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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
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「戦乙女の宿木」亭 にて

入り口をくぐると、まっすぐに伸びた通路に沿う形で右手にカウンター席が、左手にテーブル席が見えた。奥の方は一段高くなっており、現在は女性歌手が弦楽器を片手に明るい旋律の曲を歌っている。客の数はまばらだったが、昼過ぎなのに酒瓶を2、3本空けている男がいた。完全なる酒場である。




「ただいま~!」


カインが声を張ると、カウンターにいた女の人がこちらに気付いた。

「お帰り、カイン。・・・その子たちは?」


どうやらあの人がカインの母親のようだ。



「ああ、試験会場で知り合ったアークとキイス。二人とも今晩泊まる場所が無いらしいんだけどここ使っても大丈夫?」



俺とキイスは頭を下げる。


「もちろん大丈夫だよ。まだ傭兵の御一行様も帰ってきていないしねぇ。ウチは子供からお金取るような非常識な真似しないから遠慮なく泊まっていきな」




「ありがとうございます」

「お世話になります」


再び俺とキイスで頭を下げた。


「いいのいいの。気にせずくつろいでちょうだいね。といっても昼間っから酒飲んでる駄目な大人しかいないけど」


店主の皮肉にカウンターにいる客が沸く。




「駄目な大人ってそりゃねえよ(あね)さん~」


「本当の話じゃないか。モリス、お前は先週の酒代とつまみ代も払ってないのにまた飲みに来てんだろ?」



モリスと呼ばれた大男がうっと声を漏らす。


「なんだよまだ払ってねえのかよ~」


(あね)さんの異名知らねえ訳がねえだろ?え?」


(くだん)のモリスにさらに周囲の客から野次が飛ぶ。



「なあカイン、異名って?」


ちょいちょいと肩を叩いて聞くと、


「『炎術師』。この宿屋で金を払わない奴は容赦なく焼き払うんだよ」


コエ~よな~。とカインがぼやく。



俺はさっきカインのお母さんが言っていた「子供からは金をとらない」ということに安堵した。



「カイン。昼ごはんはもう食べた?」

「いんや?まだ料理残ってんならそれでいいけどないならアークとキイスに街案内してくるついでに食べるよ」



カインと店主のやり取りを見てやっぱり家族っていいなあとしみじみと思う。




「昼食の残りがあるから食べときなさい。食べなきゃ大きくなれないから」


「大きくなってどうすんだよ・・・」


「そりゃ魔導師になるんだよ」


「それとこれとは関係ねえだろ・・・」


カインのツッコミを華麗にスルーした姐さん否、店主が俺たちの方に向き直る。



「アーク君とキイス君もどうぞ。残り物で悪いけど」


「お気になさらず・・・」


「ありがとうございます~」


残り物でもなんでも、食べられるだけありがたい。

俺達は空いているテーブルの席に着いた。






* * * * * * 



「はぁ~食った食った!!」


「ご馳走様でした」


「ごちそうさま~」


空いている皿を下げに来たカインのお母さんが嬉しそうな顔をする。


「そんなに楽しそうに食事してくれて何よりだよ」




「残り物」と本人は謙遜していたが、とても美味しかった。鳥肉を甘辛いソースにからめて煮込んだものと、野菜スープ、無発酵パンの組み合わせは絶妙で、とても「残り物」とは思えないものだった。

モリスという人が入り浸るのもわかる気がする。



「夕食までまだ時間もあるし、二人に宿を案内したげなさい、カイン。宿は2階の角部屋だよ」


ソリダスター親子の心の広さにはつくづく頭が下がる。


「了~解っ。じゃ、行こ~ぜ」

カインがカウンター横にある扉を開ける。


俺たちはもう一度カインのお母さんに頭を下げて、扉の向こうの階段を上がった。






* * * * * *



「ここが俺たちの部屋。部屋の端にはシャワー室がある。風呂は地下の浴場。便所は廊下の突き当たり」


カインが手際よく説明する。さすが宿屋の子。



「戦乙女の宿木」亭の部屋は、俺が故郷で使っている部屋よりも随分と広かった。三人で寝泊まりするから当たり前か。



「カインは普段どこで生活しているんだ?」

ふと疑問に思ったので、カインに聞いてみる。この部屋は普段は宿泊客が使用する部屋だ、となるとカインは普段は別の部屋にいるのだろう。



「俺?下か3階の部屋だけど?つっても寝るときと勉強するときしか入らないから3階は物置同前。普段は下の部屋で手伝いしてる」


いい小遣い稼ぎなんだよな~と呟くカイン。

俺が雪かきしたり、(まき)を割ったりするのと同じようなものだろうか。




「・・・キイス?」

振り返ると、キイスが窓から外を眺めていた。



「どしたのアークお兄ちゃん」


「いや、何してるんだろうと思ってさ」


「明日の試験の練習~♪」


キイスが得意げに答える。




窓から外を見ることが試験の練習?

カインもはあ?といったような顔をしている。



「僕は一応回復系専攻だけど、回復系の試験には操作も出るんだって」

 だから街の人を見ながら魔力の流れを読んでいるの~




キイスの呑気な言葉だが、一般人にも流れている微々たる魔力を読むのは至難の業だ。一次試験の成績が良かったことにも得心した。


キイスに言われて、明日から三日間試験であることを思い出した。首都に来て存外浮かれすぎていたのかもしれない。


「ん~・・・メシが出来上がるまで、ちょいと試験勉強するか?」


カインの苦笑いに俺は頷きを返した。



登場人物紹介

アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。

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