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第七魔導小隊戦記(仮)  作者: 仙崎無識
第一部:魔導師試験
19/54

星空の下で

当たり前のことだが、冬の夜は寒い。



首都ファリアは俺の実家があるローンよりは幾分かマシだが、寒いことに変わりはない。



宿から外に出てみると、まだ多くの人が通りを歩いていた。街灯が明るく通りを照らしている。



夜になっても明るい、と言う事実を最初は受け入れがたく、なかなか珍しい光景だと思っていたが、流石に二日目ともなれば、少しは慣れてきた。



カインは俺の手を引くと、そのまま宿から出て東の方に歩いていく。



「おい、どこに行くんだ?」


俺が問いかけても、


「まあついて来いって」


と、目的地を言わずにそのまま歩いていく。



カインの意図が全く見えないが、俺は首都の地理にそこまで詳しいわけではないのでカインについていくしかない。



15分ほど歩くと、カインが一軒の店に入る。



『花屋?』



俺は心中で驚きつつも、カインの後について小さな花屋に入る。


中では老婦人が新年最初の初雪の際に行われる祭で使われる花輪(リース)を作っていた。



「エレガさん」


カインが声をかけると老婦人は顔をあげ、眼鏡を外した。



「カイン坊。今年もよく来たね。いつもの花束でいいかい?」


「うん」


「ちょっと待ってておくれ」


そう言うとエレガさんは奥の部屋へと消えて行った。




「なあ、一体どういうことだ?」


俺の問いかけに、カインは何も答えない。



だが、その横顔は昔を懐かしみ、なおかつ痛みを堪えているかのようだった。




十数分後、エレガさんと言う老婦人が左手に花束を持って奥から出てきた。


『アルス・カルマの花?』



エレガさんの持っている花は真っ白な花弁に薄緑色の(やく)が付いている。



「ありがとな、エレガさん」



カインが硬貨を渡す。



「隣の子は、友達かい?」



エレガさんが硬貨を受け取りつつカインに聞く。勿論俺のことだ。



「ああ。試験先で出会ったんだ」



「アークと申します」


エレガさんは俺をじっと見つめ、


「カインをよろしく頼むよ」


そう言って、奥の部屋に入ってしまった。



「じゃ、エレガさん、またな」



俺たちは店を後にした。



* * * * * *


カインに連れられて向かったのは、首都にしては人気が少ない東の外れにある小高い丘だった。



「・・・」


この丘からは首都の灯りが遠くに見え、上には満天の星空が広がっている。いろんな意味で絶景だ。



『ん?』


古びた木の立札が木の根元にあった。



そこには、


"モルスの丘:クレスト共同霊園"


と書かれてあった。


『!!』


見れば辺りには多くの墓石が置かれている。



(わり)いな、こんなとこまで来させてよ」



カインが一つの墓石の前に立つ。




「なあアーク、お前なんでこの試験受けた?」


唐突なカインの問い。俺には、宿を出てからのカインの一連の行動が全く分からない。


この墓石と、俺が試験を受ける理由にどんな関連性があるんだ?


「いや・・・ローンには仕事が無いっていうのと、魔導師になって世界を見たいっていうのが理由かな」



魔導師の資格があれば大抵の国に入国料を払わずに行ける。


どうしても行きたい場所があるので、俺はここで試験に合格したい、というのが理由の一部にはなっている。流石に宿屋に泊らせてくれたカインとはいえ、会って2日もしない人間に本当の理由は話せない。




「てか、それとここに来る理由は・・・」








「俺の母親、俺が6歳の時に殺されたんだ」



「!!」


カインが先程のアルス・カルマの花を墓に手向ける。


見ると、墓石には"レナ・ソリダスター"と、カインの母親の名前が刻まれていた。


「じゃあ宿の女性は・・・」


「ああ。母さんの妹。ティナ・ソリダスター。宿は母さんとティナさんが切り盛りしてたんだけど、9年前に悪漢が入ってきて刺されたんだよ」



中々の衝撃事実だ。しかし、会って一日二日の人間にこんなことを話してもいいのだろうか。現に、俺は真の理由を話していない。




「犯人の手掛かりを探そうにも全く分かんねえし・・・父親も分かんねえ上に居場所掴めねえし・・・」



母さんが言うには魔導学院に居るらしいんだけどさ、手がかりも何も無いしな~



そう呟くカイン。


「それでカインは魔導師試験を・・・?」


これで俺が魔導師試験を受ける理由をカインが聞いたことに得心する。


自分が試験を受ける理由が、この墓石にあるのだ。



そんなことを喋ろうと思ったら同じように理由を聞かなきゃ気が済まない、というものなのだろう。俺は本当の理由を話していないことに一抹の罪悪感を感じたが、この「理由」ばかりは話すと命に危険が迫る、と師匠に固く口止めされている。




「おん。まあ、ギルド加入適齢を下回ってても試験合格してりゃ入れるってのもあるけどな」


墓石の前に(ひざまず)き、手を組んで目を閉じるカイン。


俺もカインに倣って目を閉じ、手を組む。



しばらく経ってから、カインは立ちあがった。






「帰るか」



カインの後について俺は丘を下りる。






「会ってばっかの俺に、何でこの話を?」



俺はさっきから疑問に思っていたことを口にする。




「今日昼間結構命かけただろ。それで十分だ」




理由としては(いささ)か軽すぎる気もするが、友人に信頼されるのは悪い気はしない。



寒さが厳しくなってきた夜の道を、俺たちは走って帰った。


登場人物紹介

アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。星天魔導遣い。武器は魔導剣。

カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。幻惑魔導遣い。武器は魔導短剣。

ティナ・ソリダスター:「戦乙女の宿木」亭オーナーにして「戦乙女の魔剣」マスター。『炎術師』の異名を持つ。

レナ・ソリダスター:カインの母親。

エレガ・シュミット:老婦人。首都で花屋を営んでいる。



次から試験二日目です!!


シリアス難しい・・・

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