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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第二部:聖ノルウェン王国 王立魔導学院
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「戦乙女の宿木」亭、再び

勝手知ったる家の如く、俺とキイスは「戦乙女の宿木」亭二階――宿泊用の部屋のある階――の奥の部屋へと向かう。古びた木製の扉を開けると、一週間前と何ら変わらない様子が広がっていた。


俺は前と同じく少ない荷物を下ろし、寝台の上で一息ついた。キイスは案の定寝台の上で遊んでいる。


「なあキイス」


「なに?アークお兄ちゃん」


キイスが飛び跳ねるのを止めて俺の方を向いた。俺は道中からずっと気になっていたことを聞くために口を開いた。


「どうして、魔導学院に?」


否、魔導師試験を受けていたころからの疑問である。


10歳のキイスが何故魔導師試験を受験するのか。それだけでなく、戦争に駆り出されるという条件付きの魔導学院に何故入ろうとするのか。フラムさんは別として、カインは理由を聞いたし、ライラは理由を容易に推測できる(なんてったって10大家門直系のお嬢様だから!)。一週間前に別れたときに「また」と聞いた時は驚いたが、それだけ魔導が出来るにも拘らず、キイスが此処に来ようと思った理由が分からなかったのだ。


キイスは暫しの間思案するようなしぐさを見せた後、相変わらずの純粋な笑顔で聞いてきた。


「アークお兄ちゃんは?どうして魔導学院に行こうと思ったの?」


今度は俺の方が返答に詰まる。が、カインに対して答えた時と同じ答えを返す。


「俺は、魔導学院に行ったら貰える魔導師資格が欲しいんだ。各国を無料で通行できるから。それでこのシェーヌ半島を見て回りたいと思っている。出来ればその先も」


キイスは興味深そうに聞き、ふんふんと頷いた。


「僕の理由はね~、アークお兄ちゃんが()()()()()を教えてくれたら教えるよ~」


―――――っ!!


にこにこと笑うキイスに、完全に不意を突かれた俺。


そういえば、キイスはある程度魔力の流れを視ることが出来るのであった。それなら俺が本当のことを言っているかどうかくらい容易に見破れるはずである。


「でもね、たぶんアークお兄ちゃんの本当の答えはこの国で危険に巻き込まれるはずだと思うんだ。だから、僕も無理には聞かないし、絶対言わない。僕も僕の目的を言わないけど。僕の目的とアークお兄ちゃんの答えが衝突することはないから、安心してね」


キイスの言葉と同時に、戸が開かれた。


「二人ともお待たせ~。午後の仕事ついでに首都観光いこ~ぜ~」


カインの誘いに、魔導剣と魔導杖、ある程度の硬貨を持ち、部屋を後にした。





* * * * *



「・・・とまあ、首都での新年の挨拶という嘘の行事の件は置いておくとして」


ジェームズが自邸の庭においてある机の上の、チャトゥール盤の駒を進める。


「アークとキイス君を首都まで送ってくれてありがとうな、ジェームズ」


向かいに座るトウヤがジェームズの駒の動きを受けて、自陣の駒を進める。


「儂さ、お前を匿うって決めたときさ、約束したじゃん?『月に一回以上は会いに来て儂の剣の相手すること』って」


ジェームズがトウヤの進めた駒の動きに苦い顔をしつつ、自分の駒を進め、トウヤの『翼の生えた元傭兵』の駒を取った。


「ああ、そんな約束もあったな。別に月に一回会いに来てるから問題ないじゃないか」


トウヤがニヤリと笑い、ジェームズの『堅牢なる城塞』の駒を『隻眼の遠距離魔導師』の駒で破壊する。


「話が違うくね?儂「剣の相手」って言ったんだけど?」


まあ、匿うっていう約束破る気はないんだけどさ、などと呟きながら、ジェームズは『無能で無力な皇』の駒の周囲を鉄壁の布陣で守ろうと徹する。


「約束守ってくれんなら何の問題もねえな。まあ、お前が約束守らなかったら俺はルールドラゴン使う予定だったしな」


トウヤが『強大且つ冷酷無慈悲な女王』の駒を進め、ジェームズの鉄壁の布陣を正面から崩そうと試みる。


「勘弁してくれよ…。儂は剣の腕磨いて畑仕事して悠々自適の北部領主生活を送りたいだけなんだから」


ジェームズは『教皇の加護を受けた重装歩兵』の駒を正面に、『凶悪なる火竜』の駒を更にその背後に配置していく。


「なら、ちょっとくらい剣の相手しなくても我慢してくれよ。どうせ今日もアークと手合せしたんだろ?」


傍から見ると、トウヤの自陣には殆ど駒が残っておらず、ジェームズの自陣には多くの有用な駒が配置されており、ジェームズが比較的優勢に見える。にも拘らず、トウヤは涼しい顔をして駒を動かしていた。


「まあしたのはしたんだが…ってちょっと待った!」


「チャトゥールでは「待った」ナシだろう?」


ジェームズの『無能で無力な皇』の駒の周囲に配置されていた鉄壁の布陣の一角をなす駒が、トウヤの『変幻自在の暗殺者』の駒へと急に変化し、『無能で無力な皇』の駒を打ち倒した。


「ああ~」


「そうやって周りを固めて動けないようにするやつが悪い」


悪戯っぽく笑うトウヤを恨みがましい眼で見遣るジェームズ。


「それよりも最も有能な駒『強大且つ冷酷無慈悲な女王』を囮にするとは思わなかったよ」


不満を零すジェームズを放っておき、トウヤがぬるくなった茶を飲み干した。


「これで勝ったら一戦してやろうと思っていたんだがな」


「あとから理由付けるなよ、儂、泣いちゃうよ?」


60前後の爺さんの泣き顔なんか見たくないわ、とトウヤがジェームズにツッコミを入れた。


「何とでも言え。勝ちは勝ちだ。しっかし、アークは上手くやって行けるかね…」


チャトゥール盤を片付けていたジェームズが、トウヤの半ば独白のような言葉に返答する。


「ああ、それなら大丈夫だと思うよ。儂の鎧ナシにはまだ対応できてなかったけど、あれくらいならちょっとやそっとじゃーくたばらん筈だ。友達の小さな男の子も回復魔導の素晴らしい使い手っぽそうだったし」


「なら、大丈夫か・・・」


一応安堵はしたらしいトウヤは冬場の晴れて澄んだ空を見上げた。



アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。

トウヤ・マディーン:アークの剣術の師匠。初老の男性だが剣術は衰え知らず。昔首都に住んでいたが、大の首都嫌い。現在はローンに住んでいる。アークの剣の秘密を知っているようだが・・・

ジェームズ・リマ・ヴィッテンシュタイン:アークの故郷ローンがある聖ノルウェン王国の北部を治める領主。トウヤの友人。かなりの剣の腕を持っている。趣味は畑仕事。「龍の庭師」と揶揄される。



チャトゥール:ボードゲームの一種。『無能で無力な皇』の駒以外の17種類の駒を、様々な能力を持つ100種類の駒の中から選び、東西に分かれて戦うゲーム。


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