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呪法奇伝  作者: 武無由乃
序章
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第一話 闇に蠢くモノ達 その6

操が階段を転げ落ちるのを見たとき潤は彼女の名を叫んでいた。

潤は階段を急いで駆け下りると、二階の床に突っ伏していた操を抱き起こす。すると、操が胸にかけていたパワーストーンのペンダントにひびが入っていた。その代わりなのか、操はかすり傷しか付いていないようだった。

どうやらこのペンダントは、この考えの足りない主人の災いを身を挺して払ったようだ。潤は安堵のため息をつく。


だが、いつまでも安心してはいられない。潤は階段の踊り場のほうを”霊視”た。

そこにさっきの奴がいた。


それは、おそらく40代半ばと思われる男だった。

生気のない目をしており、口からは涎も混じった汚物を垂らしている。首には荒縄が巻かれておりその先は重力に逆らって天井の方に向かって伸びている。なにより、男は空中に浮かび上がり足を地面につけていなかった。あきらかにこの世ならざるものだった。


実のところ、潤には院長室に入った瞬間からこの男が見えていた。それを操に言わなかったのは、それが死の現場に残った死者の残滓だと思ったからだ。潤はそういった類のものを星の数ほど見てきたし。そのほぼすべてが死の映像が見えるだけの比較的無害なものだった。

これも、そうだと思ったが違ったようだ。操が三枚目の写真を撮ろうとしたとき、突如としてその腕が動いたのだ。

男を注意して霊視ていなかったら気づかなかった。ふいに男の傍らに手術メスが現れ、操にめがけて飛翔したのだ。それを、操を押し倒して守った潤だったが、まだ男は何かをしそうなそぶりだった。そのとおり、潤とともに逃げる操の背を踊り場で押して下階に転落させている。


潤は男に強い口調で語りかけた。


「あなたの眠りを覚ましてしまって申し訳ありません! 僕たちはもうこれで帰って二度ときません! どうか許してもらえないでしょうか!?」


その言葉が通じたのかどうかわからないが、男はうつろな目でなにやら小さくぶつぶつとしゃべりだした。

潤はさらに続ける。


「もし許してもらえるのなら、関係者に話して供養してもらえるように言います!」


その言葉を聴くと、男はゆっくりと空中を潤たちのほうに漂ってきた。潤は操を肩に抱くとなんとか立ち上がり、男を警戒しながらあとずさる。男と自分たちの距離が近くなり、シロウの唸り声がいっそう強くなる。


…と、その時、やっと男が何をつぶやいているのか聞き取れた。だがそれは、自分たちにとってよい事ではなかった。


【コロス…コロス…。ミンナシネ…。オレノビョウイン…コワスナ…。オレノビョウイン…】


そこには人間的な思考など欠片も残ってはいなかった。

潤はとっさに判断した。これは『怨霊』の類だと。

相手が『怨霊』では話しかけても何の効果もない。

そういったモノに許しをこうても、同情しても、気を持つだけで祟られるだけなのだ。


潤はすばやく足元のシロウに命令した。


「シロウ! 吼えろ!!」


潤に忠実な白柴・シロウはその命令をすばやく的確に実行に移した。


「ワン!! ワン!! ワン!! …」


誰もいない廃ビル全体にシロウの吼え声が満たされていく。男はその吼え声を聞くと、恐怖に引きつった顔であとずさった。


(今だ…!)


潤は操を肩に担いだまま急いで一階への階段に急いだ。シロウは主人を守るように、男と潤との間に陣取ってけたたましく吼え続けている。男は恨めしそうにシロウと潤たちとを、睨みつけているが、それ以上迫ってくる気配はない。


潤たちは急いで一階への階段を駆け下りる。そうして、一階にたどり着いた潤たちは、ただ何も考えず受付カウンターの横を通り過ぎ、玄関の扉をあけて廃ビルの外に躍り出た。どうやら、男はこのビルに自縛しているらしく、玄関の外までは追っては来なかった。


月明かりが潤たちを照らし出す…。シロウも吼えるのをやめ、周りに静寂が訪れた。


あれが、多分、かつてのビル解体工事を中止に追いやった原因なのだろう。あの男、おそらく『森部東病院・院長』は、廃院になった自分の病院を思うあまり、自縛霊となってこの病院にとどまっているのだ。

もはや、自分たちには何もできることはなかった。ただ、このことを一刻も早く忘れることが一番だった。


「……」


潤は黙って、気絶している操を見つめた。

明日になったら、念のため神社にでもお払いに行かなければならないだろう。

そして、操にここの調査はもうやめるよう言わなければならない。

なによりそれが一番の難問だと潤には思えた。



『第一話 闇に蠢くモノ達 了』

すみません武無由乃です。


とりあえず。呪法奇伝・第一話終了いたしました。

もっとも、今回は呪法奇伝の本題である「呪術」がまったく登場してきません。主人公(となる予定)の「矢凪潤」も霊感があるだけのただの一般人です。せめて、ホラー的な話に出来たらと思ったんですが、それほど怖くもないですね。 この話は、ただの登場人物の顔見せと思ってください。


次回は、呪法奇伝の中心となるある人物が登場する予定です。

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