第十八話 白き翼 その1
今から2年前。福岡県某所。
「おい! お前は誰だ!」
その時、封印墓跡は騒然となっていた。
此処、福岡にある封印墓跡は、かつて日本に現れて災厄をもたらした、大陸のある妖怪を封印している場所である。その妖怪は、かつてここを訪れた蘆屋道満とその鬼神によって、打倒され封印されたとされている。そのため、蘆屋一族の系列の陰陽法師一族が先祖代々守ってきたのである。しかし、
「誰だっていいだろ? そこをどけ」
その男は、傲慢な笑みを浮かべながらそう言った。
「ここは、悪しき妖怪を封印している場所、そこに何人も立ち入らせるわけにはいかん!」
封印墓跡の守護兵達はそう言って、手にした金剛杖を構える。そして、それでその男を取り押さえようとする。
「ふん」
男はそう言って笑うと、一瞬のうちに守護兵達の背後に立っていた。
「バカな! 今の動きは?!」
男は無駄のない動きで懐から10枚の符を取り出す。
「急々如律令」
<符術・飛殺針>×5
ドスドスドスドスドス!!
「があああ!!!!!」
符が金属の針の雨と化し守護兵達に襲い掛かる。
「貴様…その呪術は…」
針の雨を何とか生き残った一人の守護兵が聞く。
「ほう? 今のを生き延びたか…。それに、俺の呪術を知ってる?」
守護兵は、全身血まみれになりながら、懐から符を3枚取り出す。
「急々如律令」
<符術・火呪>×3
符が火の玉となって男に襲い掛かる。
「フフ…」
男はそれに対して慌てることもなく印を結んで呪を唱える。
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ…」
<秘術・死怨奉呪>
次の瞬間、男に襲い掛かろうとしていた火の玉が空中で立ち消えた。
「!! 貴様やはり!!」
「フフフ…」
自分が何者か気づいた様子の守護兵に、男は傲慢な笑みを返す。
「死怨院呪殺道の者か…。まさか!!!」
男は満足気に笑うと…
「お前のその健闘に免じて名を名乗ってやろう。俺の名は、死怨院乱月だ…」
そう名乗った。
「死怨院乱月…。貴様、この封印を解くつもりか?」
「ああ、その通りだ」
「無駄だ…今解いたところで…」
その瞬間、それ以上問答無用という感じで乱月が動いた。
ドス!
「が!!!!」
守護兵の腹に、乱月の手刀が突き刺さっていた。
「もういいから、死ねよ…」
「ら…んげ…つ」
そのまま守護兵はこと切れた。
「さて…」
邪魔者を排除した乱月は封印石の前に立った。そして、その封印石に手をかざす。
「さあ目覚めの時間だ…」
次の瞬間、封印石にひびが入り始め、そのひびから妖力が立ち上り始める。そして…
バキバキバキ!! …ドン!!!
大きな破砕音とともに封印石が砕け散った。その後には妖力を帯びた煙が立ち込めている。
「おい…目は覚めたか…?」
乱月は煙の向こうにいるであろうモノに呼びかけた。
【お前は…】
その煙の向こうから答える者がいた。
【お前は、誰だ…。俺は…】
「おいおい…ボケてんじゃないだろうな」
そう言って乱月は笑う。煙の向こうの者は言う。
【いまさら、俺を封印から解いてどうするつもりだ? 俺は…】
「…何だ? どういう…、そう言えばお前」
乱月は、さっきから感じている違和感を口に出した。
「お前…大妖怪って触れ込みだったくせに、妖力弱くねえか?」
その問いに妖怪は答える。
【ああ、当然だ。俺を封印していた封印呪は、俺の妖力を半永久的に削るモノだ。長年その封印の影響下にいたおかげで、ごらんの有様になっているわけだ】
「…ち。そう言うことかよ」
乱月は舌打ちして不機嫌な顔になった。
【…で、俺を封印から解いてどうするつもりだ? これから、元の妖力を取り戻すには数年はかかるぞ】
その問いに乱月は答える。
「まあ大丈夫だろ? 俺の呪術を使えば1、2年で回復するはずだ」
【ほう…】
妖怪はその乱月の言葉に興味を示したようだった。
「その後に、存分に暴れてもらうぜ…大妖怪」
そう言って乱月はにやりと笑った。それに対し妖怪は。
【俺にも一応名前があるのだがな…】
そう言って不満げな顔になった。
「ああ…そうだったな。『羅睺星君』」
こうして、かつて蘆屋道満が封印した凶悪なる大妖怪が復活したのである。




