25.初めての店子(ドラゴン)
荒れた家の周りを片付けている最中、ヘスティが腰の辺りを引っ張ってきた。
「なんだ?」
「杖、壊れてる」
「え……」
言われて、腰の辺りを見れば、白くてきれいな杖が半ばから折れていた。
「うわ、マジだ。さっきのゴーレム百体召喚の時に、ミシミシって言ってたんだよな」
「やはり、主様の魔力に耐え切れなかったようですね……」
なるほど、サクラが言ったとおりになってしまったのか。
しかし、いくらへスティが原因の一つとはいえ、貰った翌日にぶっ壊してしまうとは、若干申し訳ないな。
だから、スマン、と謝ろうと思って、ヘスティを見ると、彼女は唖然として口をあけていた。
「嘘……我、かなりの力を込めて作ったのに。鋼鉄の剣で殴っても、割れたりしないはずなのに……」
「あ、やっぱりこの杖、ヘスティが作ったのか」
「そう。我、一応、杖の職人免許、持ってるから」
「マジか」
免許とかがあるのか。
「旅していた時に、食いぶち稼ぎの一環で取った。他にもいろいろ登録したりして、称号を持ってる。魔法使いとかも、そこそこの立場にいたことがある」
「へえ……本当に人生経験が経験豊富だな」
どれくらい長く旅をしてきたのだろう。
竜王というからには、きっと見た目どおりの歳じゃないんだろうな。
「それにしても……これは我の、竜王の尾骨を用いた杖。だから物凄く頑丈……な筈なのに、こんな状態になるなんて、思わなかった」
悲しい、というよりは、不思議そうな顔をしているヘスティ。
この杖には、よほど異常な力が掛かったみたいだな。
「でも、どうするかな。これがないと、魔法鍵が使えないんだよな?」
「ん……触媒がないと、基本的には、無理」
やっぱりか。となると、新しく覚えた技術が無駄になってしまうな。
魔法鍵は便利なので、日常的に使っていきたかったのだが。
これは困った。
そう思っていると、ヘスティが首をかしげて俺の顔を覗き込んできた。
「この杖がないと、困る?」
「かなり困るな」
「なら、我が直そう」
ヘスティは、俺の腰から杖を抜いた。
そして壊れ具合を確認して、頷いた。
「ん、一日あれば、修復できそう。材料は、我の尾翼がまだあるし」
「おお、マジか。助かる」
自分の魔力を使って修復できるか試そうとも思っていたが、製作者が直してくれるというのなら、それにこしたことはない。
「……困ってるときは、助け合いって言われたから。助ける」
「はは、そうだな。本当にありがたいよ。ヘスティがいなきゃ直せないもんな」
なにせ、杖の作り方も知らなければ、竜王の骨なんて、どこから手に入れればいいのか、分からないしな。
「でも、骨だけなら、我がいなくても手に入れることは、出来る。あと六体、この地には竜王がいるから」
へえ、六体もいるのか。結構多いな。
ただ、それでも、
「俺が知ってる竜王は、ヘスティだけだし、俺が知ってる杖職人もヘスティだけだ。だから、ヘスティがいてくれてよかったと、そう思うよ」
「……ん」
ヘスティは少しだけ照れくさそうに顔を背けて頷いた。
かわいらしい子である。子と言っていい年齢なのかは分らないけれどさ。
「ともあれ、こうして助け合いが出来るってのはいいことだ。ヘスティも何か困ってることがあったら、言ってくれよ?」
そういうと、あー、とヘスティが虚空を眺め始めた。
「どうした?」
「――じゃあ、早速、我も困ってること、ひとつできてた」
「早速か。なんだ?」
「我、住む所がない」
「うん?」
俺はいきなりの発言に耳を疑った。
「すむところがない?」
「ん、無くなった」
「えっと……? 今まで、竜の谷に住んでいたんじゃないのか?」
さっきの話では、そこに自宅があるって話だったが、
「我、負けて、飛竜達を従える竜王ではなくなった。だから奴らの住まう谷には帰れない」
「そんな仕組みなのか、竜の谷って」
「うん、多分、大多数の竜にとって、我は死んだのと同じ扱いになってると思う」
意外と過酷だな、竜の弱肉強食主義。
「服は、別の場所にあるからいい。けど、寝床を見つけないと、夜、野宿しかない。でも、危なくて寝れない」
「へえ、ヘスティみたいなデカイ竜でも、野宿は危ないと思うんだな」
「ん。野宿すると、警戒してるから、ふとした拍子に竜になってて、ブレスを出しちゃう。だから、周りが危ない」
「ああ、そういう意味で危ないのか」
確かに、竜王が野宿したからって、あの強さがあれば命の危険はなさそうだ。
「寝床があると、竜にならなくて済むのか?」
「ん、……安心感あれば大丈夫。警戒しながら寝ると、竜になりやすい。だから、どこか住む所があれば、紹介してほしい。金は、どうにかなる」
なるほどな。
ちゃんとした寝床が必要になるのか。
でも、俺は街の宿屋なんて知らないんだよな。
宿泊場所があるのかどうか、家を買うのに何が必要なのかもわからない。
そういうことは姫魔女が来たときに聞けばいいのだが、住処は今すぐ必要なのだし。
「……って、そうだ」
「?」
良いことを思いついた。
「サクラ。ちょっと話があるんだけど……」
「ヘスティちゃんをこの土地に住まわせる、という話ですか?」
「おおう。良く分かったな」
今、そのアイデアを思いついたばっかりだから、サクラに相談しようとしたのに。
「主様は優しいですからね。そういうのは想定内です」
「じゃあ、改めて聞くけど、ウチに住まわせてもいいか」
「私は、主様の所有物なので、主様の思うようになさってください」
「ああ、いや、ここら辺って魔力が濃厚だろ? だから住まわせても大丈夫かな、と」
聞くと、サクラは僅かに目を伏せて考えてから、頷いた。
「そうですね……。おそらく、ヘスティちゃんの魔力量なら特に実害もないでしょうし、いいのではないかと思います。……本宅は流石に危険ですが」
「おお、そうか」
なら、決まりだ。
「というわけだ。ウチに住めよ、ヘスティ」
「いいの……?」
「おう、家主も家自身も良いって言ってんだから、良いんだよ」
空き部屋も空き小屋も、かなりある。
使い道に困っていたくらいだから、丁度いいだろう。
「ん――それじゃあ、よろしく、おねがい、します」
「おう、よろしくな、ヘスティ」
こうして、俺は新たな同居人、いや、同居竜を得たのだった。
杖職人ゲット、ということでもあります。





