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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
39/54

それぞれの休息2

今回魔導師試験受験ということで、初めて首都に出てきた。



初めて首都に出てきたということは、当然初めて故郷に帰るということである。



行きも試験中も、何分(なにぶん)初めてのことばかりであったので、退屈することが無かった。

この分だと、帰りも退屈せずに済むだろう、そう俺は考えていた。(自然に溢れてはいるものの、やはり故郷は退屈するときもあった)






まさか、ここまで退屈せずに済むとは。



* * * * * *


「おい、そっち翼竜行ったぞ!!」


魔導戦斧を構えた大柄な傭兵の男性の掛け声。


紫色の体色をした巨大な翼竜が片羽を折られ、俺の方にふらふらと低空飛行をしながら近づいてきた。


「はい!!」


掛け声と共に、近付き、魔導詠唱を行う。



首都ファリアとローンの行き来には、大体片道二日かかる。


それは乗り物用の家畜セルホーンを使った乗合車を乗り継いだ場合であって、聖ノルウェン王国内を南北に流れるアイール大河を船で下った場合なら片道一日と短縮できる。ただ、運賃が馬鹿にならないほど高い。運賃を払えるだけのお金がなかったので、俺は乗合車を使用して首都に来た。




今回、行きはセルホーンの乗合車を乗り継いだために二日かかったが、帰りは隊商の護衛について行っているため、隊商専用道路(キャラバンロード)を使用できる。この場合、ローンまでは一日とちょっと、である。「戦女神の宿木」には感謝してもしきれない。



現在、隊商は休憩時間である。



そこに運悪く翼竜の群れから離れた一群が現れ、積み荷を襲撃する恐れがあるので、討伐しているのである。




俺は別の傭兵の人が追い込んだ翼竜に、「隕石(アイオラ)」を当て、気絶させた後、翼竜の首を落として絶命させた。



向こうではエヴァンさんが誘き寄せた翼竜五体をマックスさんが一人で斬りまくっている。



翼竜はそれほど気性が荒くなく、また人に危害を加えるものではないが、嗅覚が異常に優れているため、恐らくは積み荷の中の食料品を狙っていたんだろう。冬場に食料が集まらず焦っていたのかもしれないが、積み荷の護衛も仕事内容である。申し訳ないが討伐されて頂くことにした。




「皆、お疲れ様。積み荷は無事だったよ」



にっこりと微笑んで皆を労うのは、ルース・レジストールさん。今回の依頼主で、俺やキイスを故郷まで届けてくれることにもあっさり承諾してくれたいい人だ。



若干25歳にも拘らず、レジストール家の次期当主として聖ノルウェン王国内の物流の要となりつつあるらしい。


レジストール家は聖ノルウェン王国10大家門の中でも商業に特化した一家である。

この季節ということで、北部には木材を取りに行くそうだ。



「セルホーンたちも休憩できたことだし、そろそろ出発しようか。ちなみに、次の休憩地では夕食と野宿を考えているから、そのつもりで」



「「「「うぇ~い」」」」



傭兵たちの声が木霊した。





* * * * * * 



「ライラお嬢様、お茶の用意が出来ました」



「ありがとう、イワン」




アークが翼竜を討伐していたのと同時刻、ライラはホークウッド家の私有地にある射撃練習場で弓矢の練習をしていた。



彼女付きの従者(兼、話し相手)である、イワン・バルバロッティは恭しく一礼して射撃練習場の隅にある瀟洒な机の上に茶と茶菓子の用意をする。





暫くすると、ライラが弓と矢を背負ってやってきた。




「いつもありがとうね、イワン」


従者を労いつつ、彼が淹れた茶を啜るライラ。



イワンと呼ばれた青年は、「身に余る賛辞を!!」とかなんとか言いながらひたすら低頭する。




そんな様子のイワンをライラは一瞥し、


「そろそろ茶番劇はやめましょうか」



そう言って、茶を新たな杯に注ぎ、自分の向かいに置く。



「え?・・・やっぱり自分がやっても似合わないですかね?」



さっきまでとはうってかわった従者(イワン)の雰囲気に、ため息を吐くライラ。




「全っ然似合ってなかったわよ。まあ、お祖父様とお父様の前ではそっちの方が良いのかもしれないけれど」



茶菓子を食べながらイワンに向かいに座るよう目で合図する。




「え、あ、ありがとうございます」




一礼して彼はライラの向かいに座り、茶を飲む。




「で?何か聞きたいことがあったんじゃないの?」



ライラの言葉に、うっと詰まるイワン。




「後衛職がそんな簡単に心を読まれてどうすんのよ」



噎せるイワンに呆れ返るライラ。




「げほっごほっ。申し訳ございません。お嬢様の魔導師試験のことについて聞きたかったものでして・・・」




ホークウッド家全体がライラが試験を受けに行くのを阻止しようと躍起になっていた年末に、一人彼女が屋敷から抜け出すのを手伝ったのがイワンである。



(イワン)には結末を聞く権利があると判断したライラは、焼き菓子を食べながら、



「ええ。ほうはふひははよ(合格したわよ)」



あっさりと言ってのけた。



「行儀悪いって言われません?てか、合格したんですね。おめでとうございます」




「行儀悪くいられんのも、アンタの前だからよイワン。合格したけど、それは私一人の力じゃできなかったことだわ」



ライラの言に、

「どういうことですか?」



そう質問するイワン。




「一日目と三日目は殆ど個人戦みたいなものだったの。でもね、二日目は団体戦だった。私は相手の後衛職を黙らせて敵陣地を破壊することは出来たけど、勝利をつかみ取ったのは同じ小隊の前衛職。まだまだお父様やお祖父様、分家の皆に比べると荒削りだったんだけど、良い魔導師になりそうな気がしたの・・・って、何驚いているのイワン?」




「いえ、お嬢様が他人を素直に褒めるところを初めて見たなって思いまして・・・」




あははと乾いた笑いを返したイワンに、茶がぶっかけられたのは言うまでもない。


* * * * * *




イワンとライラの関係は、単なる従者と主人という関係ではない。



年頃になったライラにお付きの者を宛がおうとした父・ラウルと祖父・ランザは分家中から従者志願者を募った。


本家であるホークウッド家の一人娘の従者ということもあって、分家中から志願者が集まった。志願者たちは本家勤めということから、給料の面でも、また出世の面でも有利になるだろうと考えていた。



しかし。





『長距離狙撃が巧い人じゃないとイヤ』




ライラのこの一言により、志願者たちは従者として必要とされる能力以外にも急遽長距離狙撃の能力が必要とされるようになった。

集まった全ての志願者がその条件を満たしていなかったため、ライラの父と祖父は非常に頭を悩ませることとなったのである。



分家中を探し回った挙句、父と祖父が探し出してきたのがバルバロッティ家の末子、イワンであった。


元来バルバロッティ家は五代目ホークウッド当主の弟がフレッチャー家と婚姻を結んだために出来たものであるので、一族の者は皆長距離狙撃は得意であった。



その中で末子であるイワンが選ばれたのは、彼以外の者は皆既婚者であるということと、ライラと年が近かったこと、という理由だけである。



ラウルとランザはライラの身の回りの世話は他の女中に任せ、武芸と護衛をイワンに任せることにした。イワンが雇われる際にホークウッド家と契約した事柄は二つ。



ライラの「話し相手兼遊び相手」になること。


ライラを護衛、場合によっては監視すること。



それ故にイワンは従者の中では一風変わった扱いとなっているのである。




* * * * * *


「で、これからどうするんです?」



「何を?」


ライラに(半ば強制的に)勧められ、焼き菓子を一緒に食べていたイワンの言葉に、疑問で返すライラ。



「何をって・・・魔導学院に行かれるんでしょう?」




「ええ」



ライラの即答。




「で、その後は・・・」



「勿論、前線に行くにきまってるじゃない」



きっぱりとそう答えたライラに、イワンは


『これじゃあラウル様が手を焼くはずだ・・・』


と内心納得していた。




「今後、ますますラウル様とランザ様に反対されると思うのですが・・・ってか、聞きましたよ?婚約破棄したって」




若干イワンの表情が引き攣って見えるのは気のせいか。





「反対された時のためにアンタが居るんでしょ?また、頼むわよ。婚約については破棄するも何も、お父様が勝手に決めたんだから、私に結婚する意志がないのにズルズル引っ張ったって両家にとって無益。それに、私には好きな人がいるんですもの」


イワンが婚約を取りまとめるために奔走したという苦労なんかつゆ知らず、うっとりとした表情で空を見上げるライラに、


「はいいいい!?」


イワンの絶叫が屋敷の庭中に響く。



「声が大きい!!」



イワンに向かって高価な杯が飛んだのは言うまでもない。

登場人物

アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。

ライラ・ホークウッド:青髪青目の少女。聖ノルウェン王国軍閥の一門、ホークウッド家のお嬢様。アークやカインより1、2歳年上。後衛職。武器は魔導弓。

マックス・ジェラール:金髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。27歳。大剣遣い。

エヴァン・マグノリア:緑髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」魔導師。28歳。後方支援の予知系統。鏡面魔導師。

ラウル・ホークウッド:ライラの父。聖ノルウェン王国正規軍上将軍。40代前半。青い髪に青い目をしている。ライラと義理の父であるランザに手を焼いている。

ランザ・ホークウッド:ライラの祖父。聖ノルウェン王国正規軍元帥。60代前半。白髪混じりの青い髪に、青い目をしている。ライラを可愛がっている。

イワン・バルバロッティ:ホークウッド家の分家であるバルバロッティ家の末子。ライラの従者。18歳。長距離狙撃の名手。

ルース・レジストール:今回のマックスたちの依頼主で、レジストール家次期当主。25歳。


地名など

アイール大河:聖ノルウェン王国を南北に分断する大河。

隊商専用道路:商業目的で作られた道路。国内に縦横に走っており、物流の要となっている。


家門

ホークウッド家:最大の武官一族。殆どの者が聖ノルウェン王国の正規軍に籍を置いており、武術及び魔導に優れたものが多い。分家も数多く存在する。

フレッチャー家:遠距離攻撃に特化した武官一族。他の家門よりもその誕生は遅いが、武器製作の技術も兼ね備えており、フレッチャー家の職人による遠距離系魔導武器は後衛職の憧れである。

レジストール家:商才と海運を見込まれて10大家門入りした。

バルバロッティ家:ホークウッド家の分家。自然系の魔導と長距離狙撃に特化している。

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