表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
89/202

第十七話 憎しみと悲しみと・・・ その2

その時、美奈津はかつての記憶がフラッシュバックしていた。

自分を守ろうとしてくれた蔵木くらきを殺した我乱。自分の親・兄弟を皆殺しにした我乱。自分の生まれ故郷を滅ぼしつくした我乱。炎…炎…また炎。その中で、何も出来ずただ、怯えるしかなかった自分。


「がらああああああああんんんんんん!!!!!!」


美奈津はただ加速した。憎き我乱へと向かって。


「美奈津さん!!!!!」


潤は、美奈津のその姿に悲鳴に近い声を上げた。なんとか、止めようと肩に触れる。


「邪魔をするなああああああああ!!!!!!」


美奈津は、潤の手を拳ではじくと、我乱へと向かって飛んだ。もう、潤は追いつけなかった。


「死ねええええええ!!!!!!」


霊装怪腕れいそうかいわん金剛拳こんごうけん


「フ…」


激高して襲い掛かってくる美奈津を見た我乱は、慌てた様子もなく印を結んで呪を唱えた。


「バンウンタラクキリクアク…」


「! その呪文は!!」


潤は、その呪文を聞いて驚いた。それは、自分がよく防御で使う<五芒護壁ごぼうごへき>の呪。

…だが、その呪で生まれた五芒星は、自分のものとは明らかに違った。


逆五芒結界ぎゃくごぼうけっかい


ガキン!!


その五芒星は、潤のものとは上下が逆になっていた。美奈津の拳は、その逆五芒星の盾で防がれてしまう。


「くう!!!!!!」


それでも美奈津は止まらなかった。今度は、素早く我乱の背後に回り込むと、


「ナウマクサンマンダボダナンバヤベイソワカ」


<真言術・風雅烈風ふうがれっぷう


その瞬間、美奈津の拳の周りに風の渦が生まれた。その渦に包まれ、美奈津の拳は加速する。


「おおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


ズドン!!!


風呪で加速した拳は、我乱が防御呪を唱えるより早く、我乱の胴に突き刺さった。美奈津はさらに咆哮をあげる。


「あああああああ!!!!!!!!」


金剛拳連打こんごうけんれんだ


ズドドドドドドドドドドン!!!!!!!


霊装怪腕を含めて2対の拳が超高速で我乱に突き刺さる。我乱は木の葉のように吹き飛んだ。


「まだだ!!!! まだ!!!!!!」


美奈津は、興奮した様子で、吹き飛んだ我乱の方に向かって加速した。そのとき、


「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ…」


そう言ってにやりと笑うのを美奈津は確かに見た。


「!!!?」


<秘術・死怨奉呪しおんほうじゅ


次の瞬間、信じられないことが起きた。美奈津の霊装怪腕が、霞のごとく消えてしまったのである。いや、これは…


「な?!」


一部始終を霊視ていた潤には見えていた。美奈津の霊装怪腕が、霊力の帯となって我乱に吸収されていくのを。


「く!!!!!」


美奈津は、消えてしまった霊装怪腕にかまわず、我乱を殴りつけようとした。しかし、


「それでは、俺には効かないよ? 美奈津…」


いつの間にか、立ち上がっていた我乱の手が、美奈津の拳をつかんで止めていた。そして、


「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ…」


再び不気味な呪を唱える。


<秘術・死怨鳴呪しおんめいじゅ


次の瞬間、潤の目にも…、美奈津の目にすら分かるほど、我乱の霊力が巨大化した。


「な?!!!!」


「フフフ…いい顔だ…。美奈津」


そう言って、我乱は美奈津に笑いかけた。


(いけない!!!!!!!)


その時、潤は美奈津に向かって加速した。目の前のこの男はただものではない。潤ははっきりと理解していた。


「カラリンチョウカラリンソワカ…」


蘆屋流鬼神使役法あしやりゅうきしんしえきほう鬼神召喚きしんしょうかん


「しろう、かりん、来い!!!」


潤は、シロウとかりんを素早く召還すると。我乱に向かって飛ばした。シロウの『風のつぶて』と、かりんの『火炎燐』が我乱に襲い掛かる。


「バンウンタラクキリクアク…」


逆五芒結界ぎゃくごぼうけっかい


ガキン!


「ふむ…、邪魔をするなよ、小僧」


呪とともに現れた逆五芒星が、二人の攻撃を防いでしまう。しかし、潤は二人の攻撃が防がれるのは予想していた。潤の本当の狙いは…


「美奈津さん!!!」


我乱が、印を結ぶ為に美奈津の拳から手を離したすきに、潤は美奈津を掻っ攫った。


「人間!!! 何しやがる!!!!」


美奈津は驚いて自分を抱えている潤に叫ぶ。潤は、怒る美奈津にかまわず、我乱から離れるように森の中を走った。


「はなせ!!!!!! 我乱を!!!!! 我乱を殺す…!!!!!!!」


「ダメだ!!」


潤は問答無用とばかりにそう言った。


「フフフ…。俺から逃げるか…」


森の向こうから、そう言う我乱の声だけが響いてきた。


「放せ!!!!!!!!!」


ついに怒りを爆発させた美奈津は、霊装怪腕を出して潤を殴りつけた。


「ぐ!!!!」


潤はもんどりうってその場に倒れてしまう。


「邪魔をするな人間!!!!!」


「そうはいかないよ!!!!」


潤は殴られた腹を押さえて、呻きながら叫んだ。


「…このままだと、君は奴に殺されるかもしれない!!!!」


その言葉を聞いた、美奈津は叫ぶ。


「ああ!!! かまわねえよ!!!!! 復讐が出来ないってんなら死んだって!!!!」


「美奈津さん!!!! ダメだよそんなこと!!!」


潤はその言葉に悲鳴のような言葉を返した。その時、


「フフフ…どうした? もう逃げないのかね?」


潤たちのそばで我乱の声がした。


「!!!! がらあああああんんん!!!!」


再び美奈津が激高する。潤はこのままではまずいと思った。


(何とかしないと…何とか…。真名さん…)


そう、潤が祈るように考えた時であった。


「すまん…遅くなった…」


我乱の声がした方とは、逆方向から真名の声がした。


「真名さん!!!!」


潤は「地獄に仏」とはこのことかと思った。森の向こうから、真名が走ってくる。


「ほう…。蘆屋の夜叉姫やしゃひめが来たか…」


そう我乱の声が聞こえてきた。その声に、また美奈津が反応する。


「がらああんんん!!! 殺すうううううう!!!!!」


美奈津は潤の手を振りほどいて、我乱のいる方向へと走ろうとした。しかし、


「悪いが…。それをさせるわけにはいかん」


美奈津のもとにやってきた真名が、懐から出した符を美奈津に張り付ける。


「急々如律令」


蘆屋流符術あしやりゅうふじゅつ木行縛符もくぎょうばくふ


それは、木行の気によって、土行の妖魔を短時間縛する符であった。美奈津は身動きが取れなくなる。


「逃げるぞ、潤…」


真名は、潤にそう言って促した。


「はなせ!!!!! なんで逃げるんだ!!!!! 奴が目の前にいるのに!!!!!」


「無駄だ…奴には、お前では勝てん」


真名は美奈津にきっぱりと言い切る。美奈津は叫ぶ。


「うるせえ!!! あたしは死んでも、命と引き換えにしても奴を!!!!!」


「無駄死にだ…。今の奴には…」


そう言った後、一瞬逡巡した真名は、はっきりと言い切った。


「私でも勝てない…」


「真名さん…」


潤はその言葉に驚きを隠せなかった。真名は、それ以上何も言わずに、潤を促した。


「は…はい…」


潤は美奈津を抱えて森を駆けた。真名もそれに続いた。


「はなせ!!!! 我乱!!!!!!」


夜の闇に、美奈津の悲鳴のような叫び声だけが響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=984391252&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ