第三話 かりん その3
潤が意識をとり戻したのはそれからすぐだった。
「うん? …僕は…」
「大丈夫か…? 潤…」
起き上がろうとした潤にそう声がかけられる。
「真名さん?」
潤は真名の声が聞こえる方に振り向いた。
「!!!!!」
そこに真名が立っていた。左腕から肩にかけて大きなやけどを負った姿で。
「真名さん!!!」
「うむ…」
そういって真名は笑った。
その時潤はやっと今の事態を思い出した。
「真名さん! もしかして僕をかばって?」
「ふ…。気にするな。『妖縛糸』で何とか防いだからな。
この程度の傷どうということはない…」
「真名さん…」
潤は後悔した。僕はまた誰かに庇われたのか…と。
「真名さんすみません…」
「謝る必要はない。それにその暇もない…」
真名はそう言って鬼女の怨霊をにらみつけた。
ふいに、怨霊の方から声が響く。
【やっと…やっとだ…。やっと封印を抜けだしたぞ!!!
この地に封じられて幾年月、この機会をどれだけ待ったことか!!
ははははははははは…!!!!!!!】
それは、姿に反して男の声だった。
【我が名は乾重延!!
よくも我をこの地に封じてくれたな!!
許さぬ!! 許さぬぞ!!!】
どうやら、この鬼女の怨霊は確かに乾重延公であるらしい。ならばなぜ…
「なんなのだ…その姿」
天藤家当主が驚愕した表情で言う。
それに構わず怨霊が告げる。
【さあ一成の子孫ども、わが炎を浴びて灰になって死ぬがよい!!!!!】
怨霊の腕に炎の渦が宿る。それは天藤家当主に向けられていた。
真名さんが飛んだ。
【火怨燐!】
【水克火】
『法則』が顕現する。
ドン!!!!
炎の渦が消滅し、凄まじい勢いで蒸気が立ち上った。
「そこまでだ重延公」
【ぬう? 小娘! 我の邪魔をするな!】
「そういうわけにはいかん…」
【邪魔をするならまず貴様から灰になってもらうぞ】
そういって怨霊は腕を真名に向ける。すぐに炎の渦が現れた。
【火怨燐!】
【水克火】
再び『法則』が顕現する。
ドン!!!!
再び炎の渦が消滅する。間髪入れずに真名が叫んだ。
「静葉!!!」
怨霊の周りに無数の蜘蛛糸が舞う。そして…
「ノウマクサマンダバザラダンカン…」
宙に舞っていた蜘蛛糸が一瞬炎をまとったように赤く輝く。
そして、次第に糸同士が絡まりあい、無数の縄に姿を変えた。
<蘆屋流鬼神使役法・妖縛糸不動羂索>
【ぬ?】
怨霊は一瞬動きを止めていた。この術は、かのフェニックスをとらえた、火行の属性を持つ化け物を封じる呪である。
しかし…
【こんなもの…】
「キリギリ」という音を立てて不動羂索が切れかけた。真名はすぐに印を結んで精神を集中する。
それで、なんとか呪が解けるのが止まった。
真名は冷や汗をかいた。
目の前の怨霊は確かに火行の属性を帯びていた。だから、土行の属性の不動縛呪なら完璧に縛れるはずであった。
しかし、怨霊は明らかに規格外であった。本来解けないハズの縛呪が解け始めてしまったのである。
だから、印を結んで呪を維持しなければならなかった。
(これは、まずいな…)
今、目の前の怨霊は封印から抜けたばかりである。まだ完全には力を取り戻していない。
今のうちに、なんとか再封印する方法を考えなければならない。真名は思考を巡らせ始めた。
(そういえば…)
真名は先ほどの潤のことを思い出した。
こちらが声をかけても全く動かない潤。それが意味するのは…
「潤!!」
真名は印を結んだまま潤に声をかける。
「はい!」
「おまえ…さっき何をみた?」
「え? それは…」
「いいから話せ…。お前はさっき何を”霊視”た?」
潤は一瞬ためらったが、さっき”霊視”たことを話し始める。
それは、怨霊に残った記憶の残滓だった。




