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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
41/54

それぞれの休息4

アークたちが野営しているのと、同時刻。



聖ノルウェン王国首都:ファリアにある「戦乙女の宿木」亭にて。




「へぇい!香草と白身魚の付け合せおまちどう!」



「お、悪いねカイン~」


「うひょお、美味そう!」




混雑もピークを迎える酒場兼宿屋で、カインは忙しく立ち働いていた。





「んで、そっちは炙り焼肉と緑黄色野菜の付け合せ!で、酔っ払いたちには地酒とつまみ!!」





「ありがとな、カイン!」


「酔っ払いって・・・そりゃねえぜカインよぉ!」



男たちの笑い声に、宿屋の看板娘であるサーシャ・マグノリアの歌声と、楽器が奏でる音楽。雑談する傭兵たちの声に、ここの店主(オーナー)であるティナ・ソリダスターが調理をする際の音。




「戦乙女の宿木」亭は今晩も繁盛していた。




料理の注文がひと段落つき、厨房に引っ込んだカインは、ティナに


「そろそろお客さんも帰る頃だし、常連たちは私が相手できるから、いっぺん休憩してきな」



そう言われ、一度自分の部屋に戻って短剣(ダガー)二振りを取りに行った後、「戦乙女の宿木」亭の裏庭に出た。




* * * * * *




「おー、カイン、お疲れい」




裏庭には、ザイン・フォントが器用に短剣(ダガー)二本を操りながら立っていた。





「師匠、今日の訓練、お願いしますね!」



一礼するカインに応えるかのように、ザインは勢いよく短剣を投げた。




それを最小限の動作で避けたカインはすかさず相手の間合いに入り、短剣を振るう。





「お、速いね~」



対するザインは短剣一本でカインの短剣二本を上手くいなす。




短剣のように自分の間合いが腕の長さや武器の長さで決定してしまう武器を扱う際には速さが重んじられる。




ザインが短剣一本で残像が残るほど素早く動くカインの猛攻を防いでいるのはある意味凄いことであった。




「お~。いつまでも子供(ガキ)じゃねえってことか、カイン」



ひょう、と口笛を吹くザイン。



「あたりめえよ!!俺だって弱えままじゃいられな・・・」




ザインの手元にはたと気づくカイン。




その手には月の光の下で僅かにきらりと光る細い筋が。




にやああ、と笑ったザインの顔を見た次の瞬間、カインの後頭部を衝撃が襲った。




* * * * * *



「いって~。ひでえな、師匠」



後頭部をさするカインに、氷の入った袋を渡すザイン。




「はは。ちょっとカインが速くなってたもんだから、つい使っちまったんだよ」



そう言って、ザインは自分の短剣に結び付けていた糸の余りをカインに渡した。



「結構な長さがあるし、強度も抜群だ。夜の闇じゃ慣れてる奴でも見つけにくい。罠張るのに使ったり、さっきみたいに短剣に結びつけたりするのには丁度いい」



「ありがとうございます!師匠!」



「師匠はちょっとハズいんだけどな・・・」


頭を掻きながら、ザインは裏庭に寝転がった。


カインはいそいそと短剣の柄に貰った糸を巻き始める。




そして、月を見て寝転がる師匠(ザイン)に、カインが言葉を投げかける。





「師匠、約束憶えてます?」




途端、う、と苦虫を噛み潰したような顔になる。



「ああ、うん」



歯切れ悪く肯定を返すザイン。


「お前が「魔導師試験」に合格したら、ギルドが調べているお前の母さん殺した犯人に関する手がかりを話すってやつだよな?」



ったく、なんでこんな時にマックスやエヴァンが出張ってるかなー


とかなんとか呟くザイン。彼は自分が説明が上手い方ではないと知っていた。



「ちょっとでもいいから知りたいんです」


寝転がるザインからはカインの表情は見えなかったが、声の様子から何を考えているかは分かっていた。それくらいの時間は共に過ごしてきたはずである。




「9年前にお前の母さんを殺した奴は、どうやら「裏ギルド」に所属していた奴らしいってことは目星がついている」


ぽつりとザインが語りだした言葉に、カインは全神経を集中させた。




「ただ、9年前と今じゃ裏の様子も随分と変わってきているようで、その当時あった「裏ギルド」が今は無くなっている・・・なんてことも考えられる。だが、恐らく犯人はそんなちょっとやそっとじゃ潰れんようなギルドに所属していたんじゃないかってティナさんは考えている」




「どうしてですか?」



「依頼人が10大家門出身とか、地方領主層出身だと考えられているからだ」



「!!」



「俺だって最初にエヴァンの話を聞いたときはびっくりしたさ。レナさんが奴らに恨みを買う訳ないって」



「・・・」



「まあ、一番の手掛かりは、「父親が魔導学院に関係している」ってとこだろうな」



ザインの言葉に、カインは記憶から母の言葉を引っ張り出していた。



「だからこそ、今回試験を受けたんですから」

そう言った時のカインの表情は、俯いていたため、ザインからは見えなかった。



「そーいやそうだったな。後から酒場の連中に聞いたんだが、それは凄かったらしいなお前」



「へへっ」



少し嬉しそうにするカイン。




「とまあ、そんなところだ。どうせ、お前のことだから、「戦乙女の魔剣(ウチ)」に入らずに、魔導学院行って戦場に行くんだろ?」



「その方が10大家門とかの目に入りやすいですしね」


どのみち魔導学院に入らなければ手がかりは無い。毒食わば皿までの要領で前線行きとなる。



変わらずに月を眺めたまま、


「死ぬなよ。知り合いが死ぬのはもう見たかねえし、なによりティナさんとレナさんに怒られる」


そんなことを言うザインに、カインは


「ま、出来る限り努力はします」


そう返した。



冬の夜の澄んだ月光が師弟を照らしていた。

登場人物

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。

ザイン・フォント:紺色の髪に群青色の眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。26歳。ナイフ遣い。

ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター。『炎術師』の異名を持つ。34歳。

レナ・ソリダスター:カインの母親。9年前に殺されている。

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