第十一話 瞬那VSウルズ 魔王(めがみ)
「私は、蘆屋一族八大天の一人、瞬那でございます」
そう言って瞬那は律儀にウルズに会釈した。
「はちだいてん? …この感じ、妖魔族か…」
「はい、半分だけですが」
「半分?」
そう言ってウルズは驚いた表情になる。
(こいつ…妖魔族と人間のハーフか…)
そう考えてから、ウルズはチッと舌打ちする。
「そんなことは関係ねえ…。
まさかてめえが、この小娘の代わりに相手になるとか言うんじゃないだろうな?」
なあおい」
「はい、その通りです」
瞬那はきっぱりと言い切った。その言葉にウルズは顔を険しくする。
「は! てめえごときが、この俺のスピードについてこれるかよ。なあおい」
「さあ、どうでしょう…」
そう言って瞬那はにこりと笑う。ウルズの表情はさらに険しくなった。
「だったら、思い知らせてやるぜ。なあおい」
次の瞬間、真名たちの前からウルズがかき消えた。
ガキン!
「!!」
不意に、消えていたウルズが姿を現す。その表情は驚きに満ちていた。
(こいつ…今の攻撃を、腰の刀で打ち払いやがった)
いつの間にか、瞬那は腰の刀を抜いていた。瞬那がいつ刀を抜いたのか真名には全く見えなかった。
「さて…、あなたの攻撃はそれだけですか?」
「くっ!!」
そう言われて、再びウルズは加速する。
ウルズは、目にもとまらぬ速さで瞬那の背後に回り込むと、両手の刃を振り下ろした。
だが、その瞬間にはもはや、そこに瞬那はいなかった。
「!?」
驚いたのもつかの間、ウルズは背後に気配を感じて振り返った。いつの間にか、そこに瞬那は立っていた。
「閃光と化せ我が太刀筋…」
瞬那が手にした刀を構える。そして。
シュパパパパパパパパパ…
次の瞬間、無数の閃光が瞬那の前方、ウルズに向かって走った。
「うがあああ!!!!」
ウルズはその閃光を全身に受けて吹き飛ばされる。
「安心してください。我が刀『光明』は、一撃でかすり傷一つしか与えない非殺の剣です。
あなたが死なないように、こちらで斬撃数を調整します」
吹き飛ばされた先で、ウルズは呻きながら立ち上がる。
「てめえ…俺をなめてんじゃねえぞ。なあおい!
何が、俺が死なないように、だ!!」
ウルズは全身に力を込めた。さらに加速するための準備である。
「行くぜ!」
そう言うが早いか、ウルズは再び加速した。超高速で瞬那との間合いを詰め、両手の刃を振り下ろす。
しかし、そこにもまた瞬那はすでにいなかった。ウルズの背後に再び気配がする。
シュパパパパパパパパパ…
再び無数の閃光がウルズに向かって走る。しかし
「なめるな!」
ウルズはさらに加速すると、その閃光を回避したのである。
背後に向かって刃を一閃、瞬那の体から血しぶきが飛んだ。
「く…」
「はは! まだだぜ!」
ウルズはさらに刃を一閃する。
ガキン!
今度は瞬那の刀によって打ち払われてしまう。だが、それだけで終わるウルズではなかった。
「刻め! ファング!!」
光の刃がウルズの手にした刃から無数に飛んだ。
その光の刃は、瞬那の体に到達すると、その身を縦横無尽に切り刻んだ。
「あああ!!!!」
瞬那はたまらず吹き飛ばされる。ウルズは、さらに加速して追撃にかかる。
「これで終わりだぜ!」
床に倒れている瞬那に向かって、ウルズは両手の刃を容赦なく振り下ろした。
…だが、そこに倒れているはずの瞬那が、忽然とウルズの前からかき消えた。
「なに?!」
再び、ウルズの背後から気配がする。
「さすがですね…。こちらも本気でいかなければなりませんか」
瞬那のその言葉に、ウルズはチッと舌打ちすると自身の背後に刃をふるう。しかし、そこにはもう瞬那はいなかった。
瞬那はウルズの真横に現れていた。そして、刀の柄でウルズの腹を打ち据える。
「うぐ…」
ウルズはたまらず腹をおさえて呻いた。その瞬間、再び無数の閃光が瞬那より放たれる。
「くお!!!!」
ウルズは無数の閃光に包まれながら吹き飛んだ。
「まだです…」
瞬那はそう言うと、その場からかき消える。
そして、吹き飛ばされて倒れているウルズのそばに現れ再び刀を振るう。
無数の閃光が再びウルズを包み込む。
「ぐうう!」
ウルズは身を固めてそれを受ける。なんとか足で踏ん張って耐えた。
だが、瞬那の攻撃はそれで終わりではなかった。
再び瞬那は、ウルズの前からかき消える。危険を察知したウルズは、全身に力を込めて加速、回避行動をとった。
しかし、ウルズは瞬那を振り切ることが出来なかった。
(ちくしょう!)
ウルズが心の中で悪態をついていると、瞬那の刀が三度閃いた。
無数の閃光がウルズを包み込む。その閃光が、ウルズの全身を切り刻んだ。
「があああああ!!!!」
ウルズは血反吐を吐きながら吹き飛ばされた。
(ちくしょう! この俺が奴のスピードに追い付けないだと?
世界魔法結社で最速の俺が…)
ウルズは床を自身の血反吐で濡らしながらそう考えた。
「さて、あなたのスピードはこれで打ち止めですか?
それなら、私にはもはや追いつけないことになりますが」
瞬那は、刀を構えたまま、ウルズにそう問いかける。ウルズは怒りに顔をゆがめながら立ち上がる。
「わかったよ…。なあおい。
こうなったら、俺の嫌いな『本当の姿』を見せなきゃならねえよな…」
ウルズは再び全身に力を籠める、そして今度は肉体の内側に潜んでいる力を開放するために吠えた。
「おおおおおおお!!!!!!」
次の瞬間、ウルズの全身に大きな変化が起こる。全身から剛毛が生え始め、牙や爪が凶悪に伸びていった。
「ほほう…。ワーウルフですか…」
そう、瞬那が言うと。
「ハーフだがな…」
そうウルズは忌々しげに答えた。
「本当はこんな姿見せたくなかったんだがな…。なあおい」
「それはなぜです?」
「フン…昔から、妖魔族とのハーフということでいろいろ排斥されてきたのさ」
「なるほど…だから妖魔族は嫌いだと?」
「当然だろうが! なあおい。だから、今回も喜んでこの任務を受けたんだ」
「逆恨みですか…」
その言葉を聞いて、ウルズはチッと舌打ちする。
「逆恨みだろうが関係ねえ。お前らは潰すぜ。なあおい!」
ウルズはそう言って、全身に力を込めて加速した。
「!?」
瞬那にはその動きが見えなかった。あまりのスピードに感覚が追いついていかなかった。
「そらよ!!」
次の瞬間、瞬那の体から血しぶきが飛ぶ。ウルズがその刃で瞬那を切り裂いたのである。
でも、ウルズはそれだけでは止まらない。
「そら! そら!」
ウルズの刃が二閃する。さらに瞬那の身に刃の傷がついた。
「く…速い…」
「はは! どうした?! お前のスピードはそこまでか? なあおい!」
瞬那は脚に力を込めて加速する。そして、ウルズの攻撃を回避しようとする。
しかし、ウルズの超加速による攻撃を避けきることが出来なかった。
「そら! そら! そら! そら!」
四つの刃の光線が瞬那に襲い掛かる。瞬那は刀で何とか受けるが、そのまま吹き飛ばされてしまう。
「フン!」
その瞬間、ウルズが瞬那の前からかき消えた。そして、いつの間にか瞬那の背後に立っていた。
ザク!
ウルズの刃が、瞬那の胴に深々と突き刺さった。
「が…は…」
瞬那は血を吐いた。そしてその場に膝をついてしまう。
「てめえには…恨みはねえ。同じ妖魔ハーフだしな…。
だから、殺すのはやめにしといてやるぜ。なあおい」
「…く…う」
瞬那は呻きながらも、なんとか立ち上がろうとする。
「やめとけよ…。もういいだろう? お前じゃ俺には勝てねえんだよ。なあおい」
瞬那はそれでも立ち上がって刀を構える。
「申し訳ありませんが、私は仲間たちのためにも。負けるわけにはいかないのですよ」
「仲間? 妖魔どもが仲間かよ?
あんな連中ほおておけばいいだろう」
「…あなたは、本当に仲間運が悪かったんですね」
「仲間運が悪かった?」
ウルズがそう答えると、瞬那はにこりと笑って言った。
「確かに、私もハーフということで、いろいろ排斥された記憶があります。
でも、妖魔の中には私を認めてくれる者もたくさんいました」
「……」
「妖魔と言っても、結局人間と同じなんですよ、いい人もいれば悪い人もいる…。
そんなこと、本当は貴方もわかってるんじゃないですか?」
「…チッ」
瞬那の、その心を見透かすような言葉にウルズは舌打ちした。
「…俺は妖魔が嫌いだ。妖魔の血を引く俺の半身が嫌いだ。それだけだぜ、なあおい」
「…私は好きです」
「何?」
瞬那のその言葉にウルズは驚いた顔を向けた。
「人間も妖魔も…。私という存在を生んでくれたのですから」
そう言って瞬那はニコリと笑った。
「く…。だったらなんでだよ」
「何がですか?」
「なんでてめえは、そんな仮面をかぶってんだ! なあおい。
お前も、排斥されるのを恐れてるんじゃねえのかよ!」
「……」
ウルズは両手の刃を再び構えて走る。
「もういい! 殺しはしねえ! …だが、
死ぬほど痛いから覚悟しろよ! なあおい」
そう言って、ウルズは瞬那の前からかき消える。それに合わせて瞬那も足に力を込めて加速する。
ガキン!!
二つの閃光が交差した。
「…あなたは怖いんですね」
「…なに?」
その時、瞬那の顔から仮面が割れて落ちた。
「排斥されるのが怖いから、こちらから嫌ってやる…。それがあなたの心」
瞬那は微笑みながらウルズを振り返る。
「!!」
ウルズは見とれていた、瞬那のその顔に。
それは、ウルズが今まで見たこともないような美しい女性だった。
「ウルズ…。一つ間違いを訂正しましょう。
この仮面は…私の力の封印なんです」
「…え?」
瞬那の、朱を引いた唇が言葉を紡ぐ。
「源身…開放…」
次の瞬間、瞬那の全身が光に包まれる。
そして、その光が収まったとき其処にいたのは、半透明の羽衣をまとい、銀色の狼の耳と、銀色の尾を持った美しい天女であった。
「な…」
ウルズはその芸術作品から抜け出てきたかのような美しさに言葉もなく、ただ茫然としていた。
「ウルズ…もう怖がらなくてもいいのですよ。貴方は強く優しいのですから」
瞬那はその手にした刀をウルズへと向ける。そして、
「無音と化せ我が太刀筋…」
次の瞬間、ウルズは全身に強烈な痛みを感じて吹き飛んだ。
スピードを極限まで高めて、不可視・無音と化した刃が、何千撃もウルズの肉体を打ち据えたのである。
ウルズは吹き飛ばされながら考えていた。
(そうか…これが…日本の…魔王…)
そのままウルズは幸福な気持ちで意識を失った。
『第十一話 瞬那VSウルズ 魔王 了』




