第六話 席番剥奪者(ロストナンバーズ) その2
中国自動車道・加西サービスエリア
「すみません姫様…お手数かけまして」
真名たちが到着したとき、加藤がそういって出迎えた。
「…でどういった状況なんだ?」
「はい…」
加藤は話し始めた。
関西国際空港を出て二時間ほどたったとき。加藤たちは休憩のために加西サービスエリアによった。
そして、加藤がトイレにいている間、徳田が呪物を見ていたのだが。
その時、空から巨大なコウモリが襲い掛かってきたのだという。
徳田は、その巨大コウモリと戦ったが、腕を裂かれて吹き飛ばされ。
その間に呪物が奪われてしまったのである。
「ケガは大丈夫なのか?」
「ええ、これでも徳田は鬼族ですから。このぐらいのケガは平気です」
二人の会話に咲夜が割り込んでくる。
「それで…。呪物を奪った者は?」
「はい…南東に向かって飛び去りました」
「空港のある方角ですわね」
「そうです…」
それを聞くと真名が、ケガをした徳田の方に歩いていく。
「徳田…傷に残った『縁』を使わせてもらうぞ」
真名は印を結んで精神を集中した。
今、真名がやっているのは、『敵から傷を受けた』という縁を利用することによって、その縁の相手である『敵』を追跡する呪である。
真名はすぐに顔を上げる。
「…なるほど。大体の位置はつかめた」
「それで、今どこに?」
「北…。すなわち深山の方角にいて、北に向かってゆっくり進んでいるようだ」
「南東ではありませんわね…」
「おそらく。追跡を巻くために、逃走経路とは違う方向に飛び去ったのだろう」
「ならば、すぐに追いかければ追いつけますわね」
咲夜はそう言って近くの潤と頷き合った。
真名は加藤の方に向き直って言った。
「加藤…徳田のこと頼んだぞ」
「はい、姫様行ってらっしゃいませ」
そういうが早いか真名たちは、加藤たちを置いて北に向かって走り出した。
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兵庫県深山の中腹。
「もう…なんでこんなところを行かなければならないんデスか?」
金髪碧眼の少女『シルヴィア・ブラッドフィールド』がそうぼやいた。
「追っ手をまくためだ。仕方ないでしょう?」
「当然だ…。面倒ごとは少ない方がいい」
シルヴィアのぼやきに、男二人が答える。
始めに答えたメガネの男は『レスター・サザーランド』。
次に答えた日本人の男は『釼谷切人』といった。
この三人は昔からの知り合いであった。
「そんなの…
追っ手なんて殺してしまえばいいではありマセンか。
さっきも、二人ほどいい獲物が居たのに…」
そういってシルヴィアは頬を膨らませる。
切人はそんなシルヴィアにあきれ顔で言った。
「日本の妖怪や呪術師をなめない方がいいぞ…
いくらお前が真祖の吸血鬼だといっても、
日本に来るのは初めてだろう?」
「…それこそ、ワタシをなめすぎよ切人。
日本人の呪術師なら100年ほど前に戦ったことがアルわ」
そういってシルヴィアはフフフと笑った。
確かにシルヴィアは優秀な魔術師にして吸血鬼である。
しかし、本当の年齢とは違い、とても子供っぽく遊び好きな性格をしていた。
『王威の円環』を奪ったときも、事前に口を酸っぱくして言い聞かせておかなければ、余計な大騒ぎを引き起こしていたであろうことは目に見えていた。
その時、不意にレスターが二人の会話を遮った。
「二人とも静かに…」
「どうした?」
「どうやら、見つかってしまったようですよ」
「誰に?」とは言わない。すぐに警戒態勢に入る三人。
「南東に逃げたと思わせたはずだが。
相手に優秀な術者がいるようだな…」
おそらく、何らかの探知呪を使ったのだろうと推測する切人。
…と、その時三人が進んできた方角の木がガサガサと揺れた。
そして、木の上から何者かが三人降りてきたのである。
切人は、それが追っ手であろうと確信した。
「……」
「お前たちか…。こちらの荷物を盗んだ者は…」
「何のことだ?」
追っ手の一人、黒ずくめの女のその言葉に、切人はとりあえずとぼけてみる。
「隠しても無駄だ。こちらは、こちらの者についている傷からお前たちを追って来た。
こちらの者を襲ったのは、そっちにいる女だ…」
「ちっ…」
切人は舌打ちする。
やはりシルヴィアより自分が盗みに行った方がよかったか。
そう考えていると…
「あ、あなたたちはもしかして…」
追っ手のうちの一人である巫女服の女がこちらを指さして言った。
「知ってるのか? 咲夜」
「知ってるも何も…この者たちは世界魔法結社に指名手配されている者たちですわ…」
「ほう…」そう言ってレスターが巫女服の女を見る。
どうやら追っ手には世界魔法結社の関係者がいたらしい。
ますます厄介なことになったと切人は思った。
「なるほど、貴様らが世界魔法結社から追放された魔法犯罪者。
席番剥奪者か…」
黒ずくめの女がそう言った。すると…
「追放されたのではありません。我々は望んで世界魔法結社を出たのです」
レスターがそう答える。
『席番剥奪者』
『世界魔法結社』に所属する魔法使いは、必ず『席番』と呼ばれるナンバーが与えられる。これは、正しい魔法使いである証であり、もし持っているものが何らかの犯罪行為を行うと、当然のごとく剥奪されてしまう。そうして、席番を剥奪されるほどのことをしたものは、たいていの場合、その力を封印されて追放されるか、犯した罪に合わせて処刑されることになる。しかし、そういった連中の中には、持っている力に任せて世界魔法結社から逃れ、裏社会にのさばる者たちがいた。
それこそ『席番剥奪者』と呼ばれる魔法犯罪者たちであった。
その時、事の成り行きを見ていたシルヴィアが声を上げる。
「ネエ、そんなことどうでもイイデショう?
こいつらの相手、私にさせてクレない?」
「…一人で相手するつもりか?」
「大丈夫ヨ。こいつらそんなに強くなさそうダシ。
あなたたちは早く先に進んだ方がいいでしょ?」
その言葉に切人は少し考えて。
「…わかった。もう一度行っておくが、くれぐれも油断するなよ?」
「はいはいわかっテルよ」
そう言ってシルヴィアは切人に手を振る。切人は「わかっていないな」と感じた。
(まあいい…。シルヴィアは真祖の吸血鬼だ。よほどの相手でない限りやられはしないだろう)
そう考えた切人は、レスターと目くばせする。
二人で北に向かって駆け出した。
「逃げるか?!」
そう後ろの方から声が聞こえるが気にしない。
追っ手の三人はシルヴィアによって阻まれ、二人を追うことが出来なかった。
「さて…。貴方たち…
はじめまショウか?」
シルヴィアは深紅の目を輝かせながら、追っ手の三人に不気味な笑顔を向けた。
こうして、長い戦いの夜は幕を開けた。




