ったり、捉えたりしたいな」
「かしこまりました」
そう言って、サクラは懐からリンゴを一つ取りだした。
「これは冷蔵庫に入っていたリンゴがなのですけれど、使ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
ずっと前に買ったはいいけど、食べる暇がなくて萎びさせてしまったものだしね。
「では、これを割って、種を出してから埋めます。――はい、主様。これであとは成長させるだけで、リンゴの補給が無限に出来ます!」
「いや、だけって言われてもな」
桃栗三年、柿八年って言うし、リンゴはもっと時間が掛かるんじゃないのか?
「大丈夫です。主様は魔力が使えるのですから。樹木の生長くらい楽勝です」
「ホントかあ」
今まで叫んでうるさいやつらをぶっ飛ばす事は出来たけど、それ以外の使い道があるのか。
「そうですね。では、慣れないうちは私を仲介にすると楽ですよ。主様の魔力は既に私の全域と同調しておりますので、ご自由に私をお使いくださいな」
「使うって……?」
「私の体に触れてください。そして、イメージしてください」
言われたものだから、俺はサクラの頭に手を置く。
「あ……」
嬉しそうな顔をされたが、ここからどうすればいい。
「リンゴの木が育つイメージをしていたければ、あとは私が調整します」
それだけでいいのか。じゃあやってみよう。
樹が育つにはまずは発芽だろう。発芽をイメージ。すると、
「おっ、芽が出た!」
目の前の土が盛り上がり、枝が突き出てきて、リンゴの苗が出来あがった。
凄いな、ほんの数秒でこれか。
「この調子なら――もっと段階をすっ飛ばして、イメージするだけでも大丈夫か?」
「んんっ……は、はい。お任せください」
そうか。ならば次はいきなり、リンゴの樹木が立っているのをイメージした。すると、
「うおっ」
グオオッっという勢いと共に、リンゴの大樹が立ち上がった。
「せ、成長完了ですね」
成長速度がすごいな。促成栽培とかいうレベルじゃないぞ。
リンゴの大木が一瞬で育ってしまった。
どういう仕組みか分からないが、赤々とした実までついているし。
食べてみたら、新鮮で、甘くて、美味い。
「なるほど。これが、魔力の使い方なのか」
「はあ……ふう……そう、これが主様の魔力のなせる業です!」
さくらは胸を張って称賛してくるが、頬を上気させて、肩で息をしていた。
「ん? どうしたサクラ。疲れたのか?」
「いえ、ちょっと、気分が高揚しているだけです」
そうか。でも高揚するのも分かるな。
凄いな魔力って。万能の力じゃないか。
「今度は一人でやってみよう」
思い立ち、今しがた出来あがったばかりのリンゴの果実をちぎる。
それを、適当な穴ぼこ埋めて、
「大きく生育しろ……!!」
言葉と共に強く念じた。それだけで、
「――」
グオッと、もう一本の大樹が出来あがった。
むしろ、さっきよりも巨大で、青々とした樹である。
しかも広範囲に根を張って、でこぼこした路面をならしてくれた。
「お見事です、主様! 一発で感覚を掴んだのですね!」
感覚も何も、頭でイメージするだけの簡単なお仕事だ。
それだけで木が育つ。
「魔力の行使って、超ちょろいわー」
こんなに簡単なら、他の事にも応用できるだろう。
色々と試してみよう。
食糧問題も容易に解決できそうだしな。
続きは夜か夕方に更新します。