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呪法奇伝  作者: 武無由乃
第一章 蘆屋の呪術師
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第五話 土御門咲夜 その1

「お久しゅうございます、道禅法師様…」


その女性はそう言って頭を下げた。年のころは20代半ばに見えるだろうか。


「ああ、ほんとにな、確か二年ぶりか?」


「ええ。仕事で海外に出ておりましたので。

 本当はもっと早く帰ってこれるはずだったのですが…」


「まあ、仕方ないさ。咲夜ちゃんは新進気鋭の呪具職人アイテムクリエイターだからな」


「いえ、そんな…。そのような大層なものではございませんわ」


そういって女性は口に手を当てて微笑む。


その女性の名は、土御門咲夜つちみかどさくや。かの土御門永昌の娘である。

長い黒髪を後ろで束ね、巫女服を身に着けている。


「それで…今回も真名に会っていくんだな?」


そういって道禅は悪戯を思いついた子供のように笑う。


「ええ…そうさせてもらう予定ですけど。

 …真名さんはどこに?」


「ああ、君が来ているというのに、出迎えもせず弟子の修業に付いてるんだよ」


「弟子…ですか…」


「ああ、なかなか見どころのある少年だぞ…」


「ふむ…それは楽しみですわ」


「はははは…」


「フフフフ…」


二人は、そういって、何やら企む悪代官とその部下のように笑いあった。



-----------------------------



道摩府・鎮守の森。


潤が真名のもとで修行を初めて早1年と9か月。潤は悩みを抱えていた。

それは、此処に入ってやってきた伸び悩みである。

といっても、もともと習得スピードが速かったのが、普通の速度になった程度なのだが。

当の潤にとっては大きな悩みであった。


そして最近、潤はいくつかの任務をこなし、分かったことがあった。

それは、自分はまだシロウがいないと、やっていけないということである。


(もっと強く…。一人で何でもできるぐらいに強くなりたい…)


それは、他人に迷惑をかけたくない、という彼の強い願いからくるものであった。


「そこまで!

 今日の修業はここまでにしようか?」


「いえ…真名さん。僕はまだいけます」


「潤、休みを取るのも大事な修行のうちだぞ…」


「でも…」


そういって潤はうつむく。潤は一刻も早く、他人に迷惑をかけないほど強くなりたかった。


「…なにか。最近焦っていないか?

 焦っても強くはなれんぞ?」


「はい…」


そういって潤は唇をかんだ。


「修行…ごくろうさまですわね?」


その時、潤たちにそう声をかける者がいた


「…咲夜」


「お久しぶり真名さん…

 こんなところにいらしたんですね」


「……」


「せっかく道摩府に来たのですから。会いたいと思って…。

 お邪魔でしたかしら?」


「いや…。今修行を終えたところだ…」


「そうですかそれは良かった」


そういってコロコロと笑う。

潤は真名に聞いた。


「あの…この人はいったい?」


「…ああ、彼女はこの間会った永昌様のご息女で、土御門咲夜という」


「土御門…咲夜…」


咲夜は、たった今気づいたかのように潤の方を振り向いて言った。


「あら? もしかしてそちらが真名さんのお弟子さんの、矢凪潤様ですか?」


「ど、どうも…矢凪潤です…」


「初めまして…矢凪潤様。わたくしは土御門咲夜と申します。

 お話は道禅法師様から聞いております。

 なかなか優秀なお弟子さんとか…」


「そ、そんな…。真名さんに比べたら、僕なんてまだまだで…」


「…ご謙遜を。なかなかの才能を御持ちとか聞いております」


そういって咲夜はニコリと笑う。

そのとき、真名が話に割り込んできた。


「悪いが…今から、道摩府まで走り込むんだ。

 話しはこれまでにしてもらおうか?」


「あら…そうですか…。それは仕方がないですわね」


「それと…」


「何か?」


「今のお前…。なんか気持ち悪いぞ…」


「……」


真名はそう言って咲夜をジト目で見る。その言葉に潤が反応した。


「真名さん? いきなり何言うんですか?

 失礼じゃないですか」


「…いえ。いいのですわ。どうやら今日の真名は虫の居所が悪かったようです。

 まだしばらく、道摩府に滞在いたしますので、また日を改めますわ…」


「…どうも、すみません」


「いえいえ…」


そういって咲夜はその場を去っていった。

すると真名が潤を見て。


「…お前」


「? なんですか真名さん」


「いや…なんでもない…」


そういって、鎮守の森を出るために歩き出した。潤は少し首をかしげると真名についていった。



-----------------------------



「こんばんは…少しよろしいですか?」


多くの人間が眠りについた深夜。蘆屋本部にある潤の寝所に誰かが訪ねてきた。


「んう? 誰ですか?」


「わたくしは咲夜ですわ。こんな夜更けに失礼いたします」


「え? 咲夜さん?」


潤は慌てて布団から飛び起きる。


「え? どうして? 咲夜さん」


「ええ、ちょっとあなたにお話があってきたのですわ」


潤は突然のことにどぎまぎした。襖を開けてみた。

そこに、浴衣を身に着けた咲夜がいた。


「どうも…潤様…」


「は…はい。何の御用なんでしょうか?」


潤はがちがちに固まりながらそう言った。


「少し気になったことがありまして」


「え? 気になったこと?」


「はい、実は私、先ほどの修業を隠れてみていたのですわ」


「う…」


潤は情けないところを見られたと思った。

咲夜は話を続ける。


「…潤様。貴方は何か焦っておられるご様子。

 何を焦っておられるのかお聞かせ願いますか?」


そういって咲夜は首を傾げた。潤はバツの悪い気持ちで…


「いや…それは…」


…それだけを答える。


「大丈夫ですわ。もし都合の悪いことがあるならわたくしは誰にも言いません」


「はあ…」


「話していただけません?」


咲夜はそう言って悲しげな顔をした。潤は何か自分が悪いことをしているように感じた。


「…いや、その、実は…」


「はい…」


そうして潤は咲夜に話した。

最近、何か自分の力が伸び悩んでるように感じること。

シロウに頼っている自分を変えて、一人で何でもできるくらい強くなりたいこと。

咲夜はそれらを静かに聞いていた。


「なるほど。そういうことですか…」


「はい…」


咲夜は目をつぶって何かを考えている。潤は咲夜の答えを静かに待った。


「潤様は少し勘違いしておられますわ」


「え?」


「伸び悩みの件は、先ほどの修業風景しか見ていない私には答えられませんが。

 御一人で強くなりたいというのは、はっきり言うことが出来ます」


そういって咲夜は真剣な表情で潤を見る。


「呪術師は使鬼を上手に扱えるようになって一人前です。

 それを、使鬼を使いたくないなどというのは本末転倒というものですわ」


「それは…そうかもしれませんが…」


「そもそも、『使鬼の目』という、すごい才能を御お持ちですのにもったいないことです」


「…それは」


「そもそも、一人で何でもしたいというのは無茶な話なのです」


「…でも」


潤はうつむきながら反論する。


「…でも。真名さんは一人でもとても強いように感じます」


「…真名様が?」


「もちろん僕もわかっています。

 蘆屋と土御門の才を受け継ぐ真名さんのようにはなれないということは。

 でも、僕はそれに少しでも近づきたい」


その時、潤は気づかなかった。咲夜の目がすっと細く鋭くなったことを。


「本当に…あなたは、勘違いをしていらっしゃるようですね…」


「え?」


「やはり…、今回はあなたに手伝っていただこうかしら…」


「どういうことです? 何を手伝うと…」


咲夜はそれに答えず、すっと立ち上がる。


「わかりましたわ。あなたの悩み、私が解決できるかもしれません」


「解決って…どうやって?」


「今からお時間ありますかしら?」


「今からですか? いったいどこに…」


「鎮守の森…。そこで、あなたの悩みを完全に解決して差し上げます」


咲夜はそういって細く笑みを浮かべた。

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