試験前夜
風呂から帰ってくると、寝台の上に布団が積まれていた。
故郷では「自分のことは自分で」というモットーの下生きてきたので、
こんなにも至れり尽くせりだと逆に不安になる。
「よし、寝台に布団整えて寝るかー!!」
カインの掛け声とともにキイスが布団の山にダイブする。
「って、布団整える気無えだろ!!」
俺が思ったことを端的に代弁してくれるカイン。
「だって家だったらお父さんとお母さんが許してくれないんだもん!!」
布団の上を転がるキイス。
不覚にも可愛いなあと思ってしまったが、それとこれとは別だ。
黙々と自分の取り分を持って寝台を整えていく。
「お前さっきまでむちゃくちゃ眠そうにしてたじゃねえかよ!!」
カインのツッコミが炸裂する。アークもなんか言ってやれよ、というカインの声が聞こえるが、存外首都に来たことによる高揚感や緊張感、その他諸々で色々と疲れが出てきたのだ、ここは早く休むに限る。
「あー、うん。程々にな、キイス」
そう言って俺は自分の剣や杖の確認を済ませ、早々に布団にもぐる。
言い争い(もとい、じゃれあい?)をしていた二人も、一時間が過ぎるころには静かになって、眠っていた・・・ような気がする。そのあたりは眠さのためか、あまりよく覚えていない。
* * * * * *
アーク、キイス、カインの三人が眠りについていても、階下の食堂兼宿のフロント兼ギルド受付はまだ賑やかであった。
結局戦料理の完食は果たされず、昼間酒を飲んでいた男たちが乱闘に近い何がしかで騒いでいる。
そんな中で先ほどアークたちが座っていた席では、マックス、エヴァン、サーシャ、ザインがゆっくり酒と料理を楽しんでいた。
「おいザイン、お前もう飲むなよ」
マックスが葡萄酒をボトル一本独りで飲んだザインに声をかける。
「まっくす~、俺まだ全然いけるっへ。飲酒魔導(そんなものはありません:エヴァン談)とか使えるし」
傍から見れば完全に出来上がっていることが明白なのだが、本人はゴキゲンに酒を飲もうとしている。
「お前・・・明日どうなっても知らねえぞ」
俺は忠告したからな、と念押しのような独り言を呟き、香草と蒸した南海産の魚を食べ始める。
「やっぱここの料理は最高だな!」
酒が進むことこの上ない、と叫んでジョッキ一杯のグレゴリオ酒(アルコール度数の極めて高い酒。別名火気厳禁。聖ノルウェンの東部地方に原住するシャーマンの一族が作っている酒。これを飲んで神託を得るらしい)を一気に呷る。
「マックス、一気飲みは危険ですよ」
年長者であるエヴァンがマックスの一気飲みを窘める。彼は果実酒をゆっくりと味わいながら、木の実に少し辛めの衣を付けたつまみを食べている。酒に飲まれず飲まされず、まさに理想の飲み方、というやつだ。その隣でサーシャは焼き菓子を食べている。
「任務終わりのこれが良いんだよ、エヴァン」
魚を食べ終わったらしいマックスは骨付き肉に手を伸ばしていた。やはり驚異の食材消費能力である。
「ザインはすっかり出来上がっちまってるし、マックスは大食いの大酒飲み。いつも通りだねえ」
ようやく厨房の方が落ち着いてきたらしく、ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター、がやってきた。
「やっぱ料理は姐さんのが一番だな」
しきりに頷くマックスに褒めても料金は安くならないよ、と釘を刺すティナ。ザインは既に酔い潰れて眠っている。
「ところで、マスター」
「ギルド唯一の良心」との異名を持つエヴァンがティナを呼ぶ。
「うん?なんだい?」
「明日はカイン君の試験ですね」
エヴァンの言葉に、すっと表情を引き締めるティナ。
「いつか、そうなる気はしていたけどね」
「自分の父親や兄のように魔導師になる、と?」
ティナは頷く。
「魔導師はそんな甘いもんじゃないけど、出来ればあの子には素敵な人生を歩んでいって欲しいもんだね」
その眼はどこか遠くを見ているようだった。
「それなら大丈夫なんじゃねーか?」
マックスが急に話に割り込んでくる。
「今日見たアークとキイス。あいつらは多分すげえ魔導師になるぜ」
良い友達ができて良かったじゃねえか、と半ば脈絡のないことを言ってのけるマックス。
「確かに、それは言えますね」
エヴァンも肯定する。
「魔導分析を行いましだが、二人とも大人顔負けの魔力を持っています。だから大丈夫ですよ」
ギルド1位の傭兵と、ギルド3位の魔導師のお墨付きを受けて、ティナは微笑んだ。
「ま、案ずるより産むは易しって言うしね」
そういうと、彼女は店内を回って閉店準備や何やらに取り掛かりだした。
登場人物紹介
アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。
カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。
キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。
サーシャ・マグノリア:緑髪茶色眼の女性。ギルド「戦乙女の魔剣」看板娘兼魔導師。24歳。
マックス・ジェラール:金髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。27歳。大剣遣い。
エヴァン・マグノリア:緑髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」魔導師。28歳。後方支援の予知系統。鏡面魔導師。サーシャの兄。
ザイン・フォント:紺色の髪に群青色の眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。26歳。ナイフ遣い。
ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター。『炎術師』の異名を持つ。




