第十三話 悪左衛門VSソウェイル 最強の龍神と最強の剣士
「まさかあなたほどの人が直接動くとは思いませんでしたよ、ソウェイル殿」
「…私のことを知っているのか」
悪左衛門のその言葉に、ソウェイルはたいして驚いた様子もなくそう言った。
「ええ、世界魔法結社の最高戦力である特務にあって、さらに最強と呼ばれている男。
世界でも五本の指に入ると呼ばれている魔神殺しの剣士。
太陽のソウェイル…、又は勝利のソウェイル…」
「…」
「はっきり言って、私が言うのもなんですが、今回の蘆屋一族潰しは貴方一人で十分だったのではないですか?」
「…こちらには、こちらの事情というものがあるのでな」
そう言ってソウェイルはフッと笑った。
「まあいいです。こちらにはあなたに対抗できうる戦力がなかったので、直接私が動くことになってしまいましたが…。
さて、どれだけ食い下がれるか…」
「フン…謙遜はよせ。日本の魔王の中でも最高位の者の力がどれほどか、見せてもらうぞ」
そう言うとソウェイルは片手を空に掲げる。すると空中に美しい装飾の入った両手剣があらわれて、その手に収まる。
「ほう、それが『無銘』ですか。その力他に比べるもの無しゆえに『銘無し』とされた、地上最強とも呼ばれている魔剣」
「ほう…よく知っているな」
「まあ、伊達に長生きしておりませんので」
そう言うと悪左衛門は懐から扇子を取り出す。その扇子には大きく『悪』と描かれている。
「まさか、それでこの剣に対抗するつもりか?」
ソウェイルの言葉に悪左衛門はにこりと笑う。はっきり言って手にしている扇子は、魔剣の一撃を受ければすぐに粉々になるように思われた。
「ご安心を。この扇子はその魔剣ほどではないとはいえ、ただの扇子ではございませんので」
「フン…ならばいい。速攻で終わるのは、いくら何でもつまらんからな」
そう言うと、ソウェイルは手にした魔剣を下段に構える。悪左衛門は手にした扇子を閉めて、ソウェイルの方にそれを向けて立った。
次の瞬間、ソウェイルが一気に加速する。
ソウェイルの一太刀は正確に悪左衛門を狙っていた。しかし、悪左衛門はそれをあらかじめ知っていたかのように、魔剣の軌道を扇子でそらして防いだのである。
「む?!」
ソウェイルは一度剣を引くと、再び下段に構えて一気に加速する。しかし、その攻撃も、まるであらかじめ知っていたかのような動きで、悪左衛門は扇子でそらしてしまった。
(ならば…)
ソウェイルは再び剣を引いて上段に構えて叩き落す。そして、そこから腕に力を込めて上に切り上げる。
悪左衛門はその二連撃も綺麗に避けてしまう。
(これは…)
ソウェイルは、悪左衛門の動きに妙な感覚を得ていた。それを確かめるため、ソウェイルは剣を中段に構えて、悪左衛門にフェイントを仕掛けた。
悪左衛門はフェイントに乗ってこなかった。まるであらかじめ知っていたかのように…。
(先読みの魔法か?)
再びソウェイルは剣を中段に構え、その刀身に力を籠める。刀身が青白く輝いた。
「はあ!!!」
そして、気合一閃。魔剣を横凪に振りぬいた。
「…く。これでも」
そこに悪左衛門はいなかった。まるで知っていたかのように横に避けたのである。
「今のは、異能の効果を抹消する『魔斬剣』ですか…」
悪左衛門がそう答える。
「残念ですが。私の『これ』は異能ではありませんよ」
「なるほど…。それがお前の神位特効か…」
「フフフ…その通りです」
『神位特効』
それは、神が神として持つ神の力のことである。
効果は魔法などの異能に似ているが、効果が特殊であるにもかかわらずそれらは『自然現象』として扱われる。
土地神の『地脈制御』や、一神教の神の『全知全能』などがそれに当たり、その能力はコピーしたり消去したりすることは不可能である。
「これは、私の神位特効の一つ『絶対先制』です。
私は特定の条件下のモノに対し、常に先制して行動できるのですよ」
「なるほど…ならば」
その言葉でソウェイルは理解した。こちらの行動は常に読まれるものとして行動しなければならないだろうと。
悪左衛門は言う。
「では、今度はこちらから行きましょうか?」
「む?!」
ソウェイルはそれを聞いて、武器を構え守りの姿勢をとる。
すぐにそれは来た。
<雷光鞭>
悪左衛門の扇子の先から電光の帯が走り出たかと思うと、それは鞭のようにしなってソウェイルに襲い掛かった。
ドン!
電光の鞭が地面に命中した瞬間、その地面は深くえぐられる。
ソウェイルはその電光の鞭を素早くかわすと、悪左衛門の方に向かって飛んだ。しかし、
「残念読んでます」
悪左衛門がそう言うと、電光の鞭が再び翻って、ソウェイルの進行方向を正確に打った。
だがソウェイルは、すでに剣を構えていた。そして
「はああ!!!!」
気合一閃、その電光の鞭を切り裂いてしまったのである。
「おお?!!」
悪左衛門はそう言って、その場から飛び去って迫る刃を避けようとした。しかし
「逃がさん!」
ソウェイルの剣が一瞬まばゆく輝いたかと思うと、その刃から光の奔流が扇状にほとばしり出たのである。
(こちらの行動が常に読まれるならば、その読みですら回避できない攻撃をすればいい!)
悪左衛門は驚きの表情で光の奔流に飲み込まれた。そして
「く…さすがですねソウェイル殿」
光が消えた後、そこには左腕を失い、胴体の三分の一を焼かれた悪左衛門がいた。
「…まさか今のを耐えきるとはな。普通の魔王なら消しズミに変わってるはずだが。さすが神の位を持つ大魔王だ」
ソウェイルは少し驚いた表情でそう言った。
「残念ですが、この程度では私は死にませんよ」
悪左衛門はそう言うと、失った腕の方に力を込めた。すると
「腕が…再生していく?」
そう呟くソウェイルの目の前で、悪左衛門の腕が元通りに戻ったのである。
「さて…、今のはこちらがやられましたが。ならば、これならどうです?」
そう言うと、悪左衛門は大きく口を開いて、その口から大量の水を迸らせる。
「む?!」
その水は、悪左衛門の体内から出たとは思えないほど大量であり、すぐに悪左衛門の周りは巨大な池のようになっていった。
悪左衛門を中心に渦を巻く大量の水は、さらに広がりソウェイルの足元をも覆い尽くしていく。
ソウェイルは水で足を取られないようにするため、近くに立っていた巨大な樹木の枝に飛び乗った。
「これは、何のつもりだ?」
「フフフ…あなたは五行相生の理を知っていますか?」
「五行相生…東洋魔法でよく扱われる思想だな。それによると、確か水は木を育てるとか…」
「その通り、なお、五行の考えによると、雷は木行に入るのですよ」
「!! まさか!!」
ソウェイルが一瞬顔をこわばらせる。その時、悪左衛門の口から水とともに雷の帯が迸り出た。
次の瞬間、巨大に広がる池の水面がまばゆく輝いた。
ドン!!
それは、遠く道摩府本部からでも見ることのできる巨大な雷の柱だった。
それは、半径数十mの範囲を完全に焼き尽くしてしまったのである。
「対魔王調伏法・天雷滅陣ですよ」
全身に雷を纏った悪左衛門はそう呟いた。
『天雷滅陣』
それは、雷を操る攻撃呪の中でも最高位に位置する一つである。その威力は攻撃範囲にあれば、巨大なビルすら消滅させる威力を有する。
「さて、今の攻撃でもおそらく…」
悪左衛門はそう言うと周囲の気配を探ってみた。そして、確かにその気配はいまだ存在していた。
「く…少々肝が冷えたぞ…」
魔剣『無銘』を盾のように構えたソウェイルが生きてそこに立っていた。
「やはり…ですか…」
「なんとか、防御が間に合ってくれた…」
「これほどの攻撃を受け流せるとは。さすが世界でも五本の指に入る剣士。
もはや、常識はずれとしか言えませんね」
悪左衛門は心の底から、目の前の人間の強さに呆れた。
「まあ、分かっていたことですが…。こうなったら、私の源身をお見せしなければならないでしょうね」
そう言って悪左衛門は手にした扇子を懐にしまう。そして
「少し、場所を変えさせてもらいますよ?」
「む?」
その瞬間、ソウェイルたちの周囲の景色がガラリと変わった。
それは、森も何もない殺風景でだだっ広い草原の真ん中であった。
(まさか…今の一瞬で瞬間転移をしたのか)
ソウェイルがそう考えていると、悪左衛門の体が黒い闇に溶けて消えていった。
そして、
「む?!」
突如、ソウェイルを地震が襲った。草原の地面が盛り上がりうねり揺れている。
次の瞬間、草原の大地が割れて、巨大な何かが姿を現した。
「まさか!」
それは、それだけで数十mはあろうかという巨大な龍の頭であった。
「これは!!」
巨大な龍の頭が鎌首をもたげる。それは、ビルにも相当する巨大なものであった。
だが、ソウェイルを襲う地震はそれだけで終わらなかった。
さらに、八つ大地が大きく裂けて、さらに一つ、また一つと巨大な龍の首が現れる。
それは、合計九本にも及んだ。
「はは…なるほど。毒水悪左衛門とか言ったか? 貴様の正体がわかったぞ。
日本でも最大最強クラスの龍神であり。人間にも多くの信者を持つ神でもある。
すなわち『九頭竜権現』…それが貴様の正体か…」
【フフフ…その通りです。まあ、この姿は最近戻ったことがなかったのですが。
あなたほどの剣士が相手です。仕方がないでしょう…】
そう、龍頭の一つが話す。
「いや…、もう理解した。これならば大丈夫だろう…」
ソウェイルは、九頭竜権現前で、突然その手に持っていた剣を置いた。
【…ソウェイル? あなた…】
「ふう…。貴方なら、こちらの話を通しやすいだろう…」
ソウェイルはそう言ってその場に跪いた。
【あなた…。どうやら、戦いに来たのではないようですね…】
「ああ、そうだ。私は世界魔法結社上層部から、蘆屋一族の殲滅の命令を受けているが、それ以前から別の者から使命を帯びている」
【…なるほど。世界魔法結社上層部と言えど一枚岩ではないということですか】
「ああ…その通りだ。私に蘆屋一族殲滅を命令したのは、反土御門の者だ…。
世界魔法結社内部で勢力を伸ばしつつある土御門に、これ以上力をつけさせたくない勢力だ」
【ほほう…。それがなぜ、我々を狙うことに?】
「いや…それは。貴方がよく知ってるだろう?」
そう言ってソウェイルは苦笑いする。
【フフフ…そうですね。我ら蘆屋一族…。その呪術の系譜は土御門と繋がっています。
なぜなら、もともと開祖である蘆屋道満様は、かの安倍晴明の弟子だったのですから…。その時、道満様は安倍晴明の秘術のすべてを手にしたとされています。
それゆえ、その秘術の多くが世界魔法結社に奪われた今の土御門よりも、より安倍晴明の呪術に近いのが我が蘆屋一族なのです】
「そう…。土御門と蘆屋一族がこのまま繋がると、かつての力を取り戻すと考え恐れている勢力がいる」
【そうですね…。かの第二次世界大戦の時、世界魔法結社と互角に渡り合っていた勢力こそ、日本の土御門でしたから。恐れるのは無理もないでしょう。
それで、あなたはそことは別の勢力の?】
「ああ…そうだ。我々は、今の世界魔法結社にとって、土御門はかけがえのない友と思っている。これから世界魔法結社を引っ張っていく一翼になるとな」
【それで…これからどうするつもりです?】
「それは…。ここで私が負けたことにしてほしい」
【それは…、いいのですか? 結構大変なことになるのでは?】
「心配いらない。世界魔法結社の勝利の象徴である私が負け、そして生かされたと本部が知れば、こちらにはおいそれと手出しが出来なくなるはずだ」
【なるほど…。それは、こちらも願ってもないことですが】
「そのためにも、私が負けるほどの戦力という説得力が必要だった」
【どうやら、私は貴方のお眼鏡にかなったようですね】
ソウェイルはにやりと笑い。
「ああ…あんたなら、私が負けたとしても疑う者はいないだろう」
【なるほど、わかりました。貴方の言う通りにしてみましょうか…。面白そうですし】
「フフ…お願いする。
それで、一つ頼みがあるのだが」
【なんですか?】
ソウェイルは笑みを大きくしながら言った。
「私を死なない程度に痛めつけてほしい」
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「そうか…。世界魔法結社の特務が敗れたか」
暗い闇の底、『乱月』はそう呟いた。
「まあ、そうだろうな。妙な思惑が動いている可能性もあるが」
その言葉を聞いていた、赤い髪の男が言った。
「で…? どうするんだ? お前は…」
その言葉に不思議そうな顔をして乱月は言う。
「どうするとは? 今までのとおり、俺は俺の計画を進めるだけだ」
「ふうん…。お前に『例の仕事』を回した連中は、世界魔法結社の例の連中だと思ってたんだが…」
「さて…どうだろうね? フフフ…」
乱月は心底楽しそうに笑う。赤い髪の男はそれを無表情で見つめている。
「蘆屋一族…。土御門…。世界魔法結社…。そして、席番剥奪者…。
すべてのものは俺の手の上で回っていく…。これから忙しくなるぞ…」
暗い闇の底で邪悪が大きく笑った。
『第十三話 悪左衛門VSソウェイル 最強の龍神と最強の剣士 了』




