第六話 席番剥奪者(ロストナンバーズ) その1
「王威の円環ですか…」
大阪府・関西国際空港。午後5時。
空港から出て車で10分ほどたったとき、徳田が運転手の加藤にそう言った。
「ああ、イギリスのなんとかっていう犯罪組織に奪われていた日本の呪物だ」
「それが、今回日本に里帰りというわけですね」
「ああそういうことだ」
徳田は缶コーヒーを飲みながら後ろの座席においてある箱を見た。
「しかし、よく世界魔法結社に横取りされませんでしたね」
「まあ、奴らは世界の魔法界の警察を自任してるからな。
今回も首を突っ込んで来る可能性は高かったろうな」
「ならばなんで?」
「どうも、土御門からの働きかけがあったらしい…」
「なるほど…。土御門は今では世界魔法結社でも重要な位置にいるんでしたね」
「ふむ、同盟様様ってやつだな…」
二人を乗せた自動車は阪神高速を抜けて中国自動車道を目指す。その時、ふと徳田が口を開く。
「あれ?」
「どうした?」
「今、空に黒いものが飛んでたような…」
「なんだよそれ…」
「いや…気のせいかな?」
徳田はそう言って窓から空を見た。それを聞いた加藤も窓から空を見てみた。
そこには夕焼け空が広がっているだけだった。
「気のせいだな…」
「そうですかね…」
そういってその話は打ち切った二人だったが…
それが気のせいではなかったことを、これから2時間後に知ることになる。
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同日兵庫県姫路市某所。
「本当にそれでよかったのですか?」
咲夜は潤にそう言った。
「真名との勝負に巻き込んだお詫びなんですから、
もっと高いものでもよかったのですが?」
「いえ、これでいいですよ。おいしいです『ちゃんぽん焼き』」
ちゃんぽん焼きとは、兵庫県姫路市周辺で食べられている麺料理で、焼きそばと焼きうどんを合わせたものである。
太さとコシの異なるうどんと中華麺の2種の麺に甘辛ソースを絡め、具材はキャベツ、モヤシなどの野菜に豚肉やすじ肉などをミックスし鉄板で焼く。
「そうですか? それならよろしいのですが。
後、そちらの方は…」
咲夜はちゃんぽん焼きを食べる潤を、物珍しそうに見る『幽霊』を指さした。
「ああ、すみません。この子は『かりん』って言って、僕が世話してる子なんです。
いつも、道摩府に閉じこもりっきりだから、こういった機会に外に連れて行ってあげようかと…」
「そうなんですか…」
咲夜はそう言って苦笑いした。一見幽霊に見えるが、妖力を発しているあたり妖魔族の子供なのかも知れないと咲夜は思った。
「…おかわりを頼む」
「そちらのあなたは、何勝手におかわりしてるんですの?」
「うん?」
咲夜は潤の隣で黙々と食べている真名をジト目で見た。
「ダメなのか?」
「ダメとは言っておりませんが…」
「じゃあいいんだな…」
そういって真名はおかわりを頼んだ。なお彼女のちゃんぽん焼きは肉抜きである。
「ごちそうさまでした…」
潤と真名がそういって食べ終わったころには、時計は午後7時を回っていた。
「おいしかったですか?」
「はい! ありがとうございました!」
「それは良かったですわ」
潤の言葉を聞いて咲夜はにこりと笑った。
「別にこいつに礼などいらんぞ…。
迷惑かけたのはこいつだからな」
真名はそう言って咲夜を指さした。
「別に、あなたから礼をもらおうなんて思っておりませんわよ」
そういって咲夜は横を向いた。
ふと、その時…
ピリリリリ…
真名の携帯電話が鳴った。
「はい、真名です。父上?
…はい…はい。それは!!」
真名の驚いた声に、潤は心配そうに声をかける。
「どうしたんですか?」
真名はそれには答えず…
「わかりました…。すぐに現場に向かいます」
ピ…
携帯電話を切った。
「すまんが…急な任務が入った」
「任務ですか?」
「海外で回収した呪物を輸送中の護送班が、中国自動車道で何者かに襲われたらしい」
「え?!」
「護送班の二人はなんとか無事だが。護送中の呪物が奪われてしまったらしい。
我々は今からそれを取り戻しに行く」
真剣な表情の真名に咲夜は聞く。
「奪った者はどのような?」
「巨大なコウモリだそうだ…」
「それは…」
咲夜は何か嫌な予感がした。
「わかりましたわ。わたくしも一緒に行きましょう」
「…任務についてくる気か?」
「ええ、ご迷惑でなければ…」
「…確かに、お前が来てくれた方が助かるか…」
真名はそう言って潤の方を振り向く。
「潤…。とりあえず。そのかりんはここに置いていく」
「はい…危険ですからね…」
「道摩府の者を呼んでおくからかりんのことは心配するな」
「わかりました」
潤はそう言ってかりんの方を向いた。かりんは心配そうな表情で潤を見ている。
「かりん。ここでおとなしく待ってるんだよ」
かりんは必死に首を左右に振る。
「だめだよ。連れていけないんだ…。
ごめんね…」
潤のその言葉にかりんはおずおずと首を縦に振った。
それを見た潤は、真名たちの方に振り向いて言った。
「それじゃあ…行きましょう」
こうして、突然の任務が開始された。
これから起こる戦いが、潤にとって大きな試練になるとは、このときの潤は気づいていなかった。




