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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
38/54

それぞれの休息1

翌朝。


俺とキイスはカインとティナさん、ザインさん、サーシャさんに見送られながら、「戦乙女の宿木」亭を後にしようとしていた。



「あと六日も会えねえのかよ~」


寂しくなるな~、と朝からカインが絶叫する中、ティナさんは俺とキイスの分の弁当をくれた。



「四日間ありがとうございました」


「ありがとうございました!」


俺とキイスは四日間俺たちの面倒を見てくれたティナさんに頭を下げる。昼食までもらい、更にマックスさんとエヴァンさんの隊商(キャラバン)護衛の仕事に同伴させてもらえるとは感謝してもしきれない。



「なに、私は出来ることをやったまでさ。魔導学院でもカインの良い友人でいてやってくれよ」


ティナさんの何とも無さそうな口調。しかし普通はただの子供にそこまでのことはしないと思う。



「はい!」 「喜んで!!」



俺とキイスの声が重なる。





「じゃ、マックスとエヴァン。仕事は勿論のこと、この子たちも頼むよ」



ティナさんの言葉に、マックスさんとエヴァンさんが頷いた。



「まかしとけって姐さん!道中暇があったら稽古つけてやるよ!!」



「魔導の練習もしましょうね、二人とも」




二人の言葉に俺とキイスは頷くしかない。どんな練習になるのだろうか。




「ま、二人が里帰りしている間、カインは俺とナイフの練習だけどな」



ザインさんがぽそっと呟く。それを聞いたカインの顔が引き攣ったように見えた・・・気がした。




俺たちが喋っている間に、隊商(キャラバン)の用意が出来たらしい。



俺とキイス、エヴァンさんとマックスさんは「戦乙女の宿木」亭にしばしの別れを告げた。




* * * * * *


首都ファリア近郊、アルバーン。



ここに、ホークウッド本家の私邸及び領地があった。




流石に最大の武官一族の領地と言うだけあって、アルバーンの三分の一を彼らの領地が占めており、私邸も同様に巨大だった。



アーク達が首都ファリアを出発した数時間後。



ホークウッド本家の私邸の一室にて。




ライラ・ホークウッドと父:ラウル・ホークウッド、祖父:ランザ・ホークウッドが揃っていた。



「おかえりなさい、お祖父様、お父様」


「ああ、ただいま」


「ただいま、ライラ」



父ラウルは淡々と、祖父ランザは孫娘に会えた喜びを全身で表現しながら挨拶を返した。



「ライラ~!!お祖父ちゃんはお前に会えない間と~っても寂しかったぞ~い♪」


ランザがライラに抱き着く。



「わっ!!お祖父様!!びっくりさせないでくださいよ~」



ライラが驚きながらもまんざら嫌で無さそうな感じに祖父の抱擁に応える。




そんなランザとライラの様子にラウルは非常に苦い顔をしていた。



『やっぱりこうなったか・・・』



彼は戦場から帰還する途中の馬車の中でのランザとの会話を思い出していた。



『まあ、ワシからもライラには厳しく言っておくようにするわい』


『頼みますよ、お義父さん。ライラはまた屋敷を荒らしまくった挙句、イワン君にも迷惑をかけて脱走し、試験を受けに行ったんですからね』


言っていたことと、やっていることが違う。


『これのどこが「厳しい」んだか・・・』



ラウルは咳払いをし、


「ライラ」


娘の名を呼んだ。



「何でしょう、お父様」



「何でしょう、どころではないはずだが。新年から昨日までの三日間、自分が何をしていたかは分かっているだろう?」




戦場で「ノルウェンの蒼騎士」として名を馳せるラウル・ホークウッドの双眼がライラを捉える。




「魔導学院で魔導師試験を受けておりました」



ライラが神妙な顔つきで答える。その頃にはランザはライラから離れていたが。




「魔導師になりたいのか?」



「ええ。魔導師になって、お父様やお祖父様と共に戦場を駆けたいのです」


ライラの真摯な答えに、実は涙もろいランザが何処からともなく手巾(ハンカチ)を取り出して、涙を拭いていた。



ラウルが嘆息する。


「魔導師として戦うというのは、今までみたいに楽じゃないぞ」



「知っています」



「実際に、知り合いが死ぬんだぞ」



「分かっています」



「後衛職は、仲間を撃たねばならない時もあるんだぞ。勿論、私やお義父さんもだ。自分で判断できる代わりに、部隊を危険に晒すような真似をした前衛職を後ろから射殺す必要があるときもある」



「それも、覚悟の上です」




どうやら、(ライラ)の意志は思っていたよりも固いらしい。



『・・・母さんに似だしたな』


そんなことを考えながら、再びラウルは溜息を吐いた。



「じゃあ、フレッチャー家との婚約話も・・・」



「破棄に決まってるじゃないですか」



ライラの見事な即答に、ラウルは眩暈のする気持であった。



「やっぱりな」



婚約をまとめるために苦労したイワンに対して申し訳ないという気持ちと共に、苦笑いというか諦めの付いた笑いを浮かべたラウルは、その日の午後には再び前線に戻るということで、残る六日間の休みに良く考えて良く訓練するよう言い残し、ライラの部屋を後にした。




登場人物紹介

アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。

キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。

ライラ・ホークウッド:青髪青目の少女。聖ノルウェン王国軍閥の一門、ホークウッド家のお嬢様。アークやカインより1、2歳年上。後衛職。武器は魔導弓。

マックス・ジェラール:金髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。27歳。大剣遣い。

エヴァン・マグノリア:緑髪茶色眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」魔導師。28歳。後方支援の予知系統。鏡面魔導師。

サーシャ・マグノリア:緑髪茶色眼の女性。ギルド「戦乙女の魔剣」看板娘兼魔導師。24歳。

ザイン・フォント:紺色の髪に群青色の眼の男性。ギルド「戦乙女の魔剣」傭兵。26歳。ナイフ遣い。

ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター。『炎術師』の異名を持つ。

ラウル・ホークウッド:ライラの父。聖ノルウェン王国正規軍上将軍。40代前半。青い髪に青い目をしている。ライラと義理の父であるランザに手を焼いている。

ランザ・ホークウッド:ライラの祖父。聖ノルウェン王国正規軍元帥。60代前半。白髪混じりの青い髪に、青い目をしている。ライラを可愛がっている。


地名

アルバーン:首都ファリア近郊の都市。主要産業は農業、織物業。十大家門最大の武官:ホークウッド家の領地及び私邸がある。


家門

ホークウッド家:最大の武官一族。殆どの者が聖ノルウェン王国の正規軍に籍を置いており、武術及び魔導に優れたものが多い。分家も数多く存在する。

フレッチャー家:遠距離攻撃に特化した武官一族。他の家門よりもその誕生は遅いが、武器製作の技術も兼ね備えており、フレッチャー家の職人による遠距離系魔導武器は後衛職の憧れである。

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