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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
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それぞれの休息3

次の休憩地は、隊商専用道路(キャラバンロード)に設けられた野営用施設だった。今夜はここで一泊するらしい。



野営用施設には王立魔導研究所が張った魔物避けの結界があるので、何もない野原で野営するよりは心配しなくてもいい。



レジストールさんたち隊商の面々と(後で聞いたが、レジストール家の人々は身分の高低に関係なく隊商に関わる全てのことを他の人と協力してやってのけねばならないという家訓があるらしい。食事の準備から品物の調達、値切り交渉から野営まで)他の傭兵の人々が着々と夕食の準備をする中、俺はイイ笑顔のマックスさんに連れ出された。どうやら修行の時間のようだ。




* * * * * *


「っとに、お前、15歳か?」


そうとは思えない剣捌きだぜ、



そんなことを言いながら口笛を吹くマックスさん。




「こりゃ下手な傭兵より強えな。おいアーク。お前剣握り始めたのはいつからだ?」



対する俺は真冬にも拘らず汗をかいていた。



「ぜっ、はっ・・・6歳からだ・・・と思い・・・ます」



堪らず上着を脱ぐ。



「つまり9年剣術やってるってことか。そりゃ上手くもなるわな~」



「ありが・・・とう・・・ござい・・・ます」



吐く息が白い。のに、俺の周りだけ暑いような気がする。




「ま、そろそろ休憩もできたことだし、もういっちょ、やるか!」


マックスさんはそう言うと、大剣を構え、一息に俺の間合いに踏み込んできた。


放るような上からの大剣の一撃。


堪らず魔導剣で受け流し、身を捻ってマックスさんの横をすり抜け身を反転し、背中に斬りかかる。




がいん、という鈍い音がして俺の剣が跳ね返される。



「うん、正規軍とか王立魔導騎士団なんかでその技を使ったら確実に怒られるかもしんねえけど、傭兵ならその追撃は正解だ。何にせよ相手が無防備になったところを狙うのは定石だからな」



そんなことを言いながら、大剣を振るうマックスさん。



『この人、大剣を使ってるのに全く隙がない・・・!!』


重量のある武器は威力が高い。


しかし、重量があるため普通は武器を使用するときに隙が生じてしまうものである。



それにもかかわらず、マックスさんが操る大剣には隙が全くなかった。



更に、一撃一撃が重い。



大剣だから重いのは当たり前かもしれないが、単なる大剣遣いとは思えないほどの重い一撃である。重さに負けないだけの速さが伴っているということなんだろう。




「ほれほれ。防戦一方なんていう詰まらん真似はしてくれんなよ?」


真上からの一撃に、思わず両手で魔導剣を握って受け止め衝撃を殺そうとする。



「力で敵わない人間にマトモに力でやりあってどうする。その体勢で上手いこと反撃できるのは力が互角か、自分の方が力が強い場合だけだ」


靴先が草地にめり込む。



一旦深く膝を撓めて魔導剣と大剣の間に隙間を生じさせてから剣を滑らせ、瞬時に抜け出し相手の後ろを取ろうとする。




しかし。





「!?」




自分の身が草地を転がる。


直後、首の横に大剣が刺さる。



そのまま横に転がって素早く立ちあがる。




一瞬何があったのかさっぱりだったが、ニヤリと笑うマックスさんを見て合点がいった。




「大抵の奴はいきなり足元を払われるとは思わねえからそのままパニックになって動けなくなるんだが」


それもなくここまで食らいついてくるとは・・・


とかなんとか呟かれておりますが、マックスさん、流石に俺疲れたんですけど。


肩で息をしながら間合いを取っていると、




「マックス、アーク君。そろそろ夕食ですから帰ってきてください」



エヴァンさんの声がしたので、俺はマックスさんが剣を収めた後に剣をしまい、一礼した。



* * * * * *


夕食は、簡素なものではあったが、美味しかった。



流石に「戦乙女の宿木」亭の料理とは比べものにならないが(首都に行って舌が肥えたような気がする)、レジストールさんたちが作ってくれたものは普通に乗合車に乗っていたら食べられないようなものばかりであった。稽古の後なので余計のこと美味しく感じられたような気がする。




「アークお兄ちゃん、どうぞ」



「ああ、ありがとう、キイス」



キイスから無発酵パンと温かい汁物をいただく。




パンは聖ノルウェン王国北部で一般に食べられているもので、中にガランが挟まれていた。



汁物には豆類と根菜が入っており、ペスカという赤い野菜が濾されているので、全体的に赤みがかかった色をしていた。レジストール家の伝統料理だと隊商の人から聞いた。



隊商の人々は今後の日程や商談の予定、取引内容の確認を行いながら、食事を取っており、傭兵の人々は皆思い思いに食事を取ったり、剣の素振りをしたり、道具の確認をしたりしている。




「アークお兄ちゃん、疲れてるね」



焚き火の炎をぼんやりと見ていた俺の隣に座っていたキイスはそう言うと、回復魔導を発動した。



淡い緑の光が俺を包んだかと思うと、一瞬で体の怠さが消える。



「ありがとうな、キイス」


「また何かあったら言ってねー」


そう言うと、キイスはエヴァンさんに呼ばれ、どこかにいってしまった。




「ようアーク」



「マックスさん」

よっこらせ、と大分年寄りくさい掛け声と共に俺の隣に腰を下ろす。




「そう身構えんなって。今日はもう訓練はナシだ」


流石にあれ以上やると今晩の見張りに影響が出るしな、

そんなことを言いながら、汁物の他に炙り肉まで食べるマックスさん。




「見張りって・・・俺もですか?」



「ちげーよ」


マックスさんに乱暴に頭を撫でられる。



「大体、この国の規定じゃギルドに入れるのは15歳から、傭兵組織に入れるのは18歳からで、深夜労働は18からじゃないと禁止されているだろうが」


そういえばそんなことを学校でやったようなやらなかったような・・・



「ま、夜はゆっくり休んでな」


「はい」



マックスさんは豪快に肉を食べ始めた。





しばし無言が続き、耐えられなくなった俺は

「マックスさんは、いつごろから剣術を始めたんですか?」



さっき訓練中に訊かれたことを尋ねかえす。




「俺?・・・確か、15だったと思う」



確かマックスさんは27歳だったはず・・・


「12年でそこまで上手くなれるんですか!?」



俺9年でまだ大して上手くなってないんですけど!


イムラーク成熟型第Ⅳ期も倒せないんですけど!

そんな諸々を込めた俺の言葉に若干退き気味のマックスさん。



「アークは上手い方だと思うけどな・・・。まあ、魔導学院での授業もあるし、何より実戦があるだろう?あと3年もすりゃ良いとこまで行くと思うんだがな」



「そうでしょうかね」



疑いのまなざしを向ける俺に、


「おう。自信持っていけよ?何せ「戦乙女の魔剣」の最強剣士が言うんだからな?」



自信満々の顔で言ってのけるマックスさんが居た。


登場人物

アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。

マックス・ジェラール:金髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。27歳。大剣遣い。

エヴァン・マグノリア:緑髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」魔導師。28歳。後方支援の予知系統。鏡面魔導師。


家門など

レジストール家:商才と海運を見込まれて10大家門入りした。


食べ物

ペスカ:赤色の野菜。トマトみたいなもの。

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