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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第九話 潤VS切人 想いを繋げる力 後編

その声を聴いたとき、潤の意識が反転した。『使鬼の目』のトランス状態に入ったのである。

何もない真っ暗な空間の中、目の前にその声の主がいた。


「かあ…さん…?」


そう、それは、潤をかばって交通事故で死んだ矢凪風華であった。

風華はにこりと笑うと潤に話かけてきた。


「ふう…やっと気づいてくれたようね潤」


「母さん…なんで…」


「なんでって…私はいつもあなたのそばにいて話かけていたわよ?」


「そんな…でも、僕の目には…」


「見えていなかったわね…。

 おそらくそれは…私に対する罪の意識があったから…かしら…」


潤は信じられなかった、自分の不注意で死なせてしまった母が、自分を見守るためにそばにいたなんて。


「本当に困った子ね。私が死んだことに、そんなに罪の意識を持つ必要なんてなかったのに」


「でも…母さんは僕のせいで…」


「あなたは勘違いしてるわ」


「勘違い?」


「親が、子供を助けるのに理由なんて必要だと思う?」


「……」


「それでも…あなたは自分が許せないのね?

 ならば、昔話をしてあげる…」


そう言って、風華は話し始めた。それは、潤がまだおなかの中にいたころ。


「私はね…孤児なの…。家族も親戚もいなくて、一人で生きてきた。

 そんな私に初めてできた家族が、あなたのお父さんだった。

 幸せだったわ。やっとできた家族ですもの。

 おなかの中に彼の子供がいると知ってもっと幸せになった。

 でも…」


そう言って風華は目を伏せる。


「あの人は死んでしまった…。つらかったわ、悲しかったわ。

 だから私は、あの人の後を追うことにしたの。」


「え!? それって」


「そう…。私は自殺しようとしたの。

 でも…私は死ぬことが出来なかった…なんでだと思う?」


「……」


「おなかがね動いたの…。僕はここにいるよ…って、

 お母さんは一人じゃないよって、

 あなたはね…私の命を救ってくれたの」


風華はキッとした表情で潤を見つめる。


「だから私は、あなたを命を懸けて育てようとした。

 だって、あなたに救われた命だもん…」


「母さん…」


「いい? 忘れないで。

 人の想いというのは、一方通行じゃないの。

 あなたがみんなを守りたいと思うのと同じように、みんなもあなたを守りたいと思ってる。

 私は貴方に救われた者として命を懸けた。シロウたちもおんなじよ?」


「…でもみんなは消えてしまった」


「大丈夫よ…。よく”霊視”てごらんなさい」


「え?」


風華のすぐ隣、両側にシロウとかりんが立っていた。


【主…】


【お兄ちゃん】


「シロウ! かりんちゃん!」


風華は潤の様子に頷いて言った。


「あなたはね…。お父さんの力を受け継いでるの。

 それは、ヒトとヒトの想いを繋げる力。

 ヒトの想いは決して消えることなんてないわ」


「母さん…」


「あなたは強くなりたいんでしょ?

 ならば、ヒトの想いを大切にしなさい。

 お互いの想いが強くなれば、あなたは決して誰にも負けないわ」


「ヒトの想い…」


「そう、あなたは、一人で強くなるんじゃない、

 みんなで強くなるのよ」


潤はシロウの方を見た。


【主…我はどんなことがあろうと消えることはありません

 どうか我を信用してください】


そうか…。と潤は思った。

いつもシロウを戦わせるのに躊躇いがあったのは、シロウを信用していなかったのと同義なのだ。


【お兄ちゃん…】


ふと、かりんがこちらに話しかけてくる。


【お兄ちゃん、私もお兄ちゃんと一緒に戦いたい!

 お兄ちゃんに守られているだけは嫌なの!

 私もお兄ちゃんを守りたい!】


「かりんちゃん…」


潤はそれでも戸惑った、彼女を戦いに巻き込んでいいものかと。


【私は…私は、お兄ちゃんに助けられた…

 だから今度は私がお兄ちゃんを助ける番なの!

 私の力を信じて! お兄ちゃん!】


かりんは決意に満ちた表情で潤を見る。潤は風華の方を見た。

風華は大きく頷いた。


「大丈夫よ…潤。貴方の力を

 想いを繋げる力を信用なさい」


その言葉を聞いて潤は決意した。

潤はシロウとかりんに手を差し伸べる。


「シロウ…かりん…。僕と一緒に戦ってくれる?」


【当然です主!】


【当たり前だよお兄ちゃん!】


その三人を見て風華は満足そうに頷いた。


「さあ! 行ってきなさい! 私の自慢の息子!

 あなたなら絶対に負けないわ!」


その言葉を聞いて、潤は力強く立ち上がる。潤の意識が現実に戻ってきた。


「何?」


切人は突然のことに驚いた。潤の目から、全身から強力なオーラが立ち上り始めたからである。

潤は叫んだ、力の限り。


「シロウ!! かりん!! 戻って来い!!!」


そしてそれはすぐに現実になった。潤の目の前にシロウとかりんが現れたのである。


「バカな! 奴らは私の魔法で消滅したはず!」


切人は叫ぶ。そんな切人に構わず潤は印を結んだ。


「行くぞ! 二人とも!」


【応!】【うん!】


次の瞬間、シロウとかりん二人の体に『使鬼の目』を通して潤の霊力が吹き込まれる。


【おおおおおおおおお!】【あああああああああ!】


シロウとかりんの体に変化が起こり始めた。

シロウはその全身がダンプほど巨大化し、頭に10本の角が生え、目の中の瞳が片側5つづつに増えた。

かりんはかつての怨霊の姿、ぼろぼろの着物を着た鬼女の姿になった。

そして…。


属性反転ぞくせいはんてん


シロウとかりんの全身がまばゆく輝き、その各所に銀色の鎧が生まれ始める。


【護法鬼神・志狼!】【護法鬼神・火凛!】


【【ここに参上!】】


現れたのは、銀の鎧を身に着けた巨大狼と、同じく銀の鎧を身に着けた女武者だった。

切人はそれを見て驚愕の表情をしている。


「ばかな…。使い魔が変身しただと…」


潤はすぐに命令を下す。


「行けシロウ!」


【応!】


シロウはその巨体に似合わない速度で駆けた。


「この!」


切人は右手の手刀でそれに応戦しようとする。しかし…


【こっちもいるぞ!】


かりんが、その腕に巻き付けていた羂索を飛ばして、切人の脚に絡みつかせたのである。

切人は脚をもつれさせて倒れた。そこにダンプほどの巨体のシロウが突っ込んでくる。

避けきれなかった。


「ブラックドック!」


切人はブラックドックを盾にして身を守ろうとした。しかし、その衝撃は思った以上に大きいものであった。


「ぐああ!!!」


切人はブラックドックとともに吹き飛ばされた。そのショックで右手の深紅の輝きが消滅する。

切人はなんとか空中で体勢を立て直すと、足から着地した。


「まさか…ここまでとは。

 だが、私もこんなところで終わるわけにはいかんのだ。

 魔法使いとしてこんな子供に負けるわけには…」


そう言って、切人は懐から何かを取り出した。それは、符で封印された銀色の箱であった。


(あれは! 王威の円環?!)


切人はそれを地面に置くと、精神を集中して呪文を唱え始めた。


「kenyrmann!!!」


炎神転生えんしんてんせい


次の瞬間、切人の全身から紅蓮の炎が噴き出し始める。そして、それは切人の肉体を灰に変え、巨大化し炎でできた巨人に姿を変えた。


「こうなったからには俺は元の姿に戻ることが出来ない。

 貴様もその仲間もわが炎で燃やし尽くしてくれる!!」


その巨大な炎の巨人はその腕を振るって襲い掛かってくる。


「く!!」


潤はその攻撃を辛くも避けた。しかし、巨人の腕から出た炎が森に火をつけてしまう。


(急がないと、山火事になってしまう!)


再び巨人がその腕を振るった。潤は今度は避けきれなかった。するとかりんが間に割って入って来る。

かりんは潤を抱えて飛んだ。


【大丈夫? お兄ちゃん!】


「ありがとうかりん。助かった」


【うん! でも、そんなことより。あいつをなんとかしなきゃ…】


「それは、分かってる。わかってるけどどうしたらいいか…」


【……】


かりんは一瞬考えた後言った。


【ねえお兄ちゃん…。私の炎信じてくれる?】


「え?」


【私は、自分の炎が嫌いだった。だって友達も何もかも燃やしてしまうんだもん。

 でも、今は、この炎のおかげで私はお兄ちゃんを守ることが出来る】


「かりんちゃん」


【…もし、お兄ちゃんが私の炎を信じてくれるというなら。私も自分の炎を信じる】


「僕は…かりんの炎を信じるよ」


【だったら…。アレしかないよ】


「あれって…まさか」


【そう、お兄ちゃんが現在知ってる、最大最強の呪。

 今の私とお兄ちゃんなら使えるはずだよ】


「……」


潤は少し考えて決断した。


「よしやろうかりん!」


【うん!】


潤はそう心を決めると、シロウに対して命令した。


「しばらく巨人の相手をして時間を稼いでくれ」


【承知!】


潤を抱えたかりんは、安全なところまで飛んでいくと、そこに潤をおろした。


「行くよかりん!」


そう言って、潤は印を結んで呪文を唱え始めた。


「ナウマクサラバタタギャーテイビヤクサラバボッケイビヤクサラバタタラタ…」


呪文を唱えるごとに、潤の霊力が高まっていく。


「センダマカロシャダケンギャキギャキサラバビギナンウンタラタカンマン…」


そうして高まった霊威を、今度はかりんの中に送り込んでいく。


「東方・降三世明王、南方・軍荼利明王、西方・大威徳明王、北方・金剛夜叉明王!」


潤はかりんを指さして高らかに唱える。


「中央・大日大聖不動明王!! かの五大明王の聖炎をもてあらゆる凶事・悪心・天魔を調伏する!!!」


その瞬間、かりんの腕に炎が灯った。


「いまだ! かりん!」


【おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!】


蘆屋流鬼神使役法あしやりゅうきしんしえきほう天魔焼却てんましょうきゃく


かりんは炎の巨人に向かって飛んだ。そして、その手の平を巨人に向ける。


【いけえええええええええええ!!!!!】


その声とともに、紅蓮の炎がかりんの腕からほとばしり出た。


「バカが! 炎の化身と化した私に炎術など…!?」


その時、切人の体に信じられないことが起こった。炎の塊になったはずのその身が、かりんの炎で焼けていくのである。


「が!!! 馬鹿な!!! なんだこの炎は?!」


そんな切人に潤は声をかける。


「その炎は、ただの炎じゃない。五大明王の聖炎だ。

 たとえ、相手が炎の化身だろうが、それを燃やし尽くし灰に変える。

 そして、この炎は狙った敵以外を燃やすことはない」


確かにそうだった。天魔焼却の炎は他に燃え移る気配が全くなかった。


「まさか…」


切人の四肢が灰となって焼け落ちていく。


「この私が…」


さらに、聖炎は胴に燃え移り、それを灰に変えていく。


「こんな子供に…負けると言うのか…」


切人にとってその言葉が最後の言葉になった。


「子供じゃない…

 僕の名前は矢凪潤。蘆屋一族の陰陽法師・矢凪潤だ」


こうして、席番剥奪者ロストナンバーズ最後の一人は灰になった。

『王威の円環』奪還任務は成功を納めたのである。



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いずこかの闇の中、二人の男が対峙していた。


「王威の円環が…奪還されたと?」


「ああ…」


「そうですか…。まあ、ある程度予想の範囲ではありますが」


「それじゃあ…」


「次の作戦に移りましょう…」


「いいんだな?」


「無論ですよ。一度『あの組織』は壊さなければならないのです」


そう言って二人の男はのうちの一人は闇の奥に消えていく。


「ふん…。まあ、俺はとりあえず見守らせてもらおうか」


そう言って、もう一人の男、

乱月らんげつ』は闇の中でニヤリと不気味に笑った。



『第九話 潤VS切人 想いを繋げる力 了』

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