第三話 そして僕は その8
「ふん…」
王寺は焦り始めた心を落ち着けた。どうせ、こちらへの攻撃は絶対防御によって一切通用しない。焦る必要などないではないか。その時の王寺は、潤のことなど頭から飛んでいた。
王寺は再び符を懐から数枚取り出した。そして印を結んで「急々如律令」と唱える。符術は確かに起動して、王寺の周りに無数の炎の帯を生んだ。
「行け!!」
掛け声とともに炎の帯が真名に向かって飛翔する。真名は慌てず懐から再び砂の小瓶を取り出した。
【火生土】
再び法則が成立する。そして、真名を包む炎の帯は小瓶に吸い込まれていった。
(俺の力使いたければ使うがいいさ…だが…)
王寺は気づいていた。今真名が使っている法則は五行相生の理である。五行相克の理ではない。
五行相克を用い水行をもって火行を制せば、火呪を完全に無効化できるだろう。だが、五行相生を用いて火行を土行に変換するのでは、元の火行は老気(衰えた気)になるだけで、火呪を完全に無効に出来ないのである。当然、その分術者はダメージを追うことになる。
(どれだけ気をためても俺の絶対防御は貫けない…
しかし、こちらの攻撃はやつに通用する)
王寺はさらに符を取り出して炎の帯を生み出す。
それは、再び真名を襲い、わずかながらのダメージを与えていく。
それを数回繰り返しただろうか。ついに、真名がその場に膝を折った。
「…やあ、手こずらせてくれたねマナちゃん。とりあえず褒めてやるよ。
この俺にここまで食い下がったのは、はっきり言いてすごいぜ。
まさか、あの無才能の小娘がな…」
「…」
「でも、ここまでだぜ。おとなしく灰になりな…」
その言葉に答えず、真名はゆっくりと立ち上がる。そして…
呪を唱えた。
<蘆屋流五行術・土行土顎陣>
「無駄だって」
巨大な土のアギトが王寺に向かって飛翔する。王寺は笑いながらそれを受けた。三度的確に絶対防御が起動される。
「無駄だっていうのに。ほらね…ん?」
だが、今回はちょっと以前の呪とは違っていた。生まれたアギトが消えてなくならないのである。
「まさかこれは!!」
それは、以前の呪と効果が異なっていた。
土のアギトを用いて相手をその場で縛りあげる、持続ダメージ型の攻性縛呪だったのである。
「…確かに、この術なら俺はこの場から動けなくなるね。でも、それからどうするの?
この術でも俺の絶対防御は貫けないよ?」
確かにその通りである。王寺の絶対防御の前では、攻性縛呪もただの縛呪に過ぎない。しばらくすれば解けてしまう。
「これは基礎。これからが重要なのだ」
真名はそういうとジャンパーを開けて見せた。
「?!」
そこには、何やら様々なものが縫い付けられていた。
(それは…呪物?)
王寺の疑問をよそに、真名は縫い付けられているいくつかを取り出すと、縛されている王寺の周囲にまき始めた。
そして…
<蘆屋流布陣法・火旺陣>
印を結んで陣を起動した。その瞬間、王寺を中心に特殊地形効果が発動する。
「なんだ? 何をしたお前…」
真名は静かにその問いに答える。
「今私が起動したのは火旺の陣。すなわち、その土地の気の属性を火行へと傾けさせる陣だ。
すなわち今、この土地は多くの火行の気で満たされているということになる。
それがどういうことかわかるか?」
それはすなわち、今現在自分を縛っている土行の攻性縛呪が強化されるということで。
「…無駄だっていうのに。どんなに、呪が強化されても俺の絶対防御は無敵だ」
真名はその答えに笑みで返すと。
「そうでもないぞ…ほら」
そういって王寺を指さす。その時、王寺はふらりと妙な疲労感に襲われた。
その様子を感じ取った真名はさらに言葉をつづける。
「お前の絶対防御。どこから力を引いているのか気になっていた。
あらゆる攻撃を無効化するんだ。お前個人の霊力では維持できるはずがなかった。
その答えが、”土地の霊力”だ。
お前の絶対防御は、受けたダメージに合わせて土地からエネルギーを持ってきて起動していたのだ。
これなら、受けられるダメージの上限を無限にもできる」
まさか、自分の絶対防御の秘密が読まれたのか?
王寺は真名の言葉に絶句する。
「でもそれは…一つの危険を伴う。
土地の霊力が枯れていると、結界呪は足りない霊力を他から取り入れようとする。
すなわち、霊力の塊である生物。要するにお前自信だ」
それではまさか、さっきから感じている疲労感は…
「さっき、土地の霊力が火行に傾いているといったな?
そして、お前を縛っているのは土行の術」
「あ…」
「土地に満たされた火気は、土行の呪に吸い上げられ老気(衰えた気)に転ずる。
要するに、火行に傾いた属性の土地は土行の呪によって、一時的に霊力が失われた枯れた状態になるのだ」
「……」
「土地の霊力が枯れたことによって足りなくなった分は、お前の霊力から補填される。
今お前の中の霊力は結界呪に急速に吸い上げられている。
それこそ、今お前が感じている疲労感の正体だ…」
それを聞くころには、王寺はもはや口もきけないほどになっていた。
ふいに絶対防御が解ける。呪を維持することが出来なくなったからである。
それに続くように土のアギトもかき消えた。
残されたのは息も絶え絶えの王寺だけだった。
「安心しろ。殺しはしない。
聞きたいことはいくらでもあるからな」
王寺はもうろうとなる意識の中、その言葉だけを聞いていた。




