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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第五話 土御門咲夜 その2

道摩府・鎮守の森。


そこに二つの影があった。

その影の一人は土御門咲夜。もう一人は矢凪潤である。

二人は向かい合って立ち会話をしていた。


「あの…こんな夜中に何をしようっていうんです?」


「はい…それはすぐにお分かりになれますよ」


咲夜はそういうと印を結んで呪文を唱えた。


「オンバザラタラマキリクソワカ…」


その瞬間、咲夜の目の前に光が現れる。咲夜はその光に手を入れると、何かを引き出してくる。

それは、真新しい鎧兜一式であった。


「とりあえず。これを身に着けてください」


「これをですか?」


「ええ…」


潤は半信半疑でそれを身に着け始める。


「…なんですか? これは…」


「これは、わたくしが制作した、『人の潜在能力を極限まで引き出す』鎧でございます」


「え? 貴方が作ったんですか?」


「ええ、わたくしは呪具職人アイテムクリエイターですから」


咲夜は無表情でそう言う。


「…最も、その道も、完全に望んで進んだ道ではございませんが」


「え? それは、どういうことです?」


「わたくしは、呪術師としての才能が足りなかったのです。

 だから、こちらの道に進んだ。

 最も、今では呪具職人こそ私の天職だと考えておりますが」


「そうなんですか…」


「昔は、よく宗家の血筋のくせに才能がないと、周囲のものに陰口をたたかれたものですわ」 


「…大変だったんですね」


「ええ…。そして、わたくしより大変だったのが真名ですわ」


「え?」


潤はその言葉を聞いて驚いた。真名も呪術師としての才能がなかったというのか?


「…真名は、『欠落症けつらくしょう』だったのです」


「けつらくしょう?」


「それは、人としての魂を形作る霊質、その形を支える『枠』に生まれつき欠損があって、霊力が生まれたそばから排出されてしまう病気です。

 この病気のものは、常に体内の霊力が枯れた状態になり、肉体を支える力が圧倒的に弱くなる。

 そして、最悪の場合、15歳を数える前に死亡する…」


「そ、そんな…」


「真名は子供のころは寝たきり状態でした。当然、呪術師になるなど絶対無理と言われていましたわ」


「……」


「それが今呪術師になっているのは、ひとえに死にもの狂いの修業があったからです。

 決して才能があったからではありませんわ」


「…咲夜さん、あなたは…」


「真名さんのことを…」そう言おうとした時だった。咲夜が潤を見ていった。


「どうやら着け終わったようですわね…」


「え? は、はい…」


「ならば…」


咲夜は潤が鎧をつけたのを確認すると、鎧に触れてその機能をオンにする。


「さあ、始めましょうか。今回の勝負を!」


咲夜は誰もいない虚空に向かって叫ぶ。もはや潤を見ていなかった。


「咲夜さ…」


潤は言葉をつづけられなかった。いきなり体の奥から巨大な何かがあふれてくる感じがしたのである。


「う…ぐ…」


「さあ、潤様。今宵は楽しく舞を踊りましょう…」


そういって咲夜はニヤリと笑みを浮かべた。



-----------------------------



「…間に合え!」


真名は今全力で鎮守の森を駆けていた。咲夜からの手紙を見たからである。

その内容はこうだった。


『潤様とともに修行場で待ちます。なるべく急いできてくださいませ』


咲夜だけが待つという内容なら、彼女は無視しただろう。だが…


「まさか。潤を巻き込むつもりか!!」


それは、真名にとって最悪の事態であった。

ふと、前方に光が見えた。


「あれは?!」


真名はその光に向けて全力で駆けた。そして…


「お待ちしておりました。真名さん」


そこに咲夜と潤は待っていた。

潤は何やら真新しい鎧を身に着け、霊力の光に包まれている。

真名はすぐに咲夜に食って掛かる。


「貴様! 潤に何をしている!」


「フフフ…。潤様の願いを叶えようとしているだけですよ」


「なんだと?」


「潤様は一人で何でもできるほど強くなりたいと仰りました。

 だからこうして、潤様の潜在能力を全開放して差し上げてるんです」


「!!! 貴様! いきなりそんなことをすればどうなるか!」


「そうですね。潜在能力を制御する技術が足りずに暴走します」


「そこまで知っていて…ワザとか貴様!」


「フフフ…そうだよ」


「!」


その時突然咲夜の口調が変わった。


「本当は、こいつを今回の勝負に巻き込むかどうか、ちょっと迷ってたんだが。

 面白いことを言ったんでな…やっぱ巻き込むことにしたよ」


「面白いこと?」


「こいつ、恐ろしい才能を持つくせに、才能がないみたいなことをほざきやがったんでな」


「貴様…まだそんなことを!」


「気にするさ…。昔からどれだけ、そのことでいじめられたか…。

 お前だってあたし以上に知ってるだろうが!」


「そんな…昔のことを気にしても仕方あるまい?」


「あたしは気にするんだよ!」


そういって咲夜は邪悪な笑みを浮かべる。そして…


「さあ潤!!! 死の舞を舞い踊れ!!!!」


「ああああ!!!!!」


突然、鎧兜を着た潤が大きく呻きだした。真名は慌てて潤に近づきその肩に手を置く。


「潤大丈夫か? しっかりしろ!」


「ああああ!!!!!!」


パシ!


潤は肩に置かれた手を払いのける。そんな潤に咲夜が語り掛ける。


「そら! 潤、目の前を見ろ!

 目の前の女がお前を苦しめているぞ!!!」


「あああ!!!」


潤は完全に正気を失っていた。だからその言葉に反応してしまう。

潤の拳が真名に飛んだ。


「く!!!」


真名はそれを間一髪で避けた。


「咲夜! 貴様!」


「ははは!!! 真名、そいつを止めるなら急いだ方がいいぞ?

 その鎧は、装備者の霊力が足りなくなると、生命力まで吸い上げて使用する仕組みになってる。

 そいつの霊力の容量と、暴走による急激な霊力消費を考えて計算すると、約10分で死亡といったところか?」


「く…!」


「それを止めるには、身に着けてる鎧を破壊するか、込められている呪を破壊するしかない」


それを聞いた真名の判断は早かった。懐から禁術符を取り出したのである。


「急々如律令!」


次の瞬間、鎧からガシャンとガラスの割れるような音がした。


「やったか?」


だが、しかし、潤は止まらなかった。潤は全身から霊力を放出しながら真名に殴りかかってくる。

真名はそれを食らってしまった。


ドン!!


真名は激しい衝撃とともに吹き飛ばされていた。それは、今までの潤では考えられない力であった。

真名はなんとか立ち上がる。そこに、潤が呻き声を上げながら歩いてきた。


「く…? どうして?」


真名は鎧を”霊視”てみた。すると…


(バカな…。呪式が再生している?)


そう、さっき禁術符で破壊したはずの呪式が復活していたのである。


「く…、ならば」


鎧を破壊するしか…そう思った時だった。どこからか咲夜の声が響いてきた。


「言っとくが。なるべく鎧を攻撃しない方がいいぞ。その鎧には防御呪式も組み込まれている。

 その防御呪式は、攻撃を受けるとそれに応じてエネルギーを装備者から取り出して自身を防御する。

 要するに、攻撃すればするほど、潤の死までの時間が短くなるということだ。

 そして、その呪式も『自動再生』付きだ」


「自動再生だと?」


「そう…私が海外で研究していた技術だ。

 精霊石というものに物理的に呪を刻み付け、それを呪具に組み込むことによって、呪式に再生力を与えている。

 その再生速度はコンマ1秒以下。普通の術者では対応できない速度だ」


それを聞いた真名はもう一度鎧を”霊視”た。


(あれか!)


鎧の胴の中心。ちょうど背中のところに、周囲の呪式に霊力の枝を伸ばしている霊力の異常に濃いところがある。


「それならば、それを破壊すれば…」


「言ったろ? 防御呪があると…。精霊石を破壊するには防御呪を破壊せねばならん。

 だが、その防御呪は精霊石の力ですぐに再生する。まさに詰みというやつだな?」


果たして本当に詰みなのだろうか?

真名は潤を救うために必死に考えた。そして…


「ならば…もう、あれしかないか…」


「真名? 何をしようというんだ?

 もう何をしても『無駄な努力』だぞ?」


「!」


『無駄な努力』その言葉を聞いた時だった。真名の心は過去に飛んでいた。

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