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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第十六話 始まり 後編

金剛拳こんごうけん


ズドン!


「が!!!!」


賢誠会松羽組の事務所の玄関先で、その構成員の一人が吹き飛ばされた。それをしたのは、ショートカットの少女・美奈津であった。


「美奈津…。相手は一般人だ、余計な呪は使うな」


それを見た一番年下に見える少女・真名は、美奈津をとがめる。


「ち…。わかったよ…」


美奈津は、真名のその言葉に、しぶしぶ霊装怪腕を解く。その後ろでは、3人組の最後の一人・潤が金剛杖で組員を昏倒させていた。


「く!! なんだてめえら!! どこの組の…」


組員の一人がそこまで言いかけた時、不意にその場に崩れ落ちる。


「急々如律令…」


…そう、真名が唱えるたびに、一人また一人と、組員は倒れていった。

それは、恐ろしい光景だった。見た目はまだ成人していない少年少女。その3人組に次々と組員が倒されていくからである。


「く…こうなったら…」


組員の一人・石井が、懐に手を入れて何かを取り出した。それは、一丁の拳銃だった。


「死ね!!」


拳銃を持った石井は、真名に拳銃の狙いを定めた。そして、


バン!!!!


…次の瞬間、拳銃の銃口から鉛玉が発射された。しかし、


「…な?」


真名は石井のことを気にも留めず立っていた。石井は必死に拳銃の引き金を何度も引いた。

しかし、拳銃の弾は、真名に当たることはなかった。


「無駄だぜ…」


それを言ったのは美奈津だった。


「あいつは、<霊装験身れいそうげんしん>の呪を自分にかけてるからな。どんなに正確に狙っても、あらゆる攻撃はそれちまうんだ」


石井には何のことかわからなかった。ただ、目の前の連中が化け物であることだけははっきり理解した。だから、石井はすぐに…


「ひいい…」


その場から逃げようとした。しかし、


「逃がすかよ!!」


美奈津は、素早い動きで石井に追いつくと、その腹に拳の一撃を見舞った。


「が…」


「眠ってろ…」


美奈津はさらに、石井の頭をもってそれを床にたたきつけた。石井はあっさりと昏倒する。


「さて…と」


美奈津は事務所の階段を見つめた。その先は、組長の部屋につながっているはずであった。



-----------------------------



一通り、組員を無力化した3人は、組長室の扉の前に立っていた。真名がその扉のノブに手をかけた時、扉の向こうから声をかけられた。


「入ってきたまえ…」


真名が扉を開けると、そこには組長・後藤恒弘一人が椅子に座って待っていた。


「君たちかね? 『あしや』とかいう連中は」


その言葉に真名が答える。


「ああそうだ。我々は…、播磨法師陰陽師衆・蘆屋一族に所属する、正式な陰陽法師。お前たちが、扱っている『呪物』を回収しに来た」


「ほう、陰陽法師と来たか…。ははは…。冗談のようだが、こうなったからには信じるしかあるまいな…」


恒弘は笑いながら真名に言った。


「なるほど…。いまだに信じられんが、そちらの世界にも、警察のような組織がいたということか…」


そう言うと、恒弘は音を立てて椅子から立ち上がった。それを見て、美奈津と潤が警戒態勢に入る。


「ふふふ…。それで、私はこれからどうなるのかね?」


恒弘のその言葉に真名が答える。


「お前たちは、我々の世界に足を踏み入れすぎた。我々の法で裁かれることになる」


「なるほど…」


そう言うと、恒弘は煙草に火をつけた。


「…悪いが、そう簡単に裁かれるわけにはいかんな」


恒弘はそう言って煙草を一服吸った。その答えに真名は。


「ならば、どうする? 抵抗は無駄だぞ?」


「さて? それはどうかな?」


恒弘はそう言ってにやりと笑った。次の瞬間。


「う?!!!」


突然、真名がうめいてその場に膝をついた。潤は慌てて真名を支える。


「どうしたんですか? 真名さん?」


「く…これは…。貴様…」


そう言って真名は恒弘の背後を睨み付ける。其処に、もう一人の人影が、いつの間にやら立っていた。それは加藤であった。


「…ふ、せい、こう…。やっ、た」


「こいつは!?」


美奈津は、すぐに気が付いた。周囲の気の流れがおかしくなっていることに。


「く…、<術無効>の呪か…」


真名は、苦しげにそう呟いた。

今、真名たちの周囲に発揮されているのは、気の流れを阻害して、呪への変換を無効にする呪いである。それならばなぜ、真名は一人苦しんでいるのか…、それは真名の体質が原因であった。真名は、『欠落症』という病気を生まれつき患っている。欠落症はその患者の気を枯れさせ、生命力を奪ってしまう。それゆえに、真名は生まれつき寝たきりであった。そして、それは今も…。真名が普段、普通の人間以上に動けるのは、呪による<身体サポート>によるものである。それがないと、真名の肉体は生命維持が難しいほど弱ってしまう。今、真名は<術無効>の呪によって、<身体サポート>をはがされ、身動きが取れなくなってしまっていた。


「く…は…」


苦しげな真名のその姿を見て、恒弘は大きく笑いながら言った。


「はははは!!! よくわからんが、うまくいったようだな!」


「ちっ…。やってくれたな」


美奈津は、そう言って悪態をついた。今、自分たちは最悪の状況にあった。

真名は無力化され、残りは、少し体術がうまいだけの2人のみ、それに対し…。


「ふふふ…」


恒弘は懐から拳銃を取り出した。いくら彼らでも、呪を無効化されては銃弾を防ぐ術がない。


「さよならだな、陰陽法師諸君…」


そう言って、恒弘は拳銃の銃口を真名に向け、その引き金を引こうとした。そのとき、


「わん!!!」


「…う、え?」


加藤は、いきなり脇から現れた白い柴犬に襲い掛かられて、その場に倒れた。その瞬間、<術無効>の呪が解ける。


「ふ!!!!」


その瞬間、真名が一気に加速した。それと、恒弘が引き金を引くのは同時であった。

真名は、高速で迫る銃弾を軽く避けた。そしてそのまま、恒弘を無視して加藤に迫った。


金剛拳こんごうけん


ズドン!


「がああ!!!!」


加藤は思いっきり後方に吹き飛ばされた、そのまま部屋の壁に激突して動かなくなる。


「な?!!!」


恒弘はあっけにとられていた。そんな、恒弘に美奈津の拳が飛ぶ。


「ぐふ」


恒弘は、呻いて拳銃を取り落とした。美奈津の拳が、正確に腹に突き刺さっていた。


「終わったな…」


誰にしゃべるともなく、美奈津が言った。そんな美奈津のそばに真名が歩いてくる。


「…ふう、少し肝が冷えたな。ありがとう潤」


「え? いえ…」


潤は少し照れながら頭をかいた。いくら<術無効>でも源身を表していない、通常状態のシロウを消すことはできなかったのだ。


「でも、いったいこいつはなんだ?」


美奈津が、動かない加藤の方を見て言った。


「<術無効>とは…。そんなものを扱えるのは、明らかに我々の世界の者だ…。それに…」


「それに? なんです?」


真名のその物言いに、潤が聞き返す。…と、その時。


ドン!!!!!


「む?!!」


いきなり、事務所の窓を突き破って、巨大な何者かが入ってきた。


「妖魔?!!!」


それは、全身を革のひもでがんじがらめにされ、両腕が翼になった鬼であった。

鬼は、翼をはためかせると、加藤をその足の爪でつかんで空へと舞いあがった。


「てめえ! 逃がすか!!!」


美奈津がそう叫んで鬼を追う。そんな美奈津に向かって真名が叫んだ。


「まて! 深追いするな!!」


美奈津は、そんな真名の言葉を聞いてなかったかのように無視して、事務所の窓から外へと飛び出していった。


「く…、美奈津の奴…」


「真名さん…」


潤が心配そうに真名のそばにやってくる。真名は潤の方に向き直ると言った。


「潤、美奈津を追って、彼女を守ってやってくれ。私は、この場を片付けてからお前たちを追う」


「え…? は、はい!!」


潤は真名のその言葉にすぐに答えて、事務所の窓から外へと飛び出した。


「…」


真名は、潤を見送りながら、先ほどの加藤のことを考えていた。


(奴は…)


真名は金剛拳の一撃を加えた時に、その一瞬で、あることを加藤から感じ取っていた。


(奴は…、死人だ…)


そう、加藤からは生命の息吹が全く感じられなかった。おそらくは、死霊使い等が生み出したゾンビの類だろうと結論付けていた。ならば、先ほどの鬼は…


(ちっ…。とっとと、片づけて美奈津を追わないと…)


真名は、加藤のその背後にいる者の存在を敏感に感じ取っていた。



『第十六話 始まり 了』

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