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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
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森奥

原始、人が未だ魔導を得ていなかった頃に、人を教え導く存在ありけり。


その存在は大空を舞い、深き知恵と気高き精神、そして己の秩序に殉ずる意志を持ち合わせたり。


人々は恐れ敬い、その力を借りたり。


やがて時は流れ、人々はその存在から学び身につけた魔導を行使せり。


魔導に魅せられ、狂気に堕ちし人々は、その存在を争いに使用せんと意気込みけり。


天地は荒れ、万物が大地に血を流し、その存在は己の秩序を賭けて戦いたり。


存在の中に、唯一如何なる場合にも戦争に参加せぬものありけり。


存在は自らを「始祖」と名乗り、同胞に戦の無益を説きたり。


ある者は隠遁し、またある者は戦い続けたり。


戦い続けんと決めたものは、「始祖」によって、日月星辰の裁きを受けり。


「始祖」によって魔導による争いは終結せし。


その後、「始祖」山に籠りたり。



『歴導詞章―始祖の秩序龍』

正午を少し過ぎた頃だろうか。



山の方へと向かうほどに雪は深くなっている。



日は出ているのかもしれないが、木々が鬱蒼と茂っているので光は届かない。



ともすれば魔導師試験一日目で飛ばされた山はこの近辺だったんじゃないかと思ってしまうほどだが、この山はルールドラゴンの住処だ、下手なイムラークは生きていく権利さえ奪われるほどの魔物たちの弱肉強食の世界と、ルールドラゴンによる秩序のもと齎された地上の安寧の世界が同時に存在している。




ふと、開けた土地に出る。そこだけ季節などまるで意に介さないかのように緑が生い茂り、太陽の光が燦々と降り注いでいる。





中央には、スタヴロス石で出来た石柱が立っている。



俺は剣を抜くと、鍔に嵌め込まれた魔導石を押さえ、柄をカチリと右に回す。



柄と、鍔と刀身があっさりと外れ、針のように細い鍔の無い剣が現れる。



魔導石は中ほどについている。陽光を受けて七色に煌めいていた。



俺は鍔と刀身を地面に置くと、深呼吸して呟く。


「アルファ」




一陣の風が吹き、俺の前に銀色の髪をした美しい男性が出現した。




「うむ。久しぶりの外だ、な。千年大蔓(ミレニアムヴァイン)が生えているから、いつもと大して風景は変わらないが」



「あのさ、アルファ」



なんだ?とでも言いたげな顔のアルファに、俺は切り出す。




「やっぱり、ドラゴンの姿の方が良いのかな?」



この世界でまだ魔導が使われていなかった頃から、人に様々な知識を伝えたり、はたまた人に悪さをしたり、人と混じって生活したりしていた人間以外の種族はたくさんいた。



今でも森人(エルフ)は存在するし、鍛冶屋は黒鋼族(ドワーフ)が営んでいる場合が多い。木の洞や山などの洞窟に暮らす小人族(ナレッジ)は人に良くも悪くもアドバイスをくれるし、妖精族(フェアリー)は花や風と共に暮らしてきた。



そんな人間以外の種族の中でも最も強大で、個性に富むのが秩序龍(ルールドラゴン)なのである。




ルールドラゴンはそれぞれの龍がそれぞれなりに「秩序」を持っており、それに従って生きている。



アルファはルールドラゴンの中でも一番最初に存在していたとされる「始祖の賢龍」であり、俺に星天魔導を教えてくれた龍だ。



ちなみにルールドラゴンたちはそれぞれ人間に姿を変えることもでき、そうやって暮らしている龍もいるそうだ。アルファに聞いた話では。



ルールドラゴンは一体で文明一つを滅ぼすことが出来ると言われているほどの絶大な魔力と生命力を持っていたので、古代にはその力を求めて戦争が起こされることもしばしばあったという。


最初の頃は乗り気で人間同士の争いに参加していた龍も、時が経つにつれて飽きたらしく、隠居する隠居龍も居れば、まだまだ暴れたりないと考える暴れ龍も存在するとアルファは言っていた。俺はアルファと、あと二体くらいしかまだ出会ったことがなかったが、皆良い龍だと思う。




「どうして、そう思う?」


現在アルファは不思議そうに此方を見ているが、自分の本来の姿の方がやはり落ち着いて休めるのではなかろうか。




「人間の姿、疲れるんじゃないかと思って・・・・・・」


俺の言葉に、嘆息するアルファ。



「アークが思うほど人間の姿は息苦しくは無い。寧ろ、こうやってまだ外にでれるだけありがたい。その魔導石の力に縛られているときが一番息苦しいのだ。ま、たまには元の姿になりたいが、下手をするとここに住んでいる炎龍イータが起きてきて厄介なことになる」



そうですか。



俺は鍔の無い剣を地面に刺して、草の上に寝転がる。




冬ならではの、遠いが、しかし温かな日差しが柔らかく降り注いでいる。




しばらくして、音でアルファがその場に腰を下ろしたのが分かった。



「あのさ、」



「先立っての三日間の試験のことか?」



「うん」



俺の聞きたかったことを一瞬で察知する。「賢龍」の名は伊達じゃないってことか。




「剣捌きも星天魔導も、いつも通りの力が出せていたと思うが。ただ、二日目の試験、何故黄道魔導「双魚の大海」を使わなかったのかが未だに疑問だな」


う、と詰まる。




双魚の大海(ピスケス)」は、その場に大量の水を生じさせ、相手をのみこむ魔導だ。



確かに、ザッヘルドの火炎魔導に対しては有効な手段だろう。



「いや・・・カインも戦ってたしさ、玉を探さなくちゃならなかったから、「双子の幻影(ジェミニ)」で乗り切ろうと思ったんだけど」


俺の返答に、

「ふむ。成程な。確かに、今回友人になったあの黒髪の少年に迷惑をかける訳にはいかない、な」


顎を撫でながらそんなことを言うアルファ。いつもながら無駄に人間臭いところがある。



「前から思ってたんだけど、アルファはその人間っぽい性格はもとからなの?」


前々からいつか訊こうと思っていたことを口にする。


返答は思いがけない内容だった。

「否、リエラから教わった・・・教わったというよりは単に話をしていただけかもしれないな」



「母さんが?」



「ああ。ただ、経緯については余程のことがない限り話してはならぬこととなっている。・・・リエラとの約束でな」



師匠のことだけでなく、ここにも謎が横たわっている。



「そうか」

それならば、無闇には聞けない。


「アーク。墓参りに来たのだろう?」


「もちろん」


俺は立ちあがり、草を払ってスタヴロス石の前まで歩いていく。



神聖テーヴェ教では、死んだ人間の魂は光になるのだという。



それこそが、神聖テーヴェ教10大神の一柱、日輪の神フォス・アウギが生命と死をも司ることの理由に他ならない。



あまり神だとか、宗教だとかを熱心に信じる方ではないが、死んだ人間の魂が光となって生きているものを照らしてくれるのだ、というのは良い話のような気がする。


それを話してくれた女性はもうこの世にはいないが。



眼を閉じ、手を合わせ、膝をつく。


炎の洪水に巻き込まれる母の姿が、俺の脳裏から消えることは無い。


今後も、一生消えることは無いだろう後悔と無力さに打ち震えた9年前の冬。



カインに魔導師試験を志したきっかけを聞かれたときに、黙っていたことが一つある。

9年前に母親を火事で亡くしたことだ。


村の人は皆火事だと言っているが、俺と師匠とミシェルさんは火事は意図的なもので、何者かが暗殺しに来ていたことを知っている。


ただ、師匠は何故暗殺されるようなことになったのかを言わない。その理由を言うことが真の危険を呼び寄せるのだとか。よくは分からないが、きっと師匠が首都嫌いなことと何かしらの関係があるのだろう。



確かに、魔導師の資格を得て、国外を見て回りたいと思う気持ちはある。


ただ、それ以上に母の骨を、母の故郷であるアリア自治区の海に還したいと思っている。生前からずっと海を見たいと言っていた母の、最期の願いを叶えたい。



眼を開け、立ちあがる。




「アルファ、待ってくれてありがとう。そろそろ・・・」



「ん?ああ」



そう言うと、アルファの姿が掻き消え、細い剣がその場に残るのみとなった。



俺は剣を元通りに組みなおすと、鞘に仕舞い、その場を後にした。



アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

アルファ:始祖のルールドラゴン。「賢龍アルファ」

リエラ・ダヤンマーレ:アークの母親。9年前に不審火で殺される。

ザッヘルド・ノーマン:前衛職。第一小隊。武器は魔導槍。茶髪に鳶色の目の長身の男性。火炎魔導遣い。魔導師試験二日目に第七小隊と戦って負ける。


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