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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第八話 真名VSレスター 勝率ゼロ

「追いつかれてしまいましたか…」


レスター・サザーランドはそう言って後方から現れた真名を見た。


「『王威の円環』を、もしお前が持っているなら返してもらおうか?」


「いやだと言ったら?」


「痛い目を見てもらいことになる」


「フ…、それは怖いですね」


レスターはそう言って笑った。そして、懐から何かを取り出してくる。それを見て真名は油断なく身構えた。


「私は、攻撃魔法はそれほど得意ではないのでね」


そう言って懐から取り出したのは、ルーンが刻まれたナイフだった。


「さて…行きますよ?」


その瞬間、レスターの霊力が高まるのを真名は感じた。そして…


ザク…


「が!!」


真名は突然背中に熱いものを感じた。それは、ナイフが背中に突き刺さり肉をえぐる感覚であった。

レスターは一瞬で真名の目の前から消えていた。そして、真名の背後に現れるとナイフをその背中に突き刺したのである。


(瞬間…転移…?)


真名は慌ててレスターから離れる。

そして、すぐに静葉に、傷を塞ぐように命令を下す。静葉はその命令をすぐに実行。妖縛糸で傷を縫い付けた。


「まだですよ…」


再びレスターは転移する。そして、真名の背後に現れ…


ザク…


「ぐう!!!」


再び真名の背中にナイフを突き立てた。

真名はたまらず、その場に倒れ転がる。


「く…は…」


「フフフ…まだまだ行きますよ」


レスターは笑いながらナイフに付いた血をぬぐう。

真名は痛みに耐えながら立ち上がる。そして、印を結んで精神を集中した。

その瞬間、再びレスターが転移した。


ザク…


「があ!!!」


三度真名の背中にナイフが付き立てられた。


(あのナイフ…。やはりただのナイフではなかったか…)


レスターから離れながら真名は思った。

さっき真名が使用した呪は、刃による攻撃を無効化する防御呪であった。それが、あのナイフには効かなかったのである。


真名は懐から符を取り出して唱える。


「急々如律令!」


符が稲妻になってレスターに向かって飛翔する。しかし…


「ふ…」


レスターはもうすでにそこにはいなかった。再び真名の背後に転移したのである。

四度目のナイフが真名を襲った。


「がは…」


真名は血を吐いた。それを見て、可笑しそうに笑いながらレスターが言った。


「もうそろそろ、魔法発動のための集中も出来なくなるころじゃないですか?」


真名はその問いには答えない。


「まあいいです。こちらは、あなたが死ぬまで繰り返すだけです」


そう言った瞬間、レスターが真名の目の前から消える。そして…


「あぐ…」


五度目のナイフが真名を襲った。真名はたまらずその場に転がった。


「フフフ…。痛みに耐えるのも大変でしょう?

 もうそろそろとどめを刺して差し上げましょうか?」


「ぐ…う…」


真名はその場に転がったまま動かない。今なら、急所を的確に貫けるだろう。


「さあ…死になさい」


レスターは再び転移した。そして、真名の背後に現れナイフをふるった。それで終わり…


…のはずだった。

しかし、レスターのナイフが空を切った。


金剛拳こんごうけん


ズドン!


「がは!!!!!」


レスターの腹にすさまじい衝撃が走り、レスターを紙屑のように吹き飛ばした。


「フン…」


真名は何事もなかったかのように立ち上がる。


「ば…ばかな…」


レスターは呻きながら真名を見る。


「私にとって…この程度の痛みは日常だったんでな…。

 どうということはない…」


「く…」


レスターはなんとか立ち上がる。

そんなレスターに真名が話しかけえてくる。


「お前の攻撃は大体見切った…。

 今度はこちらから行くぞ」


そして、真名はレスターとの間合いを詰める。真名の拳が飛ぶ。


「く…」


レスターは間一髪で転移し、真名の背後に現れる。そして、ナイフを真名に付き立てようとした。

しかし、ナイフは再び空を切る。真名が、体をひねって、寸でのところでナイフを避けたのだ。


金剛拳こんごうけん


ズドン!


再び、レスターは激しい衝撃で吹き飛ばされた。


「安心しろ…私はお前を殺しはしない…

 おとなしく縛に着け…」


真名はそう言って、倒れたレスターに近づいていく。そのとき


「ククク…はははははは!!」


「?」


突然レスターが笑いだした。


「まさか、あなたが、これほどの使い手だとは思いませんでしたよ。

 ならば、仕方ありませんね…。私の切り札を出して差し上げましょう」


「切り札…だと?」


「そう…。私が世界魔法結社アカデミーで研究していた魔法。

 私が組織を抜けなければなくなった原因でもある魔法。

 『同一存在どういつそんざい』です!」


その瞬間、レスターの周りに6人のレスターが姿を現した。


「なに? 分身?」


「正確には分身ではありませんよ…。

 自分自身をそっくりそのまま増やす魔法です。

 すべて本物の私であり、すべてが同一の能力を有します」


レスターは立ち上がりながらそう言った。


「さあ行きなさい私たち…。

 あの小娘を殺せ!」


6人のレスターが一斉に襲い掛かってくる。


「く…」


真名はその攻撃を寸でのところで避けた。しかし…

6人のレスターのうち3人が、一瞬で真名の前から消える。


「瞬間転移?!!」


その瞬間、真名の体から血しぶきが飛んだ。3人のレスターが真名の周囲に転移してきて、ナイフをふるったのである。

さすがの真名も、それを避けきることが出来なかった。

そして、さらに3人のレスターが転移する。真名の体からさらに血しぶきが飛んだ。


「くあ!!」


真名はなんとかレスター達から離れようと飛んだ。


「フフフ…まだですよ…。

 まだまだこれからです…」


そういうと、初めのレスターの周りに、さらに6人のレスターが現れる。


「そして、これがこの『同一存在』という魔法の最も優れたところです」


そういうとレスターの中の一人が、真名に背を向けて走り去っていく。


「逃げるか!」


真名は叫んだ。そんな真名に12人のレスターが一斉に言う。


「ただ逃げたのではありません。

 この魔法は、生み出したすべてが私自身。

 そのうちの一人でも生き残れば、私はさらに私を増やせるし、私は絶対に死ぬことはない」


レスター達はにやりと笑うと、懐から何かを取り出した。


「そして、これは『範囲爆破の晶石』です」


「まさか!!」


レスターのうち2人が瞬間転移する。次の瞬間


ドカン!! ドカン!!


真名は突然の爆風で吹き飛ばされた。


(クソ! 自爆だと?!!)


そう、瞬間転移で飛んできた2人レスターが、爆破の晶石を起動、真名の近くで自爆したのである。


「ククク…。ナイフだと避けられる可能性がまだまだありますが…

 これなら避けきれないでしょう?」


そう言ったレスターのうちの2人がさらに瞬間転移する。


(まずい!)


真名は防御姿勢をとって横にとんだ。


ドカン!! ドカン!!


だが、完全にはよけきれなかった。再び爆風で吹き飛ばされる。


「がは…」


真名は血を吐きながら転がった。


「言っておきますが…ここにいる8人で終わりではありませんよ?

 ここから…私はさらに人を増やすことが出来ます」


「ぐ…なん…だと」


「すごいでしょう? 私の『同一存在』は…

 しかし、世界魔法結社アカデミーの連中は私を認めなかった」


そう言ってレスターは唇をかんだ。


魔法的な完全クローンともいうべき『同一存在』。

使い方次第で不死を得られるこの魔法を生み出したとき、レスターは喜び勇んでそれを発表した。

だが、その魔法を見せた時の、魔法使いたちの反応は思わしくなかった。

なぜなら、レスターはその魔法の発表の場で、自分を殺して見せたからである。

魔法使いたちは口々に言った。お前のその魔法は命を冒涜するものだと。

レスターは信じられなかった。「不死になれる」せっかくの魔法を、あってはならないものと断じる他の魔法使いの言葉を。

だからレスターは世界魔法結社アカデミーを抜けた。モノの価値を知らぬ魔法使いたちに愛想が尽きたから。


「さて…もうわかっていると思いますが。

 一人が別にいる以上。ここの私が全員倒されても、私は私の数を増やすことが出来ます。

 要するに、あなたの勝てる確率はゼロになったということですよ」


「く…」


真名は考えた。本当に勝てる確率はゼロなのか? …と。


「さあ行きますよ!」


レスター達はそう叫ぶと一斉に動き出す。二人は爆破の晶石、残りはナイフを手にしている。

ナイフを手にしたうちの3人が転移した。


再び真名の体から血しぶきが飛ぶ。真名はそれを我慢して拳をふるった。


金剛拳連打こんごうけんれんだ


ズドドドン!


ナイフをふるったレスター3人が吹き飛ぶ。しかし…


「ほら…まだですよ」


さらにナイフを持った3人が転移する。真名の血しぶきが飛んだ。


「く!!!」


それも何とか我慢して拳をふるう。


金剛拳連打こんごうけんれんだ


ズドドドン!


さらに3人のレスターが吹き飛んだ。


「フフフ…。まだまだ戦えるみたいですね」


そう言って残り2人のレスターが笑う。さらに6人のレスターが現れた。

そうして、すでにレスターは18人まで増えていた。


「どうです? まだまだ私は増えますよ?

 もうあなたに勝ち目なんてありませんよ?」


そう言いながら、新たに現れた6人が爆破の晶石を手にして転移する。


ドカン!! ドカン!!


「あああ!!」


ドカン!! ドカン!!


「くああ!!!」


ドカン!! ドカン!!


「が!!!」


真名の周囲で次々に自爆した。真名は爆風を受けて木の葉のように宙を舞った。


「がは…」


それでも真名は息があった。レスターはそれを見て笑った。


「いやあ…あなた本当にタフですね…。

 でも、もうあきらめた方がいいのではないですか?

 もうどう足掻いても無駄な努力ですよ?」


…と、その時、真名の体がピクリと反応した。


「おや? まだやるのですか?

 もはや勝率ゼロなのに…」


「…だったら」


「だったら?」


「だったら…貴様に見せてやる。

 不死を超える蘆屋の極意を」


真名はそう宣言した。


「ほほう…面白いですね…。

 いったい何を見せてくれるというのです?」


レスターの周りに、さらに6人のレスターが現れる。今度は手にナイフを持っている。


「行きなさい!」


その6人のレスターと、もともといた6人のナイフを持ったレスターが一斉に動く。

そして、真名の周囲に殺到した。


金剛拳連打こんごうけんれんだ


ズドドドドドドン!


12人のレスターが綺麗に吹き飛ぶ。


「お前の動きは見切っているといったろう?

 いくら、人数を増やそうと、お前がお前である限り同じだ!」


「ならば…こっちはどうです?」


今度は爆破の晶石を持っているレスターが6人動く。


「もう同じ攻撃は食らわん!!」


転移してきた先には、もう真名はいなかった。


ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!


六つの爆発だけが無駄に響く。


「ちっ…なかなかやるじゃないですか。

 だが、いつまでその動きが続きますか?」


確かに、その通りだと真名は思った。

敵の自爆攻撃は、スピードを極限まで高めて、回避に専念すれば避けられる。しかし、そんなことはいつまでも続けていられない。

レスターを倒さない限りどうしようもないのである。


「さあもう一度行きなさい!」


再びナイフを持った12人が動く。真名の周囲に殺到する。


妖縛糸ようばくし


ナイフを持った12人の体に蜘蛛糸が絡みついていく。

そして…


「ノウマクサマンダバザラダンカン…」


蘆屋流鬼神使役法あしやりゅうきしんしえきほう妖縛糸不動羂索ようばくしふどうけんじゃく


その12人は身動きをとることも、瞬間転移することも出来なくなった。


「フフフ…無駄だというのに」


そういうレスターの周りに6人のレスターが新たに追加される。


「フン…無駄ではないさ…」


真名はそう言って、身動きの取れなくなったレスターの頭に触れて、その髪の毛を抜いた。


「…何を?」


「フフ…これは、こうするんだよ!」


レスターの髪の毛を指にからめると、印を結んで呪文を唱えた。


「ナウマクサマンダバザラダンセンダマカロシャダソワタヤウンタラタカンマン…」


次の瞬間、その場にいたすべてのレスターの動きが止まった。


「ぐ…が…なに?」


「貴様の髪の毛を触媒にして、貴様全員に縛呪をかけた。もうその身体は動かんぞ…」


「ふ…そんなことをしても無駄ですよ…。

 まだ私が一人逃げているではありませんか」


「私は今貴様全員と言ったはずだが?

 今私が使った呪は、一人の人間を起点に、その家族、その子孫まで呪をかける術の応用だ。

 今回は、貴様自身のみ呪が連鎖起動するように設定してある。

 だから、それが貴様自身である限り、どこにいようと呪は効果を表すのだ」


「まさか…そんな…」


真名の言うことは間違いではなかった。初めに逃げた1人を含めて、すべてのレスターが動きを完全に止めていた。


「ならば…」


レスターは再び自分を追加しようとする。しかし…


「ぐが…」


追加された自分もまた縛呪にかかっていた。


「これで分かったろう? もう逃げようとしても無駄だ」


「く…そんな、バカな…」


「あとは、じっくり処理させてもらうぞ…」


そう言って真名はにやりと笑った。



『第八話 真名VSレスター 勝率ゼロ 了』

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