魔導師試験一日目:系統別試験(2)~毒と魔物と因縁の再会?~(上)
60人もの受験生が一斉に走り出し、朦々と土煙が舞う。
俺は冷静に人々の間をすり抜け、集団の前の方へと進んだ。
「よう、アーク。2分ぶり」
一緒に行こーぜ、とカインが隣に並ぶ。柔らかな日差しと心地よい風。
ここがどこかは分からないが、絶好の散歩日和だ。
・・・これが試験でなければの話だが。
森まではまだ少し距離がある。後ろを振り返ると、離れたところに受験生の一団が居る。俺たちは結構前の方に居るみたいだ。
「カインは足、速いんだな」
感心して呟く。
カインは得意げに笑む。
「まーな。これでも色々と―――――」
不意に、カインの話を遮るかのようにして空が翳り、翼竜が現れた。
背後から後頭部を狙ってきた翼竜の一撃を難なく躱し、カインが両手に持っていた短刀で翼竜の頭から尾までを縦に切り裂く。
「―――――できるんだぜ、俺」
派手に血をぶちまけた翼竜を後目に、ドヤ顔をかますカイン。
翼竜の噛ませ犬(噛ませ竜?)感が半端なくするが、殺らねばこちらが殺られるのだ、致し方のないことである。
「およ?」
倒れた翼竜から光るもの―――これが恐らく試験官の言っていたクリスタルだ―――が出てきた。
「一体やり~っと。・・・ちっ、黄色かよ」
現れたクリスタルをみてげんなりするカイン。
「これを25個集めるのか」
手のひらに収まりそうなサイズだ、これなら持ち運びには大して困らないだろう。
先程の噛ませ竜の血の臭いを嗅ぎとってか、後方に居た翼竜などの魔物が10体、こちらの方に来た。
「団体客のお出ましかな?」
カインの短刀二刀流は複数相手には少し厳しそうだ。
「なあ、カイン」
「何だ?」
俺は剣を鞘から抜き、魔導を展開する。
「あの一群を俺の方に誘き寄せてくれないか?」
一瞬 はあ? という顔をしたカインであったが、すぐにニヤリと笑い、
「ま、見てなって」
短刀の柄についている魔導石の力――――恐らくは幻覚系――――を使い、俺の前方に追い込んでくれた。
「真昼の星よ」
剣の鍔に付いている魔導石が陽光に反射して煌めく。
「光見えずとも世界を律せ」
轟音、閃光と共に10条の光の束が天空から降り注ぎ、魔物たちを灼き尽くした。
カインが口笛を吹く。
「アーク、すっげえな」
赤4つ、黄4つ、緑2つのクリスタルを回収し、半分をカインに渡す。
「昨日の宿代。クリスタルの入手方法が問われないのであれば、分配しても問題はないはずだ」
「お、サンキューな」
カインが照れくさそうに笑う。俺たちは先を急ぐことにした。
* * * * * *
正午前に俺たちは森の中へと入って行った。今はちょうど12時。昼食の時間である。
俺たちは森の中の浅瀬で魚を捕り、生っていた木の実を採った。
カインの短剣の柄頭は火打ち石で出来ていたので、森火事に注意しながら火を熾し、魚を焼く。俺たちの周囲にはカインの罠魔導を設置。つくづくサバイバルに適した魔導である。
「ほんっとに、アークはよく木の実やら魚やらの区別が付くな~」
焼いた魚を食べながらカインが感心する。
「山育ちだからな。・・・それよりも火熾しから罠までカインの方が凄いだろ」
え?それほどでもねえぜ?とカインがおどける。
現在までに俺は赤6つ、黄4つ、緑2つ、青1つの計13個、カインは赤5つ、黄5つ、緑4つの計14個のクリスタルが集まっている。中々順調であるといえよう。
「こりゃ時間的にも数的にもこのまま行きゃいけそうだな~っと」
カインが草の上に寝転がる。そのまま何かの鼻歌を歌いだす。
突然。
獣の雄叫びと地響き、人の悲鳴が聞こえる。
「何事!?」
カインが飛び起きた。
「誰かが森の獣に襲われたんだろう」
俺は森に入るときに見た大型の足跡を思い出した。そして、試験官の注意も。
森や山に住む大型動物は人間の気配やにおい、とりわけ人間の食べ物の匂いに極めて敏感だ。
きっと用意してきた食料が仇になったんだろう。
その旨を説明すると、カインが納得したような表情を浮かべた。
「なるほどな~。さっすが山育ち!!」
カインに派手に背中を叩かれる。
「俺らなら試験余裕で乗り切れんじゃね?」
カインのそんなセリフの後、目の前の草むらが揺れた。
「な~にが乗り切れるってぇ?」
草むらの向こうからは、三人組の男たちが出てきた。
登場人物紹介
アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。
カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。