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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第十八話 白き翼 その3

「『羅睺星君らごうせいくん』?」


真名は誰に言うともなしに呟いた。それを聞いた天翔尼は。


「そうじゃ…。奴の名は羅睺星君…二年前に封印墓跡から抜け出して、何処かへと消えた大妖魔」


そう言った。


「二年前?! まさか、それは…」


真名はそのことを聞いてあることに気づいていた。それは、


「二年前に確か、八天会議がありましたが…まさか…」


そう言った真名に天翔尼が頷く。


「ああ、そうじゃ。あの時の八天会議は、こやつのことを議題にしていた。しかし、まさか二年御空白を開けてわしのもとに現れるとは…」


天翔尼はそう言って、空に浮かぶ男・羅睺星君を睨み付けた。


【…計都星君よ。まだ俺をそんな目で睨むか…】


羅睺星君は無表情でそう言った。


【…しかし、信じられんな。お前のその姿…なぜそんなババアの姿をしている?】


天翔尼はその言葉に、眉の皺を濃くして言った。


「そんなことどうでもよかろう…。それに、わしを計都星君と呼ぶな」


【天翔とか言ったか…。名前を変えただけでなく、今ではゴミどもの神を名乗っておるそうじゃないか】


「ゴミども…。それは人間のことか?」


天翔尼はさらに強く羅睺星君を睨み付ける。


【…やはり、変わったのだな計都星君。たかがゴミのことで怒りを覚えるとは】


羅睺星君はそう言うと一息考えてから言った。


【…もう一度だけ許してやる。ゴミどもの神など止めて俺のもとに帰って来い…】


それは、天翔尼にとってあまりにもあまりな言いぐさであった。だから、


「断る…。それとわしを計都星君と呼ぶな」


そう言って手にした錫杖を構えた。


【…俺を、あの時のように封じるつもりか…。だが、今、あの男はいないようだが…。それで、俺に勝てると思っているのか?】


その言葉を聞いて、羅睺星君を黙って睨み付ける天翔尼。


【…お前は、生まれた時から俺の後を追っていた。力で俺に勝てたことなど一度もなかっただろう?】


その言葉を聞いて、それまで静かに見守っていた美奈津が動いた。


「あたしたちが目に入っていないのか、てめえ?! てめえなんて、あたしたちだけでも十分…」


【…ゴミは黙っていろ!!!】


そう言って、突然、強烈な眼光で美奈津を睨み付けた。その目から放たれた、身震いするほどの殺気に美奈津はすぐに押し黙ってしまう。


【…あの男…。憎き蘆屋道満ならまだしも…。貴様らが束になっても俺に勝てるわけないだろう? 本当にゴミどもは愚かしいな】


そう言って、羅睺星君はあまりにも強烈で強大な妖力を全身から放ち始める。その強さは八大魔王に匹敵した。


「…馬鹿な。どういうことだ、その妖力は…。お前は封印で力を限界まで削られているはず」


そう言って天翔尼は驚いた。それに対し羅睺星君は、


【ああ、俺を封印から解放した乱月とかいうゴミのおかげで、かつての俺を取り戻せたのだ。まあ、あいつにだけは感謝してやるさ】


そう言った。それを聞いた真名は、


「乱月だと!?」


そう言って前に出る。


「貴様を開放したのは死怨院乱月なのか!?」


羅睺星君はそう聞いてくる真名を一瞥すると。


【ゴミが…俺に話しかけるな】


そう言って強烈な殺気を飛ばした。さすがの真名もそれに対し一瞬たじろいてしまう。


「真名姫様…。それに皆も、此処はババに任せてさがっておれ…」


そう言って天翔尼は皆を促す。その姿を見た羅睺星君は不機嫌そうな顔になって言った。


【やはり…変わったなお前…。お前が変わったのは、やはりあの時からか…】


そう言って思考を過去に飛ばす。


それは、精霊の兄弟が穢れを浴びて悪霊となったのちの話…。



-----------------------------



あれから、何年、何十年たったのだろう?

人里に降りた精霊の兄妹は、楽しい『遊び』を始めた。その『遊び』とは『人を殺す』こと。彼女らは、無邪気に人を殺した。それしか楽しみがないかのように、ただひたすらに。無論、そんなことをしていれば、退魔師があらわれて彼らを害そうとするが…。彼らは、生まれつき、強大すぎる力を持っていた。現れた退魔師をも、遊びと称して殺した。いつしか、彼らは大陸でも名の知れた大妖魔になっていた。人々は、現れれば死が待っているその兄妹を、凶事をつかさどる凶星の名で呼んだ。すなわち…


兄の羅睺星君らごうせいくん

妹の計都星君けいとせいくん


そして、その日も、二人はある名もなき村を襲って、虐殺を繰り返していた。


「ひいいいいい!!!!」


ザク!!!


羅睺星君の手にした剣が、村人に深々と突き刺さる。心臓を一突きにされたその村人は、その一瞬で絶命する。


【ククク…はははは!!! そら、どうした? もっと抵抗しろよ!!!!】


羅睺星君は心底楽しそうに、村人をめった突きにする。


「くそ! この化け物め!!!」


村の若者が剣をもって、羅睺星君の背後から襲い掛かる。しかし、


ザク!!!


その若者の腹に、どこからか飛んできた槍が突き刺さる。それは計都星君が手にしていたものであった。


【やった! 命中!! どうだい兄者?】


【おう…。お前もなかなかやるな。ならば俺だって!!】


そう言って羅睺星君は、今まさに走って逃げていく村の娘の背に狙いを定めた。


【そらよ!!!】


ザク!!!


「ああああ!!!!!」


羅睺星君が投げた剣は正確に、娘の背中をとらえた。


【おお!! 命中!! やるね兄者!】


計都星君は楽しそうに手をたたいた。


それは、彼ら兄妹の『遊び場』という地獄であった。等しき村人を遊び殺した兄妹は、一つの家の前に立つ。その家からは、赤子らしき泣き声が響いていた。


【おう…。この中に何かいるようだよ兄者】


そう言って計都星君は脚で、家の扉を蹴り飛ばした。扉は音を立てて粉砕される。


「ひい!!!」


そこに隠れていたのは、赤子を連れた母親であった。


【お、まだこんなところに隠れてたか…。さて、どうやって殺すかな?】


羅睺星君は、新たなおもちゃを見つけて楽しそうに笑った。そんな、羅睺星君の様子に、赤子の母親は。


「ひい!!! どうか、どうか!! 命だけはお助けください!!!」


そう言って、床に頭をこすりつける。しかし、


【やだ。殺す】


羅睺星君は無邪気に笑いながら言った。計都星君は羅睺星君に提案する。


【なあ、兄者。あたしの槍で串刺しにするのはどうだ?】


それに対し羅睺星君は、


【お、いいね。其処の餓鬼と一緒に串刺しにしようぜ!】


そう言って手をたたいて笑った。


「ああ、そんな…」


母親は絶望の涙を流す。そして、


「どうか…。どうか…。この子だけは。私の赤ちゃんだけはお救いください。私はどうなっても構いません。どうか、この子だけは…」


そう言って再び頭を下げた。


【はは! どうなってもいいだって?! 本気かお前?】


そう言って羅睺星君は母親の髪をひっつかんで、顔を無理やり上げさせた。


「はい。どうなっても構いません。だからこの子だけは…」


そう言って涙を流す母親に、兄妹は珍しいものを見たという表情で言った。


【…たいていのニンゲンは、自分の命欲しさに別のニンゲンの命を差し出してくるのに、珍しいね兄者】


【ああ。そうだな】


そう言って、兄妹はまじまじと母親を見る。しかし、


【…でも、関係ないね。俺が殺すと言ったら殺すんだよ】


羅睺星君はそう言って母親にむけてにやりと笑った。母親の表情はさらに絶望に塗りつぶされる。そして、


ザク!!!!


計都星君がその手にした槍で、母親の腹を串刺しにする。


【ほら! 串刺しだ!! 兄者!!】


「あああああ!!!!!」


母親は絶望と苦しみでぐちゃぐちゃになった顔で絶命する。羅睺星君はその姿を見て楽しそうに笑った。


【ははは!! もっと苦しめよ!! ニンゲンはほんと脆いな!!】 


羅睺星君はひとしきり笑うと、足元で今なお泣いている赤子を引っ掴んだ。


【そら、こいつも一緒に串刺しだ!!!】


そう言って、計都星君の槍に突き刺そうとする。しかし、その時、信じられないことを言い出す者がいた。


【なあ、兄者…。その餓鬼あたしにくれ!】


それは妹の計都星君であった。羅睺星君は心底驚いた表情で言った。


【はあ? 何言ってんだお前?】


羅睺星君のその表情に、計都星君は甘えるような声を出して言った。


【なあいいだろ? どうせ殺すんなら、あたしにくれても。ちょうど『遊び』にも少し飽きてきたところだし…】


【お前な…。こんな餓鬼手に入れてどうするつもりだ?】


羅睺星君はあきれ顔でそう言う。


【そんなのいいだろ兄者! 新しい『遊び』を開拓すんだよ! 開拓!】


【開拓って…】


計都星君は羅睺星君に甘えるようにしなだれかかった。羅睺星君は一息ため息をつくと。


【わかったよ。勝手にしろ】


そう言って赤子を計都星君にほおり投げた。それを受け取った計都星君は、


【やった!! ありがと兄者!!】


そう言って、赤子の首根っこをつかむと、空へと舞い上がった。


【おい、どこ行くんだ?】


【ひひひ、ちょっとね。兄者はついてこなくていいよ】


妹のその辛らつな言葉に兄は少しむっとなって言った。


【ち、かってにしろ! 今度の『遊び』にはお前は連れていってやらん!】


こうして、兄妹は二手の道に分かれた。それが、のちに彼らの運命を変えることになる。

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