魔導師試験一日目:系統別試験(4)~山の主(下)~
戦う。戦ってこの試験を終える。
あんな茶番劇のような三人組との邂逅や、ちょっとした魔物との戦闘ではなく。
ここからは真剣勝負だ。
俺達と、この魔物との。
「そうと決まれば先手必勝ッ!!」
邂逅から5分後。
短刀を振りかぶったカインが叫び、軽業師の如く跳躍する。
「瞳の消失、煌煌たる天輪!」
「妖魔の睦言、鬼神の吐息!」
「雷獣の咆哮、天使の鉄槌!」
カインの見事な三連短縮詠唱。
俺も自分が覚えている中でそういう用途に使えそうなものを使って援護する。
「蠍の毒針、辰砂の星」
煙が舞ったり火花が散ったりはしないが、地味に効果があるであろう魔導である、というよりも、効果があってくれと祈るばかりだ。
今頃サラーサと名乗ったイムラークは眩惑と毒と麻痺で動けないはずだ、と信じてカインは罠を張りに、俺はサラーサを中心とした大規模攻撃型魔式を組みにかかる。
対するサラーサは目が見えないなりに俺達を攻撃しようとして傍にある倒木やら岩石やらをやたらめったら投げつけてくるが、普通であれば避けられるし、俺達のどちらか一方が罠を張っていたり魔式を描いていたりしているときはもう一人がカバーするので問題ない。
足を止めれば、幻惑魔導が切れれば終りだろう。
それを知っているからこそカインは片方の短剣で罠を張りながら、もう片方の短剣で幻覚をかけ続ける。
俺は俺で星天魔導を組む。
「うっし!罠完成!!アーク、そっちは?」
カインが俺の方を向き、大声で叫ぶ。
俺はサラーサに聞こえないかと不安だったが、どうやら何がしかの幻惑魔導がかかっているのだろう、何も起きない。
「大丈夫だ」
「なら一発よろしく!!」
カインの言葉に頷き、始動語を叫ぶ。
「―――――、賢馬の天弓っ!!!」
数瞬後、中空から光の束が下りてきて、サラーサに激突。周囲が一瞬明滅し、白い光が辺りを灼く。
「すっげーー!!」
カインが叫んでいることだけは分かる。他は眩しすぎて全く見えないが。
しばらくして、光が収まると、光の収束地点には何もなかった。
「殺ったか?」
カインがそろりと足を前に踏み出す。
瞬間、
「マダマダ、殺ラレル訳ニハイカンノダヨ」
耳障りな声が背後から聞こえる。
「「!!!」」
俺たちが勢いよく振り返ると、見たところ全身に重度の火傷を負っているらしいサラーサが立っていた。
全身から煙を立ち上らせ、所々出血しているイムラークの姿は、痛々しいを通り越して恐怖を感じる。
「フ・・・星ノ力ヲ借リテ灼キ尽クソウトシテキタ輩ハ、久々ニ見タワ」
焼け焦げたまま、にやりと凶悪そうに嗤うサラーサ。
俺たちは今度こそ恐怖で動けない。震えることしかできない。
カインが張った罠も、俺の「賢馬の天弓」で、全て使い物にならなくなってしまった。(よく考えれば事前に分かりそうなものの・・・)
「マアイイ。オ前達ノオ陰デ、我モ魔ヲ練ル時間ガアッタ」
サラーサのその言葉に、俺たちに激震が走る。
確かに、可能性は無くも無かった。サラーサが言葉を発すると分かった瞬間、
コイツは、魔導を使えるのでは?
という疑問が、俺の脳内に浮かび上がってきたから。
それでも、俺はその可能性を「あり得ない」として無視したのだ。或いは、「あり得てほしくない」という俺の願望か。
『如何に小さな可能性でも、その可能性がある可能性を排除するな』
今更になって、師匠の教えを思い出す。これが死ぬ前のなんとやら、というやつか。
「我ハ此ノ魔導デオ前達ヲ倒シテカラユックリ回復スルトシヨウカ」
奴が右手を伸ばし、始動語を呟いた。
「怯エル羊ニ制裁ヲ」
登場人物紹介
アーク・トゥエイン:赤髪黒目の少年。山間の村ローン出身。15歳。前衛職。魔導剣、魔導杖使用。
カイン・ソリダスター:黒髪黒目の少年。首都ファリア出身。15歳。前衛職。魔導短剣の二刀流。
魔物など
サラーサ:イムラーク成熟型第Ⅳ期。「山の主」
語句説明
始動語:魔式を発動させる際に記号となる言葉。
サラーサは一本目の角を肉体強化(折られていますので効果ナシ)、二本目の角を言語能力、三本目の角を魔導石代わりに使っているので話せますし、魔導も使えます。
・・・語句や魔導の説明は、要望があれば、或いは自分でまとめる必要が出てくれば別にして作りたいと思います。




