33.超級と神話級
ヘスティはディアネイアの声にゆっくりと反応した。
「ん……? 懐かしい名前を、よく、知ってる。アナタは、誰?」
「や、やはり、髪の色や服の色は違うが、そうなのだな!? ま、まさかダイチ殿と同居しているとは……!!」
どうやら、ヘスティはディアネイアの知っているらしい。
「……?」
でも、ヘスティはディアネイアのことを知らないようだ。無表情で首を傾げているだけだし。どうなっているんだ。
「というか落ち付けよ、ディアネイア。大声出し過ぎだし、俺たちが話についていけてない」
「あ、ああ、そうだ。申し訳ない。伝説になった魔法使いに出会えて、興奮してしまった。そうだな。私が一方的に知っているだけで、失礼なことをした」
ディアネイアは深呼吸して、意識を落ち着ける。
「しかし、ヘスティが伝説ってどういうことだ?」
「いや、数十年前、プロシアの魔法協会にふらりと現れた、黒衣の魔法使いがいたんだ。そのものは僅か数日で超級のランクを手に入れて、再びふらりと消えたという、伝説的な記録があってな」
「それが、ヘスティだと?」
「ああ、ヘスティー・ラドナと名乗っていた」
あれ? 微妙に名前が違うぞ。
「ヘスティ、この話、本当なのか?」
「一応、実話」
「ヘスティの名前ってヘスティ・ラードナだよな?」
「ん、人間の方で使ってたのは偽名」
「……伸ばし棒の位置を変えただけなのは、偽名とは言わないぞ」
というか、以前から思っていたのだが、白い髪と白い服を黒くしただけとか、偽り方が雑すぎじゃないだろうか。
「ん、でも、まあ、バレても、別に良かった。我、周りの奴らが染めたり、偽名登録してなきゃ、そのままやってたし」
「ああ、そうか。仲間がやってたのか」
飛竜の谷には一杯、仲間がいるらしいし、竜王に世話を焼くものもいたのだろう。
「しかし、何十年も前からその姿で旅をしてたんだな、ヘスティ」
「ん……我、結構、お年寄り」
見た目が幼女な子に言われると不思議な気分になるな。
「本当に凄い人だ。様々な人から話を聞いたり文献を読んだり、魔法で記録した映像が少し残っているが、まさか以前と同じ見た目でいるとは」
「竜は数十年程度じゃ、容姿は変わらない。……でも、我なんか小物。この人の方がすごい」
ヘスティはそう言いながら俺に話を振ってきた。
「ああ、まあ、……確かに」
ディアネイアも真顔で同意している。
「そこだけは、共通意見にできて、良かった」
見ればヘスティも頷いている。
おいおい、二人で意気投合しているぞ。
なんだか疎外感を感じるじゃないか。
「だって、我、超級だけど。アナタが魔法協会行ったら、まず、ランク付けられない」
「え? そうなのか?」
ディアネイアに聞くと、静かに頷いた。
「ダイチ殿は規格外すぎて、神話級のランクは間違いなくとれるだろうが、それは、それ以上を図れるモノサシがないということでもある。だから、ランクをつけられないのだ」
「……ん、アナタなら、一日で神話級の認定される」
そんな簡単で良いのか、魔法協会。
「いや、普通にやれば楽ではないのだが……ダイチ殿が異常なのだ。ラドナ殿を越えるというのは、普通ではないからな」
「ん、我は、竜王の中では魔法が上手い方。だけど、アナタは、それ以上だから」
二人はまた、うんうん、と頷いている。
なんで、この子らは俺をネタに打ちとけ合っているんだろう。
ディアネイアもさっきまでヘスティのことを怖がっていたのに、そんな様子は既にみじんもなくなってるし。
「いや、それはダイチ殿のような強い人と、何度も話していたから、恐怖に対して慣れるのが早くなったのだと思う」
俺と話すだけで恐怖耐性が付くんだな。
それはそれで、若干、失礼な話だけれど。
なんて思っていると座りこんでいたディアネイアがゆっくりと立ち上がった。
「ふう……貴重な話が出来た。だが、名残惜しいけれども、今日の所はここで帰ろうと思う」
「おう、そうか」
「……ただ、改めて、礼を言わせてくれダイチ殿。私は貴方とラドナ殿に会えて良かった。私も貴方達のように強くなるために、頑張ろうと思う。だから……また。会いに来させてくれ」
そんなさわやかな挨拶と共に、ディアネイアは去っていった。
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「なんか、一人で、興奮して、帰っていった」
「落ち込んでた状態で帰られるよりは、いいのかもな」
「でも、地面に、へんなシミが、出来ている」
「……とりあえず、その辺のマーキングされた土は、ゴーレムに庭の外まで運ばせるか」
ついでに、庭の土も入れ変えてしまおう。俺とヘスティは二人で、庭の外から土をもってくることにした。
「そういえば、ヘスティ。お前ってかなり有名だったんだな」
まさかこの幼女が伝説の魔法使いだなんて、今日一番の驚きだった。
「ん。ただ、知名度なんて、あっても、意味ない。多分、今は、貴方のほうが有名になっているし」
「そうか?」
「少なくとも、竜の間では、話題沸騰してる、はず」
その沸騰の仕方は喜んでいいのか、分からないぞ。
「悪いことじゃない。あの谷の竜達は、貴方の配下も同然だし。話題になるのはいいこと」
「別に配下にした覚えは無いんだけどなあ」
でも、竜の襲撃とかは無くなったし。良いことなのかな。
そんな事を考えていると、ヘスティが巻紙を再び丸めて手渡してきた。
「これ、読み終わった。プロシア一番街の土地って書いてある。そこそこ広い」
「一番街? 街の住所で示されても分からないんだがなあ」
「我が以前、街に行っていた時は、城の周辺が一番街だった気がする」
ふむふむ。城の近くってことは、悪い土地でもないのだろう。
一等地って言っていたし。
まあ、使い道が決まるまでは、そのままにしておこう。
「さて、と。庭の土入れも終了したことだし、夕飯までゴーレムの造形練習でもするか」
「あ、我、貴方がゴーレム作ってる所、みたい」
「おお、見物人がいるなら、ちょっと気合入れて作るか」
そして、夕飯までの間、俺はヘスティが見る中で、ゴーレム作りに精を出し続けた。





