第三話 かりん その4
かりんは砂和の地の名もなき村で生まれ育った。
かりんは一見普通に見えた。だが、彼女は生まれつきある能力を持っていた。
それは火をともすこと。
彼女の両親は、彼女のことを神がくださった神の子だと考えた。しかし…
ある日、かりんは能力のことで、近所の子供たちにいじめられたことがあった。
その時つい使ってしまったのだ、火をつける能力を。
それ以来、近所の子供はかりんのことを化け物と呼んで近づかなくなった。
両親は彼女のことをあからさまに疎むようになった。
そうして、かりんは独りぼっちになった。
「おい! かりんだ! かりんが来たぞ!」
「げ…ほんとだ。逃げようぜ、燃やされるぞ」
「…まって! 私そんなことしないよ? 一緒に遊んでよ」
「やーだね! お前と遊ぶなってかーちゃんに言われてるからな!」
「逃げろ逃げろ! 化け物が来たぞ!!」
「私、化け物じゃないよ…。なんで…」
かりんはその場にうずくまって涙を流す。それが、かりんの日常だった。
そんな彼女を家の影から覗く者たちがいた。
「法師殿…本当にあの娘がそうなのですか?」
「ええ、間違いないですよ。彼女がいれば例の術は完成いたします」
「そうですか。ならば話は早い…」
二人の影のうち一人がかりんに近づいていって話しかけた。
「君はかりんという名なのかね?」
「え?」
かりんは突然話しかけられて驚いていた。
この村には、わざわざかりんと話をしようなどと思うものはいなかったからである。
「おじさんはだれ?」
かりんはおずおずとそう答える。
その男は努めて優し気に微笑むと言った。
「ああ、私は乾重延。
君の事を助けに来たんだよ」
「君を助けに来た」男は確かにそう言った。
かりんはなんのことだかよくわからなかった。
「君…。他の人にはない能力を持っているね?」
「あ…」
かりんは顔をひきつらせた。その能力は自分にとって忌むべきものだったからである。
「ああ…そんな顔をしなくてもいい。私は実は陰陽師でね」
「おんみょうじ?」
かりんは陰陽師を知らなかった。慌てて、男は言い変える。
「ようするにかりんと同じ力を持つ仲間なのだよ」
「仲間?」
かりんは驚いた。仲間などと呼ばれたのは初めてだった。
「もし、その能力で困っているなら。私が何とかしよう」
かりんは自分のこの忌むべき能力を何とかできるならしたかった。
だから、すぐに答えてしまった。
「おじさん! 私の能力を消してください!」
「ああ、そうかい? わかった。ではついておいで」
男はかりんの手をつかむと村はずれに向かって歩き出す。
「おじさん。本当に力を消してくれるの?」
かりんはもう一度男に聞いてみた。男は答える。
「ああ、任せてくれ大丈夫だよ」
男はかりんの手をつかんだまま速足で歩いていく。
かりんはそれに一所懸命ついていった。すると…
「連れてきたようですね重延殿…」
家の影から知らない男が現れた。
「おお、法師殿、早速儀式をとり行ってくれ」
「はい、それでは準備に入りましょうか」
かりんはその男から妙な気配を感じた。だから、重延に聞いてみた。
「あの、その人は?」
「この方は、君の能力を消してくれるありがたいお方だ」
重延はそう言ってにやりと笑う。嫌な予感がした。
「やっぱり私帰ります」
かりんはそう言って男たちから離れようとした。
しかし、重延はかりんを握った手を離さない。
重延はいやらしい顔で笑った。
「…ダメだよ? もう遅い」
突然重延がカリンを担ぎ上げる。かりんは悲鳴を上げようとした。しかし…
「急々如律令」
その言葉が聞こえたかと思うと。突然かりんの意識が遠のいた。
「お父さん…お母さん…」
それが、そのときかりんが発した最後の言葉になった。
こうしてかりんは村から姿を消した。そして二度と戻ってくることはなかった。
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かりんが意識を取り戻したとき、どこかわからない暗いところに寝かされていた。
「気が付いたかね?」
ふいに、どこからか男の声がする。それは、さっき『法師様』と呼ばれた男のものだった。
「?」
かりんは声のする方に向こうとした。しかし、体は何かに縛られているかのようにピクリとも動かない。
「動こうとしても無駄だよ。縛術をかけているからね」
かりんはなんのことかわからない。ただ両親のところに帰りたかった。
「お願い私を帰して!」
「フフ…ダメだよ。君は大切な呪の材料なんだから…」
ふと、どこからか重延の声がした。
「儀式はまだですか? 法師殿」
「ああ、もう始めますよ。
しかし、物好きですね。儀式を間近で見たいなんて」
そういって『法師』はふふふと笑う。
かりんは何が起こっているのか分からなかった。
ただ恐ろしいことが始まろうとしているという予感だけあった。
「では…」
『法師』の声が近づいてくる。寝ているかりんにもその姿が見えた。
「!!!!」
その手に小さな刃物を握っていた。かりんは嫌な予感がした。
そして、それは当たってしまった。
ずぶり…
「ああああああああああ!!!!!!!!」
突然かりんの右手のひらに恐ろしい痛みが走った。それは、刃物が手に食い込んでいく痛みだった。
『法師』はさらにもう一枚刃物を取り出す。そして、今度はかりんの左手に突き刺す。
ずぶり…
「ああああああああああああ!!!!!!!!」
そして、また一枚刃物を取り出し今度はかりんの右足に突き刺した。
ずぶり…
「ああああああああ!!!!!」
重延が『法師』に声をかける。
「この娘、儀式が終わる前に死んだりしないでしょうね…」
「大丈夫ですよ…。特別な呪の効果で意識と身体を維持しておりますから。
儀式が終わるまでこの子は
死ぬことも気絶することも出来ません…」
かりんはこの場から逃げたかった。だから、忌むべき力にすがった。
…が、しかし炎は出なかった。
「無駄ですよ? あなたの力は呪で封印してあります」
ずぶり…
「あああああああああああああ!!!!!」
『法師』はそう言って刃物をかりんの左足に突き刺した。
「フフフ…そうです。もっと悲鳴を上げてください。
もっと苦痛で悶え狂ってください。
その、悲鳴、苦痛…
それが呪の糧となるのです」
それから、かりんにとって地獄が始まった。
『法師』がさらに刃物を取り出し体のいたるところに突き刺し始めたのである。
五本…十本…十五本…
かりんは絶望的な痛みに悶え狂った。
「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
さらに1本刃物を突き刺す。
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
さらに1本刃物を突き刺す。
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
さらに1本刃物を突き刺す。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
さすがに気分が悪くなったのか重延が『法師』に話しかけてくる。
「それで、この儀式はいつまで続くのですか?」
「もうすぐ終わります」
「え? 本当ですか?
それで私にこの娘の力が宿るのですね?」
「そうです」
「じゃあ早くしてください!」
「わかりました…。それでは」
『法師』は最後の刃物を懐から取り出す。そして…
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
重延の胸に突き刺した。
「!!!!!」
重延は突然のことに言葉もなく倒れた。
「フフフ…これで、儀式は完了です」
「法師…様、なぜ…」
「そういえば言っていませんでしたか?
この儀式にはあなたの命も必要なのですよ…」
「が…は…」
「よかったではないですか。
これであなたは、憎き相手を祟り殺すことができますよ」
「法師…騙した…な」
「何も騙していませんよ?
初めから、私にとってあなたも『実験』の材料だっただけです」
「ら…乱道…ほぅ…し」
そして、重延はこと切れた。その瞬間
【ああああああああああああああ!!!!!!!!!!】
【アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!】
かりんと重延、両者の体から光が立ち上り一つになっていく。
その時になってやっとかりんは死ぬことが出来た。




