第十七話 憎しみと悲しみと・・・ その3
潤たちは森を駆けていた。我乱から逃げるために。
「はなせ!!!!」
美奈津はいまだに叫んでいた。あれからもう、10分は経っているのに。
「あ…」
不意に美奈津が暴れだした、<木行縛符>の効果が切れたのだ。
「うわ!!」
いきなりのことに、潤はその場に倒れて、美奈津をほおってしまう。
「大丈夫か? 潤」
倒れた潤に真名が手を差し伸べる。
「あ、はい…大丈夫です」
潤は真名の手を取って立ち上がった。すぐに、美奈津の方を見る。美奈津は、その場にうなだれていた。
「…なにが…」
美奈津は、怒りを押し殺すような声で言った。
「何が…あたしを弟子にする、だ…」
美奈津は怒りと涙でぐちゃぐちゃな顔を真名に向けた。
「何が、私のことを研究すれば敵討ちもしやすくなる、だ!!!」
「美奈津さん…」
潤は、叫ぶ美奈津の方に歩み寄ろうとした。しかし、それを真名が止めた。
「てめえ、我乱に何もできないじゃねえか!!!!!」
真名は黙ってその叫びを受け止める。
「逃げることしかできないじゃねえか!!!!!! 何が…!!!!!!」
美奈津はそれだけ言うと、真名に掴みかかった。
「ふざけんな!!!!!!! 結局お前も、他の師匠どもと同じかよ!!!!!!!」
真名は黙って美奈津を見つめる。
「『憎しみは何も生まない』? 『死んだ者は復讐を望んでない』? そんな綺麗ごとばっかり言ってる糞どもと一緒じゃねえか!!!!!」
潤も黙って二人のやり取りを見つめる。
「あたしは死んでもいいんだ!!!!!! あいつを殺せるなら!!!!!」
その時、不意に真名が言葉を発した。
「本当にそれでいいのか?」
美奈津はその言葉に一瞬戸惑う、しかし、
「ああ!!! 構わねえよ!!!!」
そう悲鳴のように叫んだ。
「やっぱり、あんたにはあたしのことはわからねえよ!!! 道摩府でぬくぬく育ったお姫様にはな!!!!!!!」
そう美奈津が言った時だった。真名が再び言葉を発したのは。
「同じなんだよ…」
「ああ?!!!」
何が同じだというのか。
「私の母を殺した『乱月』…。そいつが使っていた呪と…」
「え?」
美奈津は言葉が出なかった。
『母を殺した乱月』? 『そいつが使っていた呪』?
「奴の使っている呪は『死怨院呪殺道』と言う」
「しおんいんじゅさつどう?」
「他者の自分自身への憎しみを、自身の力へと変える、邪法の中の邪法…」
「!!!!!」
その時、美奈津は思い至った。なぜ、自分が生かされたのか。
「君だけが生き残った…。そのことを聞いたとき、私は嫌な予感を感じていた。そしてそれは当たっていたんだ。君は『奴が自分の糧にするためにわざと生かされた』のだと…」
美奈津は真名から手を離した、そして、
「それじゃ…あたしは…」
うなだれながらそう言った。
「美奈津さん…」
潤が美奈津の肩に手を置く。真名は、うなだれた美奈津に言葉をかける。
「私が『私でも勝てない』と言ったのは、君の憎しみが奴のエネルギー源になっているからだ…」
「それじゃあ…」
美奈津はその場に突っ伏して泣き始めた。
「それじゃ、あたしはどうしたらいいんだよ!!!! 憎めば憎むだけ、敵が討てなくなる?!!!!! そんなの!!!!!」
「…」
真名はしばらく、泣き崩れる美奈津を眺めた後言った。
「美奈津…。君にお願いがある…」
「?」
涙でぐちゃぐちゃの美奈津は、ゆっくりと真名を見上げた。
「私に…」
「え?」
真名ははっきりと言った。
「私に、君の家族の、仲間の、敵を討たせてくれ…」
「!!!!」
美奈津は驚いて真名を見上げる。
「お前たちは、このまま逃げろ…。奴は私が討つ…」
「で、でも…」
さっき、真名は「自分では勝てない」と…。美奈津は聞き返す。
「私は、こういう時のための修練を積んでいる。だから、私ひとりなら大丈夫だ」
「でも…なんで…」
それでも、美奈津は聞き返した。なぜ、自分の敵を、代わりに討とうなどと言うのか。
「それは…」
「それは?」
美奈津はわけもわからず聞き返した。そんな美奈津に、優し気な微笑みを浮かべて、
「私は、お前の師匠だからな…」
…そう言って真名は美奈津の頭を撫でた。
-----------------------------
「ほう…、お前は…」
真名たちが、自分から逃げ出して15分あまり。目の前に意外な人物が現れた。
「我乱…」
「ふん、もう逃げないのか? 蘆屋の夜叉姫?」
我乱はそう言って、現れた真名にやりと笑う。それに対して真名は。
「逃げる必要はない。お前は、此処で私が討つ…」
「フフフ…。それはそれは…楽しみだな」
真名は素早く印を結ぶ。
「オンソワハンバシュダサラバタラマソワハンバシュダカン」
<浄三業>
「さあ始めようか! 我乱…! いや…」
真名は不敵に笑って言った。
「死怨院我乱!!!!!」
こうして、闇夜の奥、邪悪との決戦が始まった。




