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■と植物園


雨雨


雨雨雨

雨雨雨雨雨


雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨

雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨

雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨


雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨


 *


 私は■の音で目を覚ました。

 いつの間に眠ってしまったのだろう。階下から生徒たちの声がする。

 東階段の踊場は、校舎の中で一番■の音が良く聞こえる。だから私は、■の日はいつも一時間早く学校に行き、手摺に寄りかかって耳を澄ます。ドーム状の校舎の上を■の雫が滑り落ちるのを楽しみにしていたのに、無駄になってしまった。それに、今の私は傘を持っていない。そろそろ教室へ行かなければ。私は立ち上がって階段を下りた。

 身体が冷えたので自販機に立ち寄る。ここは新入生も出入りするフロアなので、周囲に誰も居ないことを確認してから、クロム硬貨を滑り込ませた。琥珀こはく入りの紅茶のボタンを押す。がたん、と、無人の廊下にボトルの落下音が響く。どうしてこんなに大きな音がするのだろう。■の日だから仕方が無いのだけれど、今日は少しひやりとしてしまう。背伸びをして紅茶を取り出し、もう一度左右を確かめてから、一気に飲み干した。


 柘榴ざくろの木を眺めながら廊下を歩く。

 校内の中央に位置する植物園をぐるりと囲むように廊下が伸びているから、木々を目印にして歩かなければ遠回りをしてしまうことがある。もちろん、木々は数時間で成長してしまうから、廊下に出る度に目印を変えなければいけないけれど。

 教室が並ぶエリアに入ると、登校してきた生徒たちとすれ違う。やはり皆、傘を差している。先日衣替えがあったばかりだというのに、厚いゴムの雨合羽を着ている者もいる。急がなければ、と思う。

 教室の扉を開けると、天蓋が吊るされていた。軽やかな音を奏でる瓔珞ようらくと、細かい模様の入った更紗さらさが垂れているのを眺めていると、夏目なつめがやって来た。

 

「お早う。早く中においでよ」


 私は夏目に手を引かれ、天蓋の中に入る。


「授業中に傘を差すのは面倒だから、皆で吊るしたんだ」


 清河きよかは傘を差すのが下手だから、これで安心だね、と夏目は言った。更紗は■を通さないけれど、これは過剰じゃないだろうか。そう思って、隣の夏目を見上げると、ひどく困ったような顔をしている。


「・・・傘を持たずに来たの?その格好で?」

 

 今日は授業が午前中だけなので、翡翠を織り込んだ小さな手提げ鞄一つだけを持って来ていた。東階段の踊場に居る時間帯は、新入生どころか生徒も滅多に居ないし、学校の外で■に降られても困ることはないのだから、踊場から教室に行く時だけ気を付けていればいい。生地の薄い制服に衣替えをしたことだし、余計な荷物を持ちたくなかった。それに、教室に入ればもう


「夏目が居るから」


 いつも傘に入れてくれるし、私は何も心配することはない。

 そうでしょう?と言うと、夏目はそうだね、と笑って、私の頭を撫でた。


「でも注意しないと。今日は新学期最初の■の日だからね」


 ■の日は、■を読んではいけない。声に出しても、心の中で呟くのもいけない。■を呼んでしまうから。

 高校生ともなればそんなことは簡単なのだけれど、今日は新入生が入って最初の■の日だから、注意しなくてはならない。

 去年、昼休みに植物園で刺繍をしていた女子生徒が、■を呼んだ。夜の模様を刺しながら、明日の予定を考えていた時に呼んだらしい。もっとあからさまに、詩を読んでいて呼んでしまった生徒もいたという。そんなことでよく高校に入学できたものだ。授業を受けながら、天蓋の隙間から除く太陽の光をぼんやりと眺める。更紗の影になって時計が見えないので、太陽の数と位置で時刻と知ることができないか、と思ったけれど、ぼやけているのでよく分からなかった。黒曜石の板に問題を書き終わった教師が振り返雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨

雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨




 教室の外から、■の音がした。やはり今回も呼んでしまったらしい。

 教師は、やれやれ、と肩をすくめたが、校内に■が降ったからといって慌てることもないので、そのまま授業を続け、しばらくすると出て行った。チャイムの音は、■で消えてしまう。


 *


「やっぱり降ってしまったね」


 夏目は扉の方に目をやった。

 

「今日は午前中までだから、持ちこたえるかなと思っていたけれど」

 

 天蓋を少し捲って、植物園を見下ろした。壁面に開いた穴から、各教室に溜まった■が注がれて、ダムのようになっている。夏目が隣にやって来て、紅玉こうぎょく珈琲コーヒーの缶を差し出した。


「今朝買ったまま、忘れていたんだ。もう飲めないから、あげるよ。清河は■の音が好きだから」


 私は缶を受け取ると、耳に当てた。中から、微かに■の音がする。


「開けてはいけないよ。■が飛び出してしまう」


 飲んでる最中じゃなくて良かったよ、と夏目は苦笑した。

 一度、缶の中に降る■というのも見てみたいな、と思いながら、私はそっと目を閉じた。


 すべての授業が終わる頃には、■はやんでいた。私と夏目は、下校する生徒たちの流れに逆らって、廊下を歩いている。■が降っている最中、休憩時間であっても、夏目は私を教室の外に出してくれなかった。学期に入って初めての■の日なのに、すぐ帰ってしまうのは勿体ない。大きな露草色の傘を差して、夏目はゆっくり後を付いてくる。


 「傘を差すのがもっと上手になったら、出してあげるよ。それまでは駄目」


 と、夏目は言う。下手じゃない、と言い返したかったけれど、ここでは我慢して、わざと早歩きした。

 植物園への注水は止まり、溜まった■の中で、白百合がゆらゆらと漂っているのが見えた。刺繍をしていた生徒は、この光景をもっと近くで見たのだろうか。夜の模様が無事に完成しているといいのだけれど。もしかしたら、■の模様に変わってしまったのかもしれない。


「清河、あまり離れないで」


 夏目が近づいて来た。


「さっきから、同じところをぐるぐると回っているよ。どうしたの」


 私は答えない。


「まだ、新入生が残っているし、■が降るかもしれないよ」


 そう。だから私はこうして待っている。


「清河?」


 水色のリボンタイをした生徒たちとすれ違う。私は会話に耳を澄ませた。


 やっと雨の日も終わりだね


雨夏目が私に駆け寄って、雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨傘の中に雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨入れた雨雨雨雨雨雨雨雨周囲の音が雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨何も雨雨雨雨雨聞こえなくなる。雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨ただ、■の音だけが雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨傘を差すのが雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨下手なんじゃなくて、雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨傘に入れて欲しい雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨だけ雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨夏目雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨言った雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨聞こえて雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨いない雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨ようだ雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨った。雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨私は雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨  

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