魔導師試験ニ日目:団体試験(1)~顔合わせ~
翌日。朝8時半。
首都だって冬は寒いし日の出は遅い。俺は朝6時に起き、7時に太陽を拝んだが、カインはまだ起きていなかった。
カインをほっとらかして朝食を取ったあと、目を擦っているキイスを連れて魔導学院の前に行き、今はフラムさんやライラを待っている。
「カイン兄ちゃん遅いね」
「そだな」
寒い。吐く息が白い。
キイスは暖かそうな白い長衣と、深緑色の首巻きを巻いている。
俺は黒の上下衣に、黒の狩猟靴、青の首巻きを巻いて皮手袋をはめているが、寒いことに変わりはない。
10分ほど経つと、正門付近からフラムさんが歩いてくるのが見えた。
不思議な文様をあしらった長衣と、シンプルな上下衣を身に纏っている。腰に付けているのは恐らく魔導発動に使用する魔導宝珠だろう。
「おはようございます、フラムさん」
「おはようございます~」
フラムさんは俺たちの挨拶に一礼をし、
「おはようございます、アーク君、キイス君」
早いですね、と微笑む。
どうでもいいことだが、フラムさんの方を見る女性の受験生の眼が無駄に怖い。
「まだまだ時間には余裕があるのですけど、二人共、カイン君は一緒じゃないんですか?」
怪訝そうな顔をするフラムさんに、俺は苦笑いを、キイスは満面の笑顔を返す。
「カインお兄ちゃんは朝が弱いのー♪」
「どうも、まだ寝ているようでして・・・」
試験当日でも寝坊をするカインは図太いのかどこか抜けているのか・・・。まだまだ付き合いが浅いので何とも言えない。
「あ!いたいた!!」
西門の方に目を向けると、ライラが立っていた。
彼女は上下衣に、編み上げ靴という動きやすそうな格好で、茶色の革の上着を羽織っている。
勿論、背には魔導弓を背負い、矢筒を腰に巻いている。
「おはよう、ライラ」
「おはよ~、アーク。結局回復系統と予知系統の人、集まったのね?」
ライラは俺との挨拶を早々に済ませ、キイスとフラムさんの方を見る。
「ああ。昨日話したと思うけど、回復系統のキイス。そしてキイスと一緒に居た予知系統のフラムさん。偶然前衛と後衛を探していたらしいから、一緒に組んでもらうことにした」
見た感じ、ライラは俺の下手な説明でも分かってくれたようだ。
「キイス君に、フラムさん、ね。私はライラ・ホークウッド。後衛を担当します。よろしく!」
ライラが元気よく握手をする。
「よろしく~ライラお姉ちゃん。僕、キイス・ハイヴェルト!回復系統担当だから、ケガした時はいつでも言ってね!!」
「ライラさん。よろしくお願いしますね。私はフラム・マギラ。予知系統を担当しております」
二人もライラに自己紹介を済ませる。
「で、黒髪の・・・カインは何処?」
ライラの問いに、俺は苦笑いと共に
「多分、寝坊だ」
と返す。
ライラは一瞬固まった後、俺に満面の笑みを向ける。
「どこ?」
「へ?」
頓狂な声が出かかるが、そこは全身全霊で以て制御する。
「カインの家又は宿はどこなのよっ!?」
ライラの絶叫。まさか・・・・・・
「首都の北区、"戦乙女の宿木"亭っていう宿屋兼食堂なんだけど・・・」
俺がカインが居るであろう場所を告げると、ライラは疾風の如く走り出していた。
「二人を待ちましょうか」
にこにこ、と音がしそうな程の笑みを浮かべたフラムさんの言に、俺は頷くしかなかった。
* * * * * *
二人が戻ってきたのは、集合時間15分前、つまり9時15分だった。
「ったく!!試験当日に寝坊する馬鹿がどこに居んのよ!!」
怒り心頭のライラに半ば引き摺られてきたカインは悪びれもせずに、
「いや~、ここに?」
と、おどけた感じで言ってのける。
これはライラの気に障ったようで、
ゴッ。
という鈍い音が響き、カインが殴られる。
試験開始前からこんな状態で大丈夫なのだろうか。
一抹の不安を覚えたが、
無言状態で意思の疎通が全く量れない人間と一緒に戦うよりはマシだ、裏返せば打ち解けている証拠じゃないか。
と、無理矢理自分に言い聞かせ、全員が揃ったことを近くにいた警備兵に伝えると、昨日と同じ講堂内に通された。
登場人物紹介
アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。
カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。
キイス・ハイヴェルト:金髪碧眼の少年。ローンの隣村ミクラン出身。10歳。後方支援の回復系統。回復・操作魔導遣い。
ライラ・ホークウッド:青髪青目の少女。聖ノルウェン王国軍閥の一門、ホークウッド家のお嬢様。アークやカインより1、2歳年上。後衛職。武器は魔導弓。
フラム・マギラ:水色の髪に、左目が黄色、右目が蒼色という風貌の青年。18、19歳くらい。予知系統。武器は魔導数珠。




