魔導師試験三日目:個人能力分析試験(3)~判別の杖~
試験開始時間となってから十数分しても、試験官は現れなかった。
「一日目、二日目と試験は定刻通りに始まっていたのに、今日だけ遅れるとかアリか?」
ぼそっとリベルトさんが呟く。
「個人能力分析試験って、何するんでしょうね?」
俺も小声でリベルトさんに返す。
「さあ?一人一人に何かやらかす気か?」
現在、この部屋には前衛職志望が14人、後衛職及び回復系統志望が7人、そして予知系統志望が3人居る。
あまりの試験開始の遅さに、ざわざわと講堂中がなりかけた時―――――
「ただ今より、個人能力分析試験を行う!!」
古めかしい木の扉が開かれ、試験官が三人がかりで大きな箱のようなものを運んできた。
箱自体は非常に古い木でできており、周囲には鎖が巻かれている。
「なんだ、あれ?」
「さあ・・・」
鎖が解かれ、蓋が上げられ終ると、試験官は再び話し始めた。
「名を呼ばれた者は前に進み、ここにある「判別の杖」を握り、魔力をこの杖に対して使用せよ!!」
箱の中からは、厭に古めかしい、捻じくれた木の枝に、鈍く光る銀の装飾が巻きつけられている杖が出てきた。これが「判別の杖」なんだろう。
杖が部屋の中央に運ばれるや否や、名前が呼ばれ、一人ずつ杖を握らされることになっていた。
或る者は杖から雷を生み出させ、また或る者は何も生じさせないかと思いきや、温度を数度下げたり(迷惑な話だ)灯りを灯したり。
キイスは杖の先から花を咲かせ。
ライラは炎の矢を降らせ。
カインは幻影を十数体も創っていた。
俺の一つ前のリベルトさんは七色の弾丸を打ち出していた。
「―――――次!アーク・トゥエイン!!」
名を呼ばれ、部屋の中央に進む。
一礼して試験官から杖―――――というよりは捻じれた棒―――――を握る。
息を吸って、吐く。
己が持つ魔力を限界までその杖に注ぎ込む。
不思議なことに、魔導杖とは異なり、判別の杖はどれほど魔力を送り込んだところで溢れ返りそうになることは無かった。
次の、瞬間。
ズドォン!!
凄まじい轟音。
辺りが一瞬にして真昼より明るい光に包まれ、建物自体がビリビリと轟音によって生み出された振動で揺れる。
俺自身も、
え?なんでそんなことになってんの?
と言いたくなるほどの光の量。
周囲が騒然なり、閃光、轟音の後には、濛々と煙が立ち込めていた。
煙が晴れると、3人の試験官すらも唖然とした表情をしていた。周りを見てみると、俺が立っていた周りの石床に結構深い穴が穿たれていた。
「な・・・」
「マジかよ・・・」
「やっぱアーク凄えな~」
受験生の驚きの声の中に友人の声を聞いた。
「つ、次ッ!!ラーイ・ヴェーシ!!前へ!!」
漸く驚きから抜け出した試験官がラーイさんの名を呼んだので、俺は杖を試験官に返し、元居た場所に戻った。
なんかやってしまった感が半端ない。講堂の床壊したから不合格、とかってなったら俺は少しというかかなり落ち込む。
取り敢えず試験終了を待つことにした。
* * * * * *
アークが判別の杖を握り、魔導を発動したその瞬間。
辺りが見えなくなるほどの眩しさで以て杖から放たれた光条が石造りの床を叩き割り、建物全体を震わせ、周囲が一瞬で騒々しくなったその時。
リベルト・トロイシルトは光を一瞬視界から遮ったが、光が消えた後からは、アークの方を食い入るようにして見ていた。
受験生だけでなく、試験官までもが若干焦りだし、騒然となった講堂内で、一人冷静だったリベルトが呟く。
「見つけた、祖国の救世主―――――!!」
その呟きは誰にも聞こえてはいなかった。
登場人物紹介
アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。
リベルト・トロイシルト:黒髪緑眼の男性。第九小隊。後衛職。32歳。
ラーイ・ヴェーシ:薄紅色の髪に黄金色の眼の女性。20代前半。第九小隊。回復系統。東部五大氏族出身。
魔力を魔導武具に注いで魔導を発動させるときの感触は車のガソリンを入れる感触に似ているようです。
魔導武具が受け入れられる容量を超える魔力を注ごうとすると、溢れて魔導石が制御しきれなくなり、暴発するのだとか。
やはり熟練工による武器及び魔導石から成る魔導武具は容量も大きいようです。
判別の杖は魔導武具ではなく、魔力を有する樹(魔導樹)から採られた木の枝と、魔力を有する金属(魔導金属)から得られた塊から作られた魔品です。




