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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第二部:聖ノルウェン王国 王立魔導学院
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そして首都へ

通常ならば、ローンとファリア間は約2日かかる。


隊商専用道路(キャラバンロード)を使用すれば、1日半だ。


今回は、ジェームズさんの好意から船に乗ることになったので、半日ということになる。



つくづく、貴族ってすげえな、と思う。



* * * * * *


「で、今日ヴィッテンシュタイン家に新年の挨拶だか何だかで呼ばれてるから、昼前の高速船に乗ればつくと思うんだ」


「はあ」



午前10時。俺とキイスはジェームズさんが普段執務を行っている北部領の屋敷に居た。何故か俺は剣を構えてジェームズさんと対峙しているが。


「で、なんで俺が此処でジェームズさんと戦わなくちゃならなくなってるんですか?」


船に昼前に乗ればいいのは分かった。


ジェームズさんが船に乗せてくれるのははっきり言って嬉しい。


しかし。


「うん?アーク君の成長を見たいからだよ~」


剣を軽く素振りするジェームズさんと戦わなければいけない理由が見当たらなさ過ぎて理解に苦しむ。



「魔導師試験、合格したんでしょ?」


今朝そういう報せが届いたからね、北部に。


そんなことを言いながら剣を軽く振るジェームズさん。その速度は普通の老人とは思えないほどだ。


「ま、魔導使っても良いからさ。ちょっとおじいさんと手合せしてくれるか―――――なあっ!!」


斬撃。


一瞬で間合いを詰めてきたジェームズさんの剣先を軽くいなし、鎧を身につけた脇腹を柄頭で殴る。



「そういうとこ、嫌いじゃないよ~」


そんなことを言いながら手首を返し、間合いの中に居る俺と距離を取るために斜め後ろに下がりながら斬り下げるジェームズさん。動きに無駄がなさ過ぎて笑えない。


「たまにはアーク君から攻めても良いんだよ?」


剣を正眼に構えるジェームズさんは剣先を誘うように揺らめかせる。


相手の誘いに乗っても良いことが何一つないと知っている俺は無詠唱のまま魔導をぶつけることにした。


「星雲」


これでジェームズさんの視界が急に現れた雲霧のような星々で奪われる、はず。


そう信じてジェームズさんに向かって大上段で斬りかかる。


がいん。



大きく鈍い音が響き、俺の渾身の一振りはジェームズさんの大剣によって抑え込まれた。


「な・・・」

「年寄りを舐めちゃいかんよ。こういうのは年季入った勘で受けられるのさ」


驚きはしたものの損害は最小限に抑え、ジェームズさんの反撃に備える。


横からの薙ぎに対し、俺は背後に回り込むとすかさず蹴りを放つ。


案の定つんのめった背中に追撃はせず、鎧の足の関節部分を柄頭で殴り、関節を駆動できないように金属を潰しておく。



「っとっと。年寄りにこれはちょっとキツイかな?」


器用に前転し、曲がったままの膝で俺と距離を取って相対する。


「ちょっと戦い方に傭兵っぽさが混じってきたねぇ。誰に似たんだか誰が教えたんだか」


ジェームズさんはぶつぶつとそんなことを呟きながらも、顔には笑みを浮かべている。しかし、目は全くもって笑っていない。




「鎧を脱ぐか―――――」



びく、と俺は無条件に震える。


今まで、鎧を着たままのジェームズさんとしか剣を合わせたことがない。鎧をつけずに戦っているのを見たのは俺の師匠と戦ったときだけだ。


金属音が響きわたる屋敷の一角で、このクソ寒いにもかかわらず、俺は汗が出てきた。そして、この寒さに関わらず、ジェームズさんは半袖だった。



「ごめんごめん。待たせちゃったね」

逆にこの待ち時間が死刑執行を待つ人間のような気分だったんですが、と声に出さずに言っておく。



「それじゃ、もいっかい始めよっか!」


その声がした刹那。






俺は軽々とふっとばされていた。


ジェームズさんの攻撃地点を予測して展開しておいた無詠唱の魔導があとから虚しく発動する。移動したところも、剣を振りかぶったところも、全く見えなかった。





「勝負、ありー!!」

キイスが楽しそうに叫んだ。


* * * * * *


約束通り、ジェームズさんは首都まで送ってくれた。



城門を抜け、西区に辿り着く。以前街を歩いた時にカインに首都の標識の見方や目印を習ったので、俺とキイスは難なく「戦乙女の宿木」亭に辿り着いた。相変わらず、昼間っから酒を飲む常連でいっぱいだったが。



「こんにちはー」

「こんにちはー!」


扉を開けると、丁度カインが受付で店番をしていた。



「おお、アークにキイス。・・・なんかちょっと早くね?」


驚いた顔をしてカインが店の奥に向かう。恐らくティナさんに俺たちの来訪を告げるためだろう。


「ジェームズさんっていう北部地方の領主様が俺たちをついでだからって船で送ってくれたんだよ」


カインに説明すると、俺たちを二階に誘導した。


「先に荷物置いてこいよ。部屋は前と一緒だから」


カインは部屋の鍵を俺に渡した。


「分かった。毎回世話になるな」


本当に毎回お世話になりすぎて感謝しきれない。どうやらそんな様子が顔に出ていたらしく、カインは苦笑する。


「気にすんなって。試験一緒に受けた仲だろ?あとで街案内してやるから、ちょっと待ってな」


「ありがとな」


俺とキイスは取り敢えず二階に向かうことにした。


アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。

ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター。『炎術師』の異名を持つ。34歳。カインの叔母に当たる。

ジェームズ・リマ・ヴィッテンシュタイン:アークの故郷ローンがある聖ノルウェン王国の北部を治める領主。トウヤの友人。かなりの剣の腕を持っている。趣味は畑仕事。「龍の庭師」と揶揄される。


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